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88歳の誕生日にインバルはショスタコーヴィチとバーンスタインを会心の演奏 東京都交響楽団@サントリーホール 2024.2.16

ほぼ、毎シーズン、都響を振ってきたインバルも今日は88歳の誕生日。まったく衰えを知らない指揮で得意のショスタコーヴィチとバーンスタインの素晴らしい演奏を聴かせてくれました。このところ絶好調の都響は名指揮者インバルを迎えて、ますます見事なアンサンブルの演奏を聴かせてくれました。来週から開始する3回目のマーラー・チクルスも期待するばかりです。

前半はショスタコーヴィチの交響曲第9番。インバルはその高齢を少しも感じさせない小気味よい指揮で新古典主義的な音楽を素晴らしく整ったアンサンブルと切れのよいテンポで気持ちよく聴かせてくれました。とりわけ、アップテンポな楽章がノリノリで、ただただ、気分よく音楽を楽しめました。この交響曲第9番は暗いところのまったくないショスタコーヴィチらしからぬ音楽ですが、こういう爽快な演奏で聴くと気分が高揚します。実に不思議な作品です。

休憩後は、バーンスタインの交響曲第3番《カディッシュ》です。同じインバルの指揮で8年前の2016年に聴いています。そのときはホロコーストの生き残りのサミュエル・ピサールが書き起こしたナチス強制収容所の生々しい描写の語りのピサール版で聴きましたが、今回は当初の予定のピサール版から変更になり、バーンスタインの書いた語りのオリジナル版での演奏になりました。
冒頭は神への性急とも言える祈りで始まります。そして、人間が起こした災いに満ちた行為、その行為を黙認したかのごとき"神"への不信の念が語られます。宗教も持たないsaraiのような人間にとっては"神"というのは、人類が共通に心の中に持っているはずの倫理観・人間性と置き換えてもいいのかもしれません。延々とこの"神"の黙認行為を攻め続けながら、信仰を失っていく気持ちが語られていきます。バースタインの音楽はその上にそれを補強するように鮮烈に響き渡ります。インバルが都響の全機能をフルに活用して、パーフェクトとも思える音楽、あるいは響きをリアルな形で表現していきます。何という作品でしょう。これは音楽芸術の名を借りて、我々自身に向けられた鋭い刃です。なぜなら、人間が犯したいかなる行為は我々人類全体が背負うべき十字架だからです。その犯罪的な行為に直接・間接に責任のない人間もこの重い罪を自分自身の罪として自覚せよとバーンスタインの音楽は迫ってきます。昨今の大量虐殺、そして、現在も発生している残虐行為も決して、自分と関係ない問題ではないということ・・・この音楽が語る本質です。世界で進行している戦争拡大への道などはたとえ自分が反対の立場であるにせよ、責任は免れるものではありません。戦争行為こそ、倫理観・人間性を根こそぎ駆逐してしまう最たるものです。そういう強烈なメッセージを受け止めながら、被告席に座る人間のようにして、バーンスタインのメッセージ音楽をうなだれて聴くのみです。無論、シオニズム推進派だったバーンスタイン自身もガザの残虐行為に対しては己への刃も甘んじて受け入れなければならないでしょう。第2楽章の後半では攻撃的な音楽が一転して、ソプラノの冨平安希子が美しい声で子守歌を歌い始めます。子供たちが戦争で命を奪われる・・・その子供たちへの子守歌です。美しい旋律ですが、戦慄を覚えます。ある意味、ぞっとするような音楽です。
ここからバーンスタインは性急とも思えるように強引に"神"との和解、信仰の再生に突き進みます。しかし、こんなに深刻な"神"喪失から、音楽の力で立ち直れるでしょうか。本音で言えば、立ち直りたい・・・それはsaraiが人類の倫理観・人間性を信じていきたいという希求でもあります。壮大なフィナーレの音楽が鳴り響き、大いなる感銘を受けました。それは神の再生だったのか・・・

今日のプログラムは以下のとおりです。

  指揮:エリアフ・インバル
  語り:ジェイ・レディモア
  ソプラノ:冨平安希子
  合唱:新国立劇場合唱団 指揮:冨平恭平
  児童合唱:東京少年少女合唱隊 指揮:長谷川久恵
  管弦楽:東京都交響楽団 コンサートマスター:山本友重

  ショスタコーヴィチ:交響曲第9番 変ホ長調 Op.70
   
   《休憩》
   
  バーンスタイン:交響曲第3番《カディッシュ》
   

最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のショスタコーヴィチの交響曲第9番を予習した演奏は以下です。

 キリル・ペトレンコ指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 2020年10月31日 ベルリン、フィルハーモニー ライヴ録音

切れ味鋭い素晴らしい演奏です。


2曲目のバーンスタインの交響曲第3番《カディッシュ》を予習したCDは以下です。

 モンセラート・カバリエ、マイケル・ワガー、ウィーン・ジュネス合唱団、ウィーン少年合唱団、レナード・バーンスタイン指揮イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団 1977年8月26日 マインツ、ラインゴルトハレ セッション録音
 クレア・ブルーム、ケリー・ナシーフ、メリーランド少年合唱団、