コロナ禍で延期が続いたプラジャーク・クァルテットのベートーヴェン・チクルスが遂に開幕しました。6夜に及ぶチクルスのうち、5夜を聴きます。
今日の後半の弦楽四重奏曲 第7番 「ラズモフスキー第1」は素晴らしい演奏でした。昨日、来日したばかりですが、その疲れも見せずに大曲を高いレベルで演奏してくれました。この有名曲はベートーヴェンの傑作の森と言われている壮年期に書かれた作品で、英雄交響曲が書かれた後、ラズモフスキーセット3曲が作られ、これはその最初の曲です。
第1楽章、チェロのミハル・カニュカが颯爽としたテーマをターターターターターと弾き始め、そのテーマを第1ヴァイオリンのヤナ・ヴォナシュコーヴが引き継ぎます。もう、この時点ですっかりと音楽の素晴らしさに魅了されます。集中して聴き入ります。後半の展開部では対位法的な展開が素晴らしく、一段と緊張感が高まります。圧倒的な音楽が進行して、長大な第1楽章が終わります。ふーっ・・・。第2楽章はさらにヒートアップ。この楽章も長大ですが、その魅力にはまって聴き入ります。第3楽章は深々とした音楽が奏でられます。その美しさには哀愁が漂います。よい意味で映画音楽を聴いている気持ちにもなります。これが後期の四重奏曲では諦観も漂うのでしょうが、この頃、ベートーヴェンは35歳頃で創作力の頂点に達していました。美しさの限りを尽くしたような音楽をプラジャーク・クァルテットの4人は奏でていきます。いつまでも続いていってほしいと願うような素晴らしい音楽です。しかし、第1ヴァイオリンのヤナ・ヴォナシュコーヴがとびっきり美しいカデンツァを奏で、その横から、第2ヴァイオリンのヴラスティミル・ホレクが譜面を代わりにめくっていると、そのまま、勢いに満ちた第4楽章に突入します。4人、息の合った演奏でコーダに突き進みます。いったん、テンポを落とした後、壮大な終結。素晴らしい演奏でした。実に満足できる演奏でした。この後のチクルスがますます、楽しみになってきました。
さて、前半は初期の弦楽四重奏曲 第1番。これもこれまでよく親しんできた名曲。懐かしい友に再会したような思いで気持ちよく聴けました。プラジャーク・クァルテットは力が抜けた安定感のある演奏できっちりとまとめあげた演奏を聴かせてくれました。これも満足の演奏。続く弦楽四重奏曲 ヘ長調 Op.14-1はピアノ・ソナタ第9番 ホ長調 Op. 14 No. 1 をベートーヴェン自身が編曲したものです。それほど演奏機会がありませんから、これが聴けるのは貴重です。まるでハイドンの晩年の作品を聴いているような美しい演奏です。15分ほどの比較的短い音楽がさっと終わりました。
やはり、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲は何ものにも優る音楽です。しばらく、その世界に浸れる幸福感でいっぱいです。それにこの鶴見の100人しか聴けないホールの響きは最高です。なんという贅沢なんでしょう。さらに付け加えると、このホールで海外のカルテットが演奏するのは実に2年3か月ぶりです。コロナ禍は何と音楽の楽しみまでも奪ってきたんでしょう。今後は海外の演奏家が自由に来日できることを祈るばかりです。
今日のプログラムは以下です。
弦楽四重奏:プラジャーク・クァルテット
ヤナ・ヴォナシュコーヴ vn ヴラスティミル・ホレク vn
ヨセフ・クルソニュ va ミハル・カニュカ vc
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第1番 ヘ長調 Op.18-1
弦楽四重奏曲 ヘ長調 Op.14-1
《休憩》
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第7番 ヘ長調 Op.59-1「ラズモフスキー第1」
《アンコール》
なし
最後に予習について触れておきます。
今回の予習はお気に入りのリンゼイ四重奏団の全集を聴くことにします。彼らは2度、全集を録音していますが、今回は新盤(2000年~2001年録音)を聴きます。
1曲目の弦楽四重奏曲 第1番は以下のCDを聴きました。
リンゼイ四重奏団 2000年1月17-18日 ウェントワース、ホーリー・トリニティ教会 セッション録音
まるで後期の四重奏曲を聴いているような感じを時折、感じさせられます。
2曲目の弦楽四重奏曲 ヘ長調 Op.14-1は以下のCDを聴きました。
リンゼイ四重奏団 2000年1月19日 ウェントワース、ホーリー・トリニティ教会 セッション録音
安定感のある演奏です。
3曲目の弦楽四重奏曲 第7番 「ラズモフスキー第1」は以下のCDを聴きました。
リンゼイ四重奏団 2000年1月24-25日 ウェントワース、ホーリー・トリニティ教会 セッション録音
素晴らしい演奏です。これも後期を連想するような演奏です。
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