ワーグナーと言えば、歌手はもちろんですが、オーケストラの質が問われます。今日ピットに入っていた都響はいつものコンサートのように卓越した弦の演奏を聴かせてくれました。その透明な響きはワーグナーの音楽にぴったり。そして、管も質の高い演奏を聴かせてくれました。オーケストラピットの底が深くて、どういうメンバーが演奏していたのか、分からなかったのが残念です。ただ、それは下から湧き上ってくるサウンドの効果が素晴らしく、ちょっとバイロイトのような雰囲気でした。
合唱はいつも素晴らしい歌唱を聴かせてくれる新国立劇場合唱団に加えて、二期会合唱団。悪かろう筈はありません。惜しむらくは多分コロナ対策なんでしょうが、少し人数を絞っているせいか、終盤の大迫力の歌唱がさらなるものであったらと思いました。
歌手はハンス・ザックス役のトーマス・ヨハネス・マイヤーの深々した歌唱、そして、よく考え抜かれた表現力が傑出していました。ヴァルター・フォン・シュトルツィング役のシュテファン・フィンケもよく伸びた高域の声に魅了される歌唱でした。第3幕の「ヴァルターの夢解きの歌」の素晴らしさにはとても感銘を受けました。そして、日本人歌手でもエーファ役の林 正子はスケールの大きな歌唱で魅了してくれました。R.シュトラウスやワーグナーでここまで歌える日本人ソプラノがいることは心強いものです。第3幕の第4場での五重唱の中心で歌ったときには感動しました。《薔薇の騎士》の3重唱を思い出してしまいました。
思いのほか、感銘を受けたのは第2幕です。第2場のポークナーとエファの父と娘が語り合うシーンでのファイト・ポーグナー役のギド・イェンティンスのしみじみした歌唱が素晴らしく、ここから第2幕が音楽的に深まっていきます。続く第3場でのザックスのニワトコのモノローグも深い心情に満ちたものです。以降、まるで《トリスタンとイゾルデ》の第2幕を思わせるような雰囲気に惹き込まれてしまいました。
第3幕はもちろん、素晴らしく、先ほども書きましたが第3幕の第4場での五重唱で感動のあまり、涙が滲みます。第3幕を通して、都響の演奏レベルの高さに心を奪われました。大野和士の音楽表現も最高でした。彼はやはり、オペラ指揮にこそ本領を発揮しますね。最後の第5場はもう圧巻の出来でした。オーケストラと合唱による「マイスタージンガーの動機」を中心とした音楽的高揚感は何者にも代えがたいオペラの素晴らしさを味わわせてもらえるもの。何も言う言葉はありません。こういうものが聴きたくて、オペラ公演に足を運ぶんです。
とりとめのない感想に終始しましたが、ともかく素晴らしいワーグナーでした。休憩時間も含め、6時間という大作を堪能しました。もちろん、最後はお尻が痛くなりましたけどね。
今日のキャストは以下です。
【指 揮】大野和士
【演 出】イェンス=ダニエル・ヘルツォーク
【美 術】マティス・ナイトハルト
【衣 裳】シビル・ゲデケ
【照 明】ファビオ・アントーチ
【振 付】ラムセス・ジグル
【演出補】ハイコ・ヘンチェル
【舞台監督】髙橋尚史
【ハンス・ザックス】トーマス・ヨハネス・マイヤー
【ファイト・ポーグナー】ギド・イェンティンス
【クンツ・フォーゲルゲザング】村上公太
【コンラート・ナハティガル】与那城 敬
【ジクストゥス・ベックメッサー】アドリアン・エレート
【フリッツ・コートナー】青山 貴
【バルタザール・ツォルン】秋谷直之
【ウルリヒ・アイスリンガー】鈴木 准
【アウグスティン・モーザー】菅野 敦
【ヘルマン・オルテル】大沼 徹
【ハンス・シュヴァルツ】長谷川 顯
【ハンス・フォルツ】妻屋秀和
【ヴァルター・フォン・シュトルツィング】シュテファン・フィンケ
【ダーヴィット】伊藤達人
【エーファ】林 正子
【マグダレーネ】山下牧子
【夜警】志村文彦
【合唱指揮】三澤洋史
【合 唱】新国立劇場合唱団、二期会合唱団
【管弦楽】東京都交響楽団
最後に予習について、まとめておきます。
ホルスト・シュタイン指揮バイロイト祝祭管弦楽団・合唱団 演出: ヴォルフガング・ヴァーグナー 1984年、バイロイト祝祭劇場
ベルント・ヴァイクル、マンフレート・シェンク、
ジークフリート・イェルザレム、マリ・アンネ・ヘガンダー、ヘルマン・プライ
結局、昔も今もこの映像版を見ることになります。今回、予習のために聴き直して、その素晴らしさに圧倒されました。特に第3幕は圧巻です。リヒャルト・ヴァーグナーの孫ヴォルフガング・ヴァーグナーの残した遺産です。
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