今日の曲目はアルディッティ・クァルテットにしては、20世紀以降の音楽の中で既に古典の座になってきたベルク、デュティユー、リゲティの代表作という比較的、分かりやすいものを演奏してくれます。前回の公演ではsaraiには理解不能な作品が多かったんです。我が国を代表する作曲家、細川俊夫さんの作品もしっかり、プログラムに組み込んであります。あながち、日本でのコンサートだからだけというわけでもないでしょう。細川俊夫さんは国際的な評価が高い作曲家ですからね。
まずは、新ヴィーン楽派のベルクの弦楽四重奏曲です。アルディッティ・クァルテットの録音した演奏とは異なり、のっけから、テンションが高い演奏です。ベルクらしい熱いウィーンの夜、それもねっとりとした夜を思わせます。後期ロマン派が行き着いた表現主義的な音楽が先鋭的な演奏で演奏されます。無調とかそういうことは関係なく、夜の闇の危険な雰囲気を醸し出しています。ある意味、まるでオペラの《ヴォツェック》、《ルル》みたいですね。うーん、素晴らしい! 見事な演奏でした。
次はデュティユーの弦楽四重奏曲「夜はかくの如し」です。無調と調性が入り混じるような幻想的な作品ですが、ベルクとは異なる夜の表現です。ある意味、もっと健康的かもしれません。アルディッティ・クァルテットの凄いのはその音響。音響に魅了されているうちに曲が終了。ベルクに続けて演奏されると、ベルクの毒に侵されているので、なんだか、物足りない感じになります。
休憩後、細川俊夫のパッサージュ(通り路)。2019年に高崎芸術劇場でアルディッティ・クァルテットにより、初演されたばかりです。(2019年の来日時、この鶴見のホールでもアルディッティ・クァルテットの演奏を聴きました。この作品は演奏されませんでしたけどね。) これはまさに現代音楽。分かったというと嘘になります。難解な作品ですが、アルディッティ・クァルテットの手の内にはいったような演奏は見事でした。演奏終了後、作曲者の細川俊夫さんが舞台にあがりました。来ておられたんですね。
最後はリゲティの弦楽四重奏曲 第2番です。リゲティは弦楽四重奏曲を2曲書いていて、第1番はハンガリーから亡命する前の1954年の作曲で、亡命後のような前衛的な手法で作曲することはなく、まるでバルトークの弦楽四重奏曲 第4番あたりの感じの作品です。そして、今日演奏された第2番は亡命後、シュトックハウゼンらの現代音楽の手法に影響されて、トーン・クラスター、ポリリズムなどの手法を駆使して、前衛的な音楽として書かれました。書かれたのは1968年です。スタンリー・キューブリック監督作「2001年宇宙の旅」で使われて有名になったルクス・エテルナ(1966年)が書かれた2年後のことです。もちろん、これはバルトークよりも前衛的な作品ですが、saraiの耳には、むしろ、このリゲティはフツーに聴けます。アルディッティ・クァルテットの演奏は超絶的に素晴らしいものでした。いかに前衛的な手法を使っていても、やはり、リゲティの作品は音楽的な内容がリッチに詰まっています。アルディッティ・クァルテットはある意味、それを明快に演奏してくれます。彼らが超絶技巧を誇っているからでしょう。第2楽章はルクス・エテルナを彷彿とさせる宇宙的な空間イメージを感じさせますし、第3楽章のピチカートのポリリズムは心地よい限りです。そして、第5楽章はもはや、古典的な感覚を覚え、その素晴らしい演奏に陶然とします。
終演後、拍手が鳴り止まず、予定外のアンコールです。アーヴィン・アルディッティがリゲティ・アゲインと言って、再度、第3楽章のピチカートのポリリズムを聴かせてくれました。ちなみにポリリズム polyrhythmというのは、リズムの異なる声部が同時に奏されることです。微妙に4人の弦のピチカートのリズムがずれていく様は神業的な演奏でした。
今日のプログラムは以下です。
弦楽四重奏:アルディッティ・クァルテット
アーヴィン・アルディッティvn アショット・サルキシャンvn
ラルフ・エーラースva ルーカス・フェルスvc
ベルク:弦楽四重奏曲 Op.3
デュティユー:弦楽四重奏曲「夜はかくのごとし」
《休憩》
細川俊夫:パッサージュ(通り路)
リゲティ:弦楽四重奏曲 第2番
《アンコール》
リゲティ:弦楽四重奏曲 第2番 から 第3楽章
最後に予習について、まとめておきます。
1曲目のベルクの弦楽四重奏曲は以下のCDを聴きました。
アルディッティ・クァルテット 1989年5月1日、ロンドン、アビーロード スタジオ セッション録音
以前聴いたアルバン・ベルク四重奏団と同様、幾分、ドライな感じの演奏ですが、もちろん、超一級の演奏です。
2曲目のデュティユーの弦楽四重奏曲「夜はかくのごとし」は以下のCDを聴きました。
アルディッティ・クァルテット 2005年4月9日、ロンドン、ウィグモアホール ライヴ録音
以前聴いたベルチャ弦楽四重奏団、アルカント・カルテットと同様に最高級の素晴らしい演奏です。
3曲目の細川俊夫のパッサージュ(通り路)は初演したアルディッティ・クァルテットのCDが出ているようですが、入手できず、予習できませんでした。
4曲目のリゲティの弦楽四重奏曲 第2番は以下のCDを聴きました。
アルディッティ・クァルテット 2005年4月9日、ロンドン、ウィグモアホール ライヴ録音
この作品を献呈されたラサール四重奏団の録音も素晴らしかったのですが、アルディッティ・クァルテットのテクニックは凄いです。
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