fc2ブログ
 
  

同時代の聴衆の心をインスパイアする細川俊夫のヴァイオリン協奏曲の日本初演 読売日本交響楽団@サントリーホール 2023.7.27

このところ、読響の定期では日本初演の演奏が続きます。意欲的なチャレンジですね。
その細川俊夫の新作はヴァイオリン独奏の樫本大進の見事な演奏も相俟って、凄い演奏に背筋がゾクゾクする思いです。コロナ禍、ウクライナ戦争という全世界を揺るがす問題、そして、作曲者の母の死、ついでに言うならsaraiの母の死という個人的な衝撃をまっこうから見据えたとも思える作品は同時代を生きるすべての人々の心を揺るがせ、そして、鎮魂をこめた大変な傑作に仕上がっています。ベルクのヴァイオリン協奏曲を下敷きにしたかのように、限界状況下で悩み苦しむ実存を独奏ヴァイオリンが演じ、その実存と対峙する世界を管弦楽が奏でます。冷酷とも言える世界の中でもがき苦しみつつ、実存は世界にメッセージを発信し続けて、最後は鎮魂の中に浄化されていきます。リゲティを継承したような音響を連想する音楽は世界を救えるかという究極のテーマに挑戦した真摯な作品です。この音楽に襟を正される思いになりました。細川俊夫の最高傑作の誕生だと実感しました。そうそう、ヴァイグレが指揮した読響のサポートの素晴らしさはベルリン・フィルの世界初演を上回るような演奏に思えました。樫本大進の演奏も世界初演のとき以上にこなれていたように感じました。そして、サントリーホールの聴衆もベルリンフィルハーモニーの聴衆以上に受容力があったのではないかしらね。saraiの勝手な想像です。(なお、ベルリンフィルハーモニーでの3月2日のパーヴォ・ヤルヴィ指揮ベルリン・フィルの世界初演に続き、ルツェルンのコングレスセンターでマイケル・ザンデルリンク指揮ルツェルン交響楽団が樫本大進をソリストに迎え、6月15日にスイス初演を終えています。)

この作品に先立って演奏されたモーツァルトのフリーメイソンのための葬送音楽も鎮魂の音楽。ヴァイグレの素晴らしい指揮で実に内容のある音楽として演奏されました。深い味わいを感じました。

後半はまた、モーツァルト。モーツァルトがパリ滞在時に作曲した交響曲第31番「パリ」です。モーツァルトはオペラとピアノ協奏曲で傑作を生み出しましたが、この交響曲はまるで、オペラのような味わいでヴァイグレが絶妙な演奏を聴かせてくれました。第1楽章は《フィガロの結婚》序曲を連想するような活き活きとした演奏で、心を浮き立たせてくれます。やはり、ヴァイグレはオペラ指揮者なのですね。第1楽章が終わると、これからオペラの幕が開くような気分になります。緩徐楽章の第2楽章はソプラノのアリア、あるいはレシタティーボが歌われているような感慨に陥ります。歌がないのが不思議な気分です。たっぷりとオペラを聴いたような気持ちになったところで、第3楽章はオペラの閉幕の圧巻のフィナーレです。沸き立つような音楽で気持ちが高揚します。読響の弦楽のアンサンブルが素晴らしいモーツァルトの響きを奏でてくれました。もう、笑ってしまうような見事なアンサンブルに魅了されました。ヴァイグレが振ると、読響の響きが何倍も美しく響きます。ドイツ的な重厚感のあるヴァイグレと明るい響きの読響が何とも素晴らしくマッチします。連想するのは、シューリヒトがパリ音楽院管弦楽団を振って、ベートーヴェンの交響曲の全集を録音した素晴らしい演奏です。こういう組み合わせは意外と成功しますね。

最後はシュレーカーのあるドラマへの前奏曲。シュレーカーのオペラ《烙印を押された人々》の音楽を使って構成した作品だということです。色んな美しい曲がリッチな響きで演奏されます。そのオペラを知っていたら楽しめるのでしょうが、なんだか、脈絡のない音楽に思えます。どの曲も美しく、ヴァイグレが指揮する読響の音響も冴え渡るので、それを楽しめばよいのでしょうが、残念ながら、音楽自体には集中できません。ところではたと気が付きますが、来週、ミューザ川崎のフェスタ サマーミューザで、このヴァイグレが読響を指揮して演奏するのが、ワーグナー(デ・フリーヘル編曲)の楽劇『ニーベルングの指環』 ~オーケストラル・アドヴェンチャーです。要は楽劇『ニーベルングの指環』の全4夜から抜粋して、管弦楽だけで音楽を構成するものです。今日のシュレーカーのあるドラマへの前奏曲がオペラの楽曲を構成したものですから、同じ発想のものですね。最もナチスに退廃音楽という烙印を押されたシュレーカーと、ナチス総統のヒトラーが愛好してやまなかったワーグナーという皮肉な対照ではあります。考えてみれば、実に凝った内容のプログラムのコンサートが続きます。どういう気持ちで聴けばよいのか、悩ましいところではあります。

