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ツィメルマン、白熱のシマノフスキ そして、やすらぎのラフマニノフの前奏曲@横浜みなとみらいホール 2023.12.2

ツィメルマンの今日のリサイタルはチケット購入時点では曲目が発表されていませんでしたが、彼の最近の充実ぶりからは何を弾いても素晴らしい演奏が期待されたので、あえて、信用買いしました。

しかし、前半のプログラム、ショパンの夜想曲とピアノ・ソナタ第2番「葬送」はツィメルマンのレベルで考えると、もう一つ、期待外れの演奏です。並みのピアニストならば合格点なのでしょうが、彼なら、うーんと唸らせる演奏を聴きたいものです。ピアノ・ソナタ第2番「葬送」は美しい響きも情熱的なダイナミズムもありましたが、どうしてもホロヴィッツの硬質な響きの名演やアルゲリッチの天才的なひらめきの演奏が頭をよぎってしまいます。これがツィメルマンのショパンだという強烈なメッセージが聴きたかったんです。

ところが、やはり、ツィメルマンは只者ではありません。後半のプログラムでsaraiの不満を一掃してくれました。
まず、ドビュッシーの版画。3曲からなる曲集です。1曲目の塔(パゴダ)はガムラン音楽、2曲目のグラナダの夕べはスペイン音楽、3曲目の雨の庭はフランス童謡の引用 という世界各地の音楽から霊感を得たものですが、その研ぎ澄まされたピアノの響きの美しさに感銘を受けます。特に高域の音の響きの美しさときたら、耳が洗われる思いです。ドビュッシーの音楽そのものが素晴らしいのですが、それを表現するツィメルマンの音楽的感性も見事なんです。ただ、これはまだ序の口でした。
最後のシマノフスキのポーランド民謡の主題による変奏曲は表題で予想する音楽の枠を大きく超えた音楽でした。もっとも、ツィメルマンが昨年録音したCDでは標題通りの変奏曲に収まった演奏でした。ですから、今日のライヴ演奏が凄かったんです。曲の途中からは変奏曲というよりも《幻想曲》という標題のほうがふさわしいと思いながら聴いていました。同じポーランドのショパンよりもシューマンの音楽を継承するような魅力に満ちた音楽です。民俗的な音楽などではありません。ツィメルマンはスケールの大きい演奏で、熱く燃え上がるような情熱に満ちた音楽を聴かせてくれます。とりわけ、第8変奏の葬送行進曲からの音楽の盛り上がりは半端なものではありません。そして、第10変奏のフィナーレで音楽は最高に高潮し、白熱していきます。圧巻のコーダに感動します。これは一期一会のライヴ演奏です。ライヴで聴く楽しみはここにあります。決してCDなどでは味わえないスリルと興奮に満ちた音楽の世界です。

アンコールのラフマニノフの前奏曲 Op.23-4も極めて美しい演奏でした。うっとりと聴き入りました。1959年のワルシャワでのリヒテルの名演にも引けを取らない素晴らしさでした。ツィメルマンのラフマニノフもまとめて聴かせてほしいと感じます。


今日のプログラムは以下です。


  ピアノ:クリスチャン・ツィメルマン

  ショパン:夜想曲 第2番 変ホ長調 Op.9-2
       夜想曲 第5番 嬰へ長調 Op.15-2
       夜想曲 第16番 変ホ長調 Op.55-2
       夜想曲 第18番 ホ長調 Op.62-2
  ショパン:ピアノ・ソナタ第2番 変ロ短調「葬送」Op.35

