前半の3曲、シュニトケ、シューベルト、ストラヴィンスキーも彼女の美点である伸びのあり、潤いに満ちた響きで素晴らしい演奏でした。
しかし、凄かったのは後半のショスタコーヴィチのヴァイオリン・ソナタ。聴く前はこの曲は辻彩奈には似合わないと思っていました。が、その演奏は前半とはヴァイオリンの響きを変えて、冷たく暗い響きで、色彩感をなくして、モノクロームの世界を思わせます。そして、むきだしの魂をぶつけるような気魄の演奏です。一瞬、天才ヴィオリスト、田原綾子の弾いたショスタコーヴィチのヴィオラ・ソナタを思い出しました。若手の二人が共通して取り組んだのがショスタコーヴィチのソナタで、いずれも熱い共感の魂の演奏です。
辻彩奈の第1楽章の演奏がショスタコーヴィチの本質を突いた暗い演奏です。それでいて、彼女の美しい響きも兼ね備えた鉄壁の演奏です。サポートするピアノの阪田知樹も途轍のないテクニックと音楽性で辻彩奈と深い音楽の世界を探求していきます。第2楽章は怒涛のような演奏。辻彩奈のこんなに気魄のこもった演奏を初めて聴きます。うーん、これならバルトークも聴きたいですね。第2楽章は一気呵成の演奏でした。そして、第3楽章は第1楽章と同様の無明の世界です。暗い中に一筋の光が差すような雰囲気の途轍もない音楽です。途中、阪田知樹の物凄いピアノ独奏もあり、高い緊張感を保ったまま、音楽を閉じます。深い感銘を受けました。
辻彩奈は表現の幅を広げ、どんどん進化していきます。その行きつく先はどのような世界になるのでしょうか。saraiが彼女の熟成した音楽を聴くことはないでしょう。実に残念です。せめて、その熟成過程の一端は聴き続けましょう。ヴァイオリンは既に高みに到達した庄司紗矢香、そして、若手の辻彩奈と金川真弓。この3人の演奏は今後とも聴き逃がせません。
今日のプログラムは以下です。
辻 彩奈&阪田知樹 デュオ・リサイタル
ヴァイオリン:辻彩奈
ピアノ:阪田知樹
シュニトケ:喜びのロンド
シューベルト:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第1番 ニ長調 D384
ストラヴィンスキー:イタリア組曲
《休憩》
ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン・ソナタ Op.134
《アンコール》
ショスタコーヴィチ(ツィガノフ編曲):24の前奏曲 Op.34より 第10番 嬰ハ短調
パラディス:シチリアーノ
最後に予習について、まとめておきます。
1曲目のシュニトケの喜びのロンドは以下のCDを聴きました。
ダニエル・ホープ、アレクセイ・ボトヴィノフ 2019年10月31日-11月1日、ボン、ベートーヴェン・ハウス セッション録音
ギドン・クレーメル、クリストフ・エッシェンバッハ 1993年12月 セッション録音
シュニトケとゆかりの深いダニエル・ホープは実に明快な演奏。そして、やはり、シュニトケと言えば、クレーメルですね。
2曲目のシューベルトのヴァイオリンとピアノのためのソナタ第1番は以下のCDを聴きました。
アリーナ・イブラギモヴァ、セドリック・ティベルギアン 2012年7月27-29日、8月3-4日 ロンドン、ヘンリー・ウッド・ホール セッション録音
今や、目の離せない存在となったイブラギモヴァが10年前に録音したシューベルトです。実に新鮮な演奏を聴かせてくれます。
3曲目のストラヴィンスキーのイタリア組曲は以下のCDを聴きました。
イツァーク・パールマン、ブルーノ・カニーノ 1974年 セッション録音
名手パールマンの美しい響きです。
4曲目のショスタコーヴィチのヴァイオリン・ソナタは以下のCDを聴きました。
イザベル・ファウスト、アレクサンドル・メルニコフ 2011年3月、テルデックス・スタジオ、ベルリン セッション録音
ファウスト、メルニコフの名コンビの素晴らしい演奏です。
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