最初のシューベルトは若い頃の作品で素朴な味わいがとても好感を持てる演奏。白井圭のヴァイオリンは素直な表現で作曲家の音楽に奉仕するような明快な演奏です。伊藤恵のピアノはドイツ的な安定した表現で、細かいニュアンスを散りばめて、シューベルトの魅力を余すところなく聴かせてくれます。第2楽章の中間部の憧れを感じさせる美しい旋律を二人はパーフェクトに演奏してくれました。
次はシューマンのヴァイオリン・ソナタ 第2番。ファウストとメルニコフのコンビで聴いたばかりです。おそらく、現在、シューマンを弾かせたら、このコンビが世界で最高でしょう。そういう素晴らしい演奏を聴いたばかりでしたが、今日の白井圭&伊藤恵のコンビもそれに並び立つほどの素晴らしい演奏を聴かせてくれました。何と言っても、伊藤恵のピアノが素晴らしく、とても柔らかいタッチで繊細な表現を聴かせてくれます。シューマンの独奏曲を弾くときはもっと重厚な演奏を聴かせてくれますが、ヴァイオリンとのアンサンブルを意識した抑えた表現です。この伊藤恵の最高のピアノの演奏に乗って、白井圭は明快で伸びのあるヴァイオリンの響きを聴かせてくれます。大好きな第3楽章では、伊藤恵の名人芸の分散和音に乗って、白井圭が美しいコラールの旋律を歌い上げます。何とも素晴らしい音楽に魅惑されるだけです。
後半はシューマンのヴァイオリン・ソナタ 第1番。先ほどの第2番のソナタと同様の素晴らしい演奏です。とりわけ、第1楽章の暗い情念に満ちた音楽をパーフェクトに表現。シューマンの音楽の素晴らしさにただただ魅了されます。トータルには、この第1番のほうがよい出来だったかもしれません。シューマンの2つのソナタを聴いただけで大満足です。
しかし、今日の最高の演奏は最後のシューベルトの幻想曲でした。こういう素晴らしい音楽を聴いたのは久々です。シューベルトの晩年の名作を憧れに満ちたロマンあふれる表現で見事に演奏してくれました。特に緩徐パートでの美しさが最高で、ニュアンスに富んだピアノと明快なヴァイオリンの響きの醸し出すロマンの世界はシューベルトの天才ぶりを堪能させてくれました。大変な感動に襲われながら、二人の名演に聴き入っていました。曲も最高、演奏も最高で言うことなしです。
お二人の出会いは白井圭が藝大の学生で伊藤恵が藝大の教授の頃にさかのぼるそうですが、今や、素晴らしいコンビになりましたね。また、こういう演奏の機会があることを願うのみです。
今日のプログラムは以下です。
白井圭 伊藤恵 シューベルト&シューマンの夕べ
ヴァイオリン:白井圭
ピアノ:伊藤恵
シューベルト:ソナチネ 第1番 ニ長調 Op.137-1 D384
シューマン:ヴァイオリン・ソナタ 第2番 ニ短調 Op.121
《休憩》
シューマン:ヴァイオリン・ソナタ 第1番 イ短調 Op.105
シューベルト:幻想曲 ハ長調 Op.159 D934
《アンコール》
シューマン(ヴァイオリン版:アウアー編):森の情景 Op.82より、第7曲 予言の鳥
最後に予習について、まとめておきます。
1曲目、4曲目のシューベルトは以下のCDを聴きました。
アリーナ・イブラギモヴァ、セドリック・ティベルギアン 2012年7月27-29日、8月3-4日 ロンドン、ヘンリー・ウッド・ホール セッション録音
イブラギモヴァは意外に抑えた演奏でシューベルトの音楽を主役に据えた演奏です。幻想曲は圧巻の出来栄えです。
2曲目、3曲目のシューマンの2つのソナタは以下のCDを聴きました。
キャロリン・ヴィドマン、デネーシュ・ヴァーリョン 2007年8月25-27日 オーディトリオ・RTSI・ルガーノ,スイス セッション録音
キャロリン・ヴィドマンは作曲家でクラリネット奏者のイエルク・ヴィドマンを兄に持つ注目の若手ヴァイオリニスト。この演奏は悪くはないのですが、魅了されるほどでもないという演奏。
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