   《休憩》

  ドビュッシー:版画
  シマノフスキ:ポーランド民謡の主題による変奏曲 Op.10
  
   《アンコール》
     ラフマニノフ:前奏曲 ニ長調 Op.23-4
     

最後に予習について、まとめておきます。

1~4曲目のショパンの夜想曲は以下のCDを聴きました。

 イリーナ・メジューエワ ショパン:ノクターン集 (21曲) 2009年7月、9月、10月、新川文化ホール(富山県魚津市) セッション録音

素晴らしく美しい演奏です。

 
5曲目のショパンのピアノ・ソナタ第2番「葬送」は以下のCDを聴きました。

 イリーナ・メジューエワ 京都リサイタル 2013 & 2015 2013年11月15日、京都コンサートホール アンサンブルホールムラタ ライヴ録音
 
メジューエワの気魄の演奏です。


6曲目のドビュッシーの版画は以下のCDを聴きました。

 イリーナ・メジューエワ 京都のイリーナ・メジューエワ ~ ライヴ録音集2007-2012 2012年10月19日、京都コンサートホール ライヴ録音

大変、力強い見事な演奏です。。


7曲目のシマノフスキのポーランド民謡の主題による変奏曲は以下のCDを聴きました。

 クリスチャン・ツィメルマン シマノフスキ:ピアノ作品集  2022年6月18日-22日、福山、ふくやま芸術文化ホール
 
素晴らしく明晰な演奏で、録音も素晴らしいです。

 
アンコールのラフマニノフの前奏曲 Op.23-4は以下のCDを聴きました。

 スヴィヤトスラフ・リヒテル 1959年4月28日~5月2日 ワルシャワ セッション録音
 
リヒテルは不思議なピアニスト。何とも美しいラフマニノフです。録音もステレオで素晴らしいです。なお、アンコール曲は他の会場でのコンサートで予想されたので、予習しておきました。



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       ツィメルマン,  

田部京子の弾くシューベルトの遺作ソナタ、19番、20番に深く感銘@浜離宮朝日ホール 2023.12.3

田部京子の全10回のシューベルト・プラス・シリーズに続いて、今年も年2回のペースでリサイタルがあります。今回はオール・シューベルト・プログラムで遺作のピアノ・ソナタ3曲のうち、2曲が聴ける嬉しい選曲です。いずれもシューベルト・プラス・シリーズに続いて、2回目の登場です。

前半は冒頭、シューベルトの即興曲 ハ短調 Op.90-1 D899-1が前奏曲のような形で演奏されます。10分ほどの短い曲ですが、憧れに満ちたロマンの香りがぎっしりと詰まっています。もう、これだけ聴いて、田部京子のシューベルト演奏の何たるかが分かります。格調の高い詩情を歌い上げた魂の音楽です。丁寧なアーティキュレーションで一音たりともないがせにしない作曲家に寄り添った演奏です。こんな素晴らしいシューベルト弾きが日本にいるのは奇跡としか思えません。

そして。いよいよ本番の遺作のピアノ・ソナタ。第19番 ハ短調 D958。のっけから、ベートーヴェンのハ短調を思わせる激しい打鍵です。しばらくすると、シューベルト本来の歌謡調の音楽になります。ともかく、完成度の高い作品を田部京子の美しい響きの音楽性の高い演奏で言うことがありません。ほのぼのとした詩情で憧れに満ちた音楽になっています。
第2楽章のアダージョは抒情に満ちて、しみじみとしています。こういう曲は田部京子がもっとも得意にするところです。うっとりと聴き入ります。
第3楽章のメヌエットはさらっと通り過ぎ、第4楽章のアレグロに入ります。ここでも詩情に満ちた音楽が展開されて、圧巻のフィナーレ。見事な演奏でした。


