今日のモーツァルトは弦楽四重奏曲第15番 ニ短調 K421。ハイドンセットの第2曲で、希少な短調の作品です。何故にモーツァルトの短調の作品はこうも名曲が多いのでしょう。この作品も哀愁に満ちたもので、実に天才モーツァルトが丁寧に心を込めて作曲したことが分かる傑作です。ハーゲン・クァルテットの響きを抑えた繊細極まる演奏も最高です。基本、響きを抑えつつ、その中で起伏のある音楽を作り上げています。第1楽章の素晴らしさに続き、第2楽章の美しさは寂漠としたものがあります。
昨日のラヴェルに続き、今日はドビュッシー。その響きの豊穣なることは昨日のラヴェルの比ではありません。モーツァルトの抑えた響きをこのドビュッシーでは全開放しつつ、その響きの隙のなさは完璧です。常に4つの楽器が重なり合って作り出す響きの新しさはドビュッシーもまた天才作曲家であったことの証しでしょう。4つの楽章はそれぞれ個性を発揮しますが、循環形式によって統一感が感じられます。ハーゲン・クァルテットの演奏はドイツ・オーストリア系の音楽とは一線を画していますが、素晴らしいアンサンブルの妙を感じさせてくれます。
ここで休憩。
最後はベートーヴェンの弦楽四重奏曲第8番 ホ短調 Op.59-2《ラズモフスキー第2番》。ラズモフスキー3曲の中で唯一、短調で、少し、規模が小さいのですが、その凝縮度によって、ちっとも短さを感じさせない作品で、内省的な深さを感じさせます。ハーゲン・クァルテットは集中度の高い気魄、そして、ここでも抑制した美を発揮します。この作品の素晴らしさを十全に表現した稀有な演奏でした。圧巻の第1楽章に続き、第2楽章のモルト・アダージョの深く沈潜した内省的な表現はもう、中期の作品の枠を超えるような演奏です。芸術の何たるかを我々に語りかけてきます。ハーゲン・クァルテットは熟成の時を迎えました。第3楽章のリズム感のあるスケルツォを経て、第4楽章は推進力を持って熱いコーダで全曲を〆ます。圧倒的な演奏でした。
明日のベートーヴェンの大フーガ付きの第13番 Op.130/Op.133がますます楽しみになってきました。
まさにホップ・ステップ・ジャンプの3夜になりそうです。
今日のプログラムは以下のとおりでした。
〈ハーゲン プロジェクト 2023〉ハーゲン・クァルテット 第2夜
ハーゲン・クァルテット Hagen Quartett
ルーカス・ハーゲン Lukas Hagen (ヴァイオリン)
ライナー・シュミット Rainer Schmidt (ヴァイオリン)
ヴェロニカ・ハーゲンVeronika Hagen (ヴィオラ)
クレメンス・ハーゲン Clemens Hagen (チェロ)
モーツァルト:弦楽四重奏曲第15番 ニ短調 K421(417b)
ドビュッシー:弦楽四重奏曲 ト短調 Op.10
《休憩》
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第8番 ホ短調 Op.59-2《ラズモフスキー第2番》
《アンコール》
モーツァルト:弦楽四重奏曲第14番 ト長調 K387より 第3楽章
最後に予習したCDですが、もちろん、ハーゲン・クァルテットのCDを軸に聴きました。
モーツァルト:弦楽四重奏曲第15番 ニ短調 K421
ハーゲン・カルテット 1989~2004年 セッション録音
ドビュッシー:弦楽四重奏曲 ト短調
ハーゲン・カルテット 1992年11月 ミュンヘン、マックス・ヨーゼフザール セッション録音
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第8番 ホ短調 Op.59-2《ラズモフスキー第2番》
ハーゲン・カルテット 2010年5月&7月 ベルリン、ジーメンス・ヴィラ セッション録音 ハーゲン・カルテット結成30周年記念
ハーゲンのモーツァルトは実に端正なスタイルの演奏です。短調の作品の色彩が浮き彫りになっています。
一方、ドビュッシーは実に深い響きでエスプリに満ちた演奏。会心の演奏です。
ベートーヴェンはそれまでのハーゲン・クァルテットになかった熟成した深い音楽が聴こえてきます。
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