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クリストフ・プレガルディエン、シューベルト三大歌曲集を歌う《冬の旅》 生きることの痛みと絶望の果て リートの森@トッパンホール 2022.10.5

クリストフ・プレガルディエンの歌うシューベルトの三大歌曲集の第3夜目は《冬の旅》。
誰しもそうでしょうが、ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウのLPレコードでこの音楽、そして、ドイツ・リートの素晴らしさに魅了されました。それが高校生の頃です。レコードを擦り切れるほど聴いた挙句、自分でも歌いたくなり、大学に進学した後、第2外国語にドイツ語を選択し、ドイツ語の発音を勉強しました。京都の夜の路地を彷徨いながら、一人、冬の旅を歌っていました。saraiの青春の大切な思い出です。

今日の歌唱はもちろん、次元の異なるものでした。シューベルトがこんなにも生きることに痛みを感じ、絶望していたことを覚らされるような絶唱でした。全24曲のうち、最初の6曲はそれでも人生の美しさを感じさせるものでした。saraiが愛唱していた第1曲の《おやすみ》やあの菩提樹、そして、第6曲の《あふれる涙》。辛い人生は感じていても、そこにはそこはかとなく、人生の哀愁が漂い、何と言っても美しいメロディーがあります。しかし、次の6曲は一挙に暗い奈落に落ち込んでいきます。その中で、第11曲の《春の夢》でふっと甘い憧れが現れると、かえって逆説的に聴いているほうが辛く感じてしまい、その切なさに感極まって、涙が滲みます。そして、第12曲の《孤独》でどうしようもない絶望感に陥ります。シューベルトはここにきて芸術を極めるのですが、それは何という深い絶望の淵に落ち込んでの辛く厳しい道だったのでしょう。
この最初の12曲がシューベルトが最初に書いた《冬の旅》です。ここまでで一応の完結をみます。ここで終わっても芸術史上、稀に見る傑作だったでしょう。しかし、続いて書かれた12曲は恐ろしいほど暗く寂しい曲ばかりですが、シューベルトが到達した最高傑作に間違いありません。その先にあるのは翌年の亡くなる年に書かれた遺作の3曲のピアノ・ソナタです。今回、久しぶりに《冬の旅》を聴いて、シューベルトがどうして、あの3曲のピアノ・ソナタを書いたのかが少しばかり分かったような気がします。シューベルトは自分の死を覚悟した上で最晩年の傑作群を書いたのでしょう。芸術家は何と厳しい人生を送るのでしょう。

ともあれ、後半の12曲です。その最初の6曲は深い絶望感に覆われたモノクロームの世界。美しいメロディーなど無縁の人生に決別するような厳しさです。聴いていて辛くなります。クリストフ・プレガルディエンの表現力は力を増して、聴衆を叩きのめすようなものです。我々の生きる世界はこんなにも苦しく、切ないものなのかと問いかけられます。
続く最後の6曲で明かりが少し差してきますが、それは薄明です。絶望の先によろよろと生きていく希望のない世界。我々にはどこにも行き場がありません。最後の2曲のやるせなさには深い痛みを感じるのみです。シューベルトが芸術の高みに極めたものはロマン派の世界を超えて、現代芸術につながるもの。虚無・・・。

クリストフ・プレガルディエンは大変な歌唱を聴かせてくれました。今回のシューベルトの三大歌曲集で、冬の旅を最後に歌った意味がよく分かりました。そして、シューベルトの芸術の真髄に迫る歌唱にはただただ深い感銘を覚えるのみです。生きているうちにこんなものが聴けてよかった・・・。


今日のプログラムは以下です。

  テノール:クリストフ・プレガルディエン
  ピアノ:ミヒャエル・ゲース

  シューベルト:冬の旅 D911
   1. おやすみ Gute Nacht
   2. 風見の旗 Die Wetterfahne
   3. 凍った涙 Gefror'ne Tranen
   4. かじかみ Estarrung
   5. 菩提樹  Der Lindenbaum
   6. あふれる涙  Wasserfult
   7. 川の上で Auf dem Flusse
   8. 回想 Ruckblick
   9. 鬼火 Irrlict
   10. 憩い Rast
   11. 春の夢 Fruhlingstraum
   12. 孤独 Einsamkeit

   13. 郵便馬車 Die Post
   14. 霜おく髪 Der greise Kopf
   15. からす Die Krahe
   16. 最後の希望 Letzte Hoffnung
   17. 村で Im Dorfe
   18. 嵐の朝 Der sturmische Morgen
   19. まぼろし Tauschung
   20. 道しるべ Der Wegweiser
   21. 宿屋 Das Wirtshaus
   22. 勇気 Mut
   23. 幻の太陽 Die Nebensonnen
   24. 辻音楽師 Der Leiermann

   《休憩》なし

   《アンコール》

  シューベルト:夜の曲 D672
  シューベルト:ヴィルデマンの丘を越えて D884
  シューベルト:さすらい人の夜の歌1 D224
  シューベルト:夜と夢 D827


最後に予習について、まとめておきます。

シューベルトの冬の旅を予習したCDは以下です。

  クリストフ・プレガルディエン、ミヒャエル・ゲース 2012年9月2-5日 ギャラクシー・スタジオ、モル、ベルギー セッション録音

プレガルディエン、渾身の歌唱です。



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首都圏の様々なジャンルのクラシックコンサート、オペラの感動をレポートします。在京オケ・海外オケ、室内楽、ピアノ、古楽、声楽、オペラ。バロックから現代まで、幅広く、深く、クラシック音楽の真髄を堪能します。
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06/18 08:33 五十棲郁子

 ≪…明恵上人…≫の、仏眼仏母(ぶつげんぶつも)から、百人一首の本歌取りで数の言葉ヒフミヨ(1234)に、華厳の精神を・・・

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