後半はやはり、遺作のピアノ・ソナタ。第20番 イ長調 D959。第21番と並ぶ傑作中の傑作。ベートーヴェンの後期ソナタと同じくらい、いや、それ以上に好きなピアノ曲です。
第1楽章の冒頭の動機はクレドのジャンジャンという2音。実に激しい冒頭の響きです。そして、第2楽章、アンダンティーノの寂しげで美しいメロディーが始まると、saraiの心は感極まります。中間部の凄まじい音響も恐ろしいほど素晴らしく、その後に美しいメロディーに戻ると心がとろけそうです。短い第3楽章のスケルツォを経て、終楽章に入ります。もう、これは言葉での表現ができそうにもありません。最高のシューベルトとしか、形容のしようがありません。終盤に入るころには田部京子のピアノの響きが美しく透明になり、まさに天国の調べを聴くか如くです。特に高域の音の魅力に満ちた美しさはピアノの究極の響きです。そうして、最終部に入っていきます。歩を止めるように、何度もパウゼを繰り返すところは、まるでシューベルトが美しいこの世から去り難く思っているような心情が見事に表現されています。聴いているsaraiが苦しくなってきます。そして、意を決したように圧巻のコーダで一気に最後まで駆け抜けていきます。まるでシューベルトとの別れを体験したような深い感動を覚えます。

アンコールはシューベルトの鉄板の作品、即興曲と楽興の時。これだけでもシューベルトの最高の音楽を体験できます。そして。最後の最後はやっぱりこれ、シューベルトの極め付きのアヴェ・マリアです。終わりに高域でアヴェ・マリアと歌った後、アーメンと終止します。田部京子の至芸です。

来年からはどうするのかと思っていたら、SINKA〈進化×深化×新化〉という新しいシリーズが始まります。テーマはよく分かりませんが、次回のコンサートのしめはシューマンの《ウィーンの謝肉祭の道化》。saraiが望んでいたシューマン・プラス・シリーズに近づいていきそうな気配です。田部京子がこれまで弾いてこなかったシューマンの作品が聴けそうな気配です。ノヴェレッテンとか森の情景とかが聴ければ嬉しいな。ブラームスも聴けるだけ聴きたいな。うきうき・・・。


今日のプログラムは以下です。

  田部京子ピアノ・リサイタル
   CDデビュー30周年×浜離宮リサイタル・シリーズ20周年記念 Part2

  ピアノ:田部京子
 
  シューベルト:即興曲 ハ短調 Op.90-1 D899-1

  シューベルト:ピアノソナタ 第19番 ハ短調 D958

  《休憩》

  シューベルト:ピアノソナタ 第20番 イ長調 D959

  《アンコール》
   シューベルト :即興曲 変ト長調 Op.90-3 D899-3
   シューベルト:楽興の時 第3番 ヘ短調 D780-3
   シューベルト(編曲:田部京子/吉松隆) :アヴェ・マリア 
   

最後に予習について、まとめておきます。

いずれも田部京子の演奏を聴きました。予習というよりも楽しみ半分です。
まず、シューベルトの即興曲 Op.90 D899は以下のCDを聴きました。

 田部京子 1997年10月7,9,10日 サラマンカ・ホール(岐阜) セッション録音
 

シューベルトのピアノソナタ 第19番は以下のCDを聴きました。

 田部京子 2000年11月14日~17日 愛知県豊田市コンサートホール セッション録音
 

後半のシューベルトのピアノソナタ 第20番は以下のCDを聴きました。

 田部京子 1997年10月7,9,10日 サラマンカ・ホール(岐阜) セッション録音

田部京子のシューベルトの一連の録音は伝説的とも言えますが、土の演奏もその中でもこれ以上の演奏はあるまいと思える傑出したものばかりです。



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首都圏の様々なジャンルのクラシックコンサート、オペラの感動をレポートします。在京オケ・海外オケ、室内楽、ピアノ、古楽、声楽、オペラ。バロックから現代まで、幅広く、深く、クラシック音楽の真髄を堪能します。
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07/08 15:53 じじい@

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久々のコメント、ありがとうございます。
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06/18 12:46 sarai

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06/18 08:33 五十棲郁子

 ≪…明恵上人…≫の、仏眼仏母(ぶつげんぶつも)から、百人一首の本歌取りで数の言葉ヒフミヨ(1234)に、華厳の精神を・・・

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