まずはフォーマルないでたちで颯爽と現れて、モーツァルトの交響曲 第35番 《ハフナー》。さすがにウィーンっ子であることを示すようなきびきびした素晴らしい演奏を聴かせてくれます。彼も一流オーケストラしか知らないためか、オーケストラへの要求水準が高いですね。東響は持てる力を尽くしての演奏です。緊張感の高い第1楽章に続いて、美しかったのは第2楽章。見事な音楽表現です。第3楽章、第4楽章は張りのある演奏で気持ちを昂らせてくれました。
次はいよいよ、本業のクラリネット。メンデルスゾーンの無言歌集より、彼が編曲した8曲です。弦楽五重奏版をそのまま、弦楽オーケストラ版に置き換えたのでしょう。ふーん、これが名人の業なのね。妙にクラリネットが出しゃばらない演奏です。特に「ヴェネツィアの舟歌」の2曲、そして、「そよぐ風」が素晴らしい音楽になっていました。ただ、吹き振りというのは初めて見ましたが、なにか、せわしない印象です。最初のキューだけ出して、あとはクラリネット演奏に徹すればよかったのでは。
後半はウェーバーの「オベロン」序曲。短い曲ですが、特にテンポが早い主部の演奏が聴きものでした。ドイツ音楽を創生したウェーバーの美しいロマンと深々とした精神を体現した演奏でした。
最後が今日のメイン、ブラームス/ベリオ編のクラリネット・ソナタ(管弦楽版)。吹き振りのせいか、ちょっと散漫になった感じも否めません。もっとも見ていた印象が大きいので、目をつぶって聴いていたら、もっと感銘があったかもしれません。いずれにせよ、指揮者がちゃんといて、オッテンザマーはクラリネットに専業して演奏してほしかった感じです。ただ、珍しい曲を珍しい形態で聴けた意義はありました。本来、この名曲は原曲通り、クラリネットとピアノで聴くほうが晩年のブラームスの味わいを感じられるので、こういうものもあるのねっていう聴き方にならざるを得ません。
とても珍しい形態のコンサートを聴けた楽しみは十分ありました。アンドレアス・オッテンザマーの指揮者としての今後の可能性はかなり期待できるのではないかと感じました。
今日のプログラムは以下のとおりです。
指揮&クラリネット:アンドレアス・オッテンザマー
管弦楽:東京交響楽団 コンサートマスター:グレブ・ニキティン
モーツァルト:交響曲 第35番 ニ長調 K.385《ハフナー》
メンデルスゾーン:無言歌集より(オッテンザマー編曲クラリネットと弦楽オーケストラ版)
第2巻「道に迷った人」 op.30-4
第1巻「ヴェネツィアの舟歌 第1」 op.19-6
第5巻「春の歌」op.62-6
第6巻「羊飼の嘆き」 op.67-5
第7巻「別れ」 op.85-2
第8巻「そよぐ風」op.102-4
第8巻「子供のための小品」op.102-5
第2巻「ヴェネツィアの舟歌 第2」 op.30-6
《休憩》
ウェーバー:「オベロン」序曲
ブラームス/ベリオ編:クラリネット・ソナタ ヘ短調(管弦楽版)
最後に予習について、まとめておきます。
1曲目のモーツァルトの交響曲 第35番 《ハフナー》を予習したCDは以下です。
ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団 1960年1月8日~10日、クリーヴランド、セヴェランス・ホール セッション録音
このコンビの演奏のモーツァルトの何と素晴らしいことか。引き締まった表現で古典派音楽の本質を突いた演奏です。
2曲目のメンデルスゾーンの無言歌集を予習したCDは以下です。
アンドレアス・オッテンザマー、シューマン・カルテット、グナルス・ウパトニアクス(コントラバス) 2021年6月リリース
アンドレアス・オッテンザマー自身が編曲した弦楽五重奏との共演です。ユジャ・ワンのピアノと共演したものもアルバムに含んでいます。同じ曲を弦楽五重奏共演版とピアノ共演版で聴き比べる贅沢ができます。
3曲目のウェーバーの「オベロン」序曲を予習したCDは以下です。
ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団 1970年5月22日、東京文化会館ライヴ、NHK録音 ライヴ録音
セル最初で最後となった来日公演で唯一残された貴重な公演記録で、離日後2ヶ月で亡くなったセルにとっては現存する最後の実況録音でもあります。同日演奏されたシベリウス交響曲第2番、モーツァルト交響曲第40番、ベルリオーズ“ラコッツィー行進曲”も素晴らしい演奏です。何故、saraiがこのときのセルの公演を聴き逃がしたのか、残念でなりません。この頃、学生だったsaraiは日本の音楽ジャーナリズムの発信情報を信じて、セルを過小評価していたことが一番の原因です。音楽は自分の耳のみを信じて聴いてみないと何も分かりません。ちなみにsaraiが聴けた筈の京都公演(5月20日)では、セルの得意にしていたエロイカが聴けたようです。うーん、悔しい。
4曲目のブラームス/ベリオ編のクラリネット・ソナタ(管弦楽版)を予習したCDは以下です。
ファウスト・ギアッツァ、リッカルド・シャイー指揮ミラノ・ジュゼッペ・ヴェルディ交響楽団 2004年 セッション録音
リッカルド・シャイーによるルチアーノ・ベリオの編曲管弦楽曲集のアルバムで、ボッケリーニ/ベリオ編「マドリードの夜の帰営ラッパ」なども含んだ貴重な録音です。
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