結果、期待以上の素晴らしいオペラに大変、感銘を覚えました。何と言っても、このオペラに関しては、ルチアを歌うコロラトゥーラ・ソプラノの比重がとても高いです。ルチアを歌うロシアのソプラノ、イリーナ・ルングは初聴きです。写真を見る限り、大変な美貌ですが、歌唱力とは関係ありませんね。最初に登場した場面では、まあ、こんなものかと思って、聴き始めます。それほどインパクトのない感じです。声はピュアーで美しいですが、それほどではないと感じたんです。しかし、じっと聴いていると、その優しい歌声に次第に惹き込まれていきます。これまでは実演で3回聴いたグルベローヴァの強烈なルチアの印象が強かったのですが、イリーナ・ルングの等身大のルチアのさりげない女性の優しさと美しさもなかなかの聴きものです。さすがに狂乱の場での迫力は並み居るディーヴァたちには太刀打ちできませんが、それでも、十分なレベルの歌唱を聴かせてくれました。イリーナ・ルングのルチアを聴いたのがすべてと言ってもいい公演でした。
プロダクション全体で言えば、舞台の美しさが見事でした。スコットランドの厳しい波が寄せる海が効果的に取り込まれていました。こういうオペラはやはり、こういう美しい舞台装置がいいですね。意外だったのは主役の二人以外の日本人歌手たちのレベルの高さです。全然、違和感なく聴けます。というよりもエンリーコ役の須藤慎吾、アルトゥーロ役の又吉秀樹は極めて素晴らしい歌唱を聴かせてくれました。第2幕の6重唱も大変な迫力でした。saraiはほとんど、海外、あるいは海外の歌劇場の引っ越し公演でしか、オペラは聴いてこなかったのですが、先日のゲネプロと言い、今回の《ルチア》でも日本人歌手たちのオペラは思わぬレベルになっていたのですね。こうなると、真剣に新国立劇場の来シーズンを聴いてみることを検討しないといけないようです。いかんせん、料金が高めなのがネックですが、海外に行くことを考えれば、仕方がないかもしれません。
そうそう、一番期待していたのは、テノールのローレンス・ブラウンリーでしたが、もうひとつに思えました。それでも終幕でルチアの狂死を知った後のアリアは素晴らしかったです。胸にジーンときました。
指揮は何と女性のスペランツァ・スカップッチ。手堅い指揮できっちりと音楽を仕上げていました。
ちなみにこれまで実演で聴いたルチアでは、ドレスデンのゼンパーオパーでのグルベローヴァのコンサート形式をかぶりつきで聴いたのが最高でした。あの澄み切った声とテクニックは誰にも真似をできませんね。2008年のことです。
今日のキャストは以下です。
【指 揮】スペランツァ・スカップッチ
【演 出】ジャン=ルイ・グリンダ
【美 術】リュディ・サブーンギ
【衣 裳】ヨルゲ・ヤーラ
【照 明】ローラン・カスタン
【ルチア】イリーナ・ルング
【エドガルド】ローレンス・ブラウンリー
【エンリーコ】須藤慎吾
【ライモンド】伊藤貴之
【アルトゥーロ】又吉秀樹
【アリーサ】小林由佳
【ノルマンノ】菅野 敦
【合 唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団
最後に予習について、まとめておきます。
映像版:マルコ・アルミリアート指揮メトロポリタン歌劇場 2009年2月7日、メトロポリタン歌劇場 ライヴ収録
アンナ・ネトレプコ(S)、ピョートル・ベチャワ(T)、マリウーシュ・クヴィエチェン(Br)
ステレオ音声版:トゥリオ・セラフィン指揮フィルハーモニア管弦楽団・合唱団 1959年3月、ロンドン、キングズウェイ・ホール スタジオ録音
マリア・カラス(S)、フェルッチョ・タリアヴィーニ(T)、ピエロ・カップッチッリ(Br)
モノラル音声版:トゥリオ・セラフィン指揮フィレンツェ五月祭管弦楽団・合唱団 1953年1月29,30日、2月3,4,6日、フィレンツェ、テアトロ・コムナーレ セッション録音
マリア・カラス(S)、ジュゼッペ・ディ・ステーファノ(T)、ティト・ゴッビ(Br)
ネトレプコのルチアは迫真の歌唱。映像付きならこれでしょう。カラスのルチアはまったくもって素晴らしい。とりわけ、1953年のモノラル版は絶唱です。
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