今日のプログラム自体も凝った内容でした。前半はモーツァルトと細川俊夫の日本初演。後半はモーツァルトと滅多に演奏されないシュレーカーの退廃音楽。何とも音楽愛好家向けの上級プログラムでした。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:セバスティアン・ヴァイグレ
  ヴァイオリン:樫本大進
  管弦楽:読売日本交響楽団  コンサートマスター:長原幸太

  モーツァルト:フリーメイソンのための葬送音楽 ハ短調 K. 477
  細川俊夫:ヴァイオリン協奏曲「祈る人」(国際共同委嘱/日本初演)
   《アンコール》イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第4番より 第2楽章 サラバンド

   《休憩》

  モーツァルト:交響曲第31番 ニ長調 K. 297 「パリ」
  シュレーカー:あるドラマへの前奏曲


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のモーツァルトのフリーメイソンのための葬送音楽は以下の録音を聴きました。

 オットー・クレンペラー指揮ニュー・フィルハーモニア管弦楽団 1964年11月 ロンドン、アビー・ロード・スタジオ セッション録音

素晴らしい演奏です。さすがにクレンペラーですね


2曲目の細川俊夫:ヴァイオリン協奏曲「祈る人」は以下の映像を鑑賞しました。

 樫本大進、パーヴォ・ヤルヴィ指揮ベルリン・フィル 世界初演 2023年3月2日、ベルリン、フィルハーモニー ライヴ収録

凄い音楽を聴いて感銘を受けました。樫本大進の物に取り憑かれたような異常な集中力によるヴァイオリン独奏が細川俊夫の新作の素晴らしさを表現します。この細川俊夫の新作もこれまでにないような傑作です。予習の枠を超えて、3回も聴いてしまいました。


3曲目のモーツァルトの交響曲第31番「パリ」は以下の録音を聴きました。

 オットー・クレンペラー指揮フィルハーモニア管弦楽団 1963年10月 ロンドン、アビー・ロード・スタジオ セッション録音

クレンペラーがこんなに素晴らしいモーツァルトを聴かせてくれるとは驚きました。クレンペラー没後40年を記念したアニヴァーサリー・エディション、8CDの充実したコレクションです。クレンペラーが得意としたモーツァルト作品から交響曲と管弦楽曲を収録しています。さきほどのフリーメイソンのための葬送音楽もこのコレクションに含まれています。


4曲目のシュレーカーのあるドラマへの前奏曲は以下の録音を聴きました。

 ミヒャエル・ギーレン指揮ベルリン放送交響楽団 1981年5月 ベルリン セッション録音

豊かな響きの演奏です。初聴きですが、なかなかの演奏レベルに思えます。



↓ saraiのブログを応援してくれるかたはポチっとクリックしてsaraiを元気づけてね

 いいね!








テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

人気ランキング投票、よろしくね
ページ移動
プロフィール

sarai

Author:sarai
首都圏の様々なジャンルのクラシックコンサート、オペラの感動をレポートします。在京オケ・海外オケ、室内楽、ピアノ、古楽、声楽、オペラ。バロックから現代まで、幅広く、深く、クラシック音楽の真髄を堪能します。
たまには、旅ブログも書きます。

来訪者カウンター
CalendArchive
最新記事
カテゴリ
指揮者

ソプラノ

ピアニスト

ヴァイオリン

室内楽

演奏団体

リンク
Comment Balloon

金婚式、おめでとうございます!!!
大学入学直後からの長いお付き合い、素晴らしい伴侶に巡り逢われて、幸せな人生ですね!
京都には年に2回もお越しでも、青春を過ごし

10/07 08:57 堀内えり

 ≪…長調のいきいきとした溌剌さ、短調の抒情性、バッハの音楽の奥深さ…≫を、長調と短調の振り子時計の割り振り」による十進法と音楽の1オクターブの12等分の割り付けに

08/04 21:31 G線上のアリア

じじいさん、コメントありがとうございます。saraiです。
思えば、もう10年前のコンサートです。
これがsaraiの聴いたハイティンク最高のコンサートでした。
その後、ザル

07/08 18:59 sarai

CDでしか聴いてはいません。
公演では小沢、ショルティだけ

ベーム、ケルテス、ショルティ、クーベリック、
クルト。ザンデルリング、ヴァント、ハイティンク
、チェリブ

07/08 15:53 じじい@

saraiです。
久々のコメント、ありがとうございます。
哀愁のヨーロッパ、懐かしく思い出してもらえたようで、記事の書き甲斐がありました。マイセンはやはりカップは高く

06/18 12:46 sarai

私も18年前にドレスデンでバームクーヘン食べました。マイセンではB級品でもコーヒー茶碗1客日本円で5万円程して庶民には高くて買えなかったですよ。奥様はもしかして◯良女

06/18 08:33 五十棲郁子

 ≪…明恵上人…≫の、仏眼仏母(ぶつげんぶつも)から、百人一首の本歌取りで数の言葉ヒフミヨ(1234)に、華厳の精神を・・・

もろともにあはれとおもへ山ざくら 花よりほか

月別アーカイブ
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR