今日はいきなり、晩年の《白鳥の歌》。プログラムの前半にルードヴィヒ・レルシュタープの詩による7曲。後半にハインリヒ・ハイネの詩による6曲。ザイドルの詩による第14曲「鳩の便り」はプログラムに含まれていません。新シューベルト全集では「鳩の便り」は他の13曲とは分離されているからでしょう。
前半はまず、ベートーヴェンの連作歌曲《遥かなる恋人に寄す》から始まります。saraiが学生時代によく聴いていた(歌っていた)曲なので、とても懐かしく感じます。プレガルディエンは飛びっきり、郷愁に満ちた歌唱で魅了してくれます。ソット ヴォーチェの見事な歌唱に酔い痴れます。ベートーヴェンはこの曲を書いた時期、スランプだったそうですが、既にロマン派のリートを先取りしたような音楽を書いていたことに驚きます。冒頭と最後の曲は同じ旋律に基づいていますが、その曲がとても素晴らしく歌われました。
次はいよいよシューベルトの《白鳥の歌》。ルードヴィヒ・レルシュタープの詩による7曲です。これはやはり、絶品です。ソット ヴォーチェによる抒情的な歌唱にうっとりと聴き入ります。やはり、プレガルディエンは美声ですね。第4曲の有名なセレナーデは見事に歌い上げられます。第5曲の居場所あたりから、抒情を突きぬけた歌唱になり、第6曲の《遠い地で》は恐ろしいほど深遠を感じさせる歌唱です。シューベルトはここに至り、美しい歌曲を抜け出て、芸術の真髄に到達したかに思われます。プレガルディエンの歌唱も技術も音楽表現も最高です。ただただ、感動します。最後の第7曲 別れが美しく歌い上げられて、前半のプログラムが終了。うーん、素晴らしかった!
後半はブラームスの歌曲からです。これはソット ヴォーチェではなく、強い歌唱で歌い上げられます。saraiの大好きな〈永遠の愛〉、素晴らしい歌唱に満足でした。
そして、いよいよ、《白鳥の歌》のハインリヒ・ハイネの詩による6曲です。ハイネの詩の持つ意味にこれほど迫った歌を書いたシューベルトの凄さに感嘆しながら、その詩情の世界に浸ります。第12曲 海辺で は何と深い音楽なんでしょう。プレガルディエンも絶唱です。第11曲 町 も凄い! 第13曲 もう一人の俺 は信じられないほどの暗い高みに達しています。第9曲 あの娘の絵姿 は壮絶に美しい世界です。そして、最後の第8曲 アトラス は深さと強さを合わせ持った歌唱で全篇を閉じます。
シューベルトの最後の歌曲群を歌い切ったプレガルディエンのソットヴォーチェから強い歌唱までの最高の音楽表現に魅了されました。
拍手に応えて、アンコール。もちろん、シューベルトの絶筆と言われるザイドルの詩による第14曲「鳩の便り」です。軽いノリの抒情的な作品ですが、プレガルディエンの見事な歌唱で強く感動します。これがシューベルトが我々に最後に残してくれた曲。明るい別れの中に憂愁を感じます。我が心に D860に続き、アンコールの最後はシューベルトの夜と夢。曲目紹介はプレガルディエンとゲースが声を合わせていました。以前、プレガルディエンのリサイタルの際もこれがアンコールの最後でした。プレガルディエンがお好きな曲だそうです。彼の美しい高音がこの曲を見事に表現していました。
シューベルトの三大歌曲集、次は《美しき水車屋の娘》。楽しみです。
今日のプログラムは以下です。
テノール:クリストフ・プレガルディエン
ピアノ:ミヒャエル・ゲース
ベートーヴェン:連作歌曲《遥かなる恋人に寄す》Op.98
第1曲 僕は丘の上に腰を下ろして/第2曲 青い山なみが/第3曲 空高く軽やかに飛ぶ雨ツバメよ/
第4曲 高みにある雲の群れも/第5曲 五月はめぐり/第6曲 受け取ってください、これらの歌を
シューベルト:白鳥の歌 D957より 詩:ルードヴィヒ・レルシュタープ
第1曲 愛の言づて/第2曲 兵士の予感/第3曲 春のあこがれ/第4曲 セレナーデ/
第5曲 居場所/第6曲 遠い地で/第7曲 別れ
《休憩》
ブラームス:《リートと歌》より〈君の青い瞳〉Op.59-8
ブラームス:《4つの歌》より〈永遠の愛〉Op.43-1
ブラームス:《低音のための6つのリート》より〈野の中の孤独〉Op.86-2
ブラームス:《プラーテンとダウマーによるリートと歌》より〈飛び起きて夜の中に〉Op.32-1
ブラームス:《低音のための5つのリート》より〈教会の墓地で〉Op.105-4
シューベルト:白鳥の歌 D957より 詩:ハインリヒ・ハイネ
第10曲 魚とりの娘/第12曲 海辺で/第11曲 町/第13曲 もう一人の俺/
第9曲 あの娘の絵姿/第8曲 アトラス
《アンコール》
シューベルト:鳩の使い D965A
シューベルト:我が心に D860
シューベルト:夜と夢 D827
最後に予習について、まとめておきます。
ベートーヴェンの連作歌曲《遥かなる恋人に寄す》を予習したCDは以下です。
イアン・ボストリッジ、アントニオ・パッパーノ 2019年10月2-4日、ロンドン、ハムステッド、セント・ジュード・オン・ザ・ヒル教会 セッション録音
ボストリッジの歌唱に魅了されます。まさに歌の心情に触れる思いです。
シューベルトの白鳥の歌を予習したCDは以下です。
イアン・ボストリッジ、アントニオ・パッパーノ 2008年8月15~17日 ロンドン、アビーロード・スタジオ セッション録音
ボストリッジの知的なアプローチが素晴らしいです。
ブラームスの歌曲を予習したCDは以下です。
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ、ダニエル・バレンボイム 1978年~82年 セッション録音
とても美しい歌唱。まあ、フィッシャー=ディースカウが歌えば、ドイツ・リートはすべて素晴らしいですけどね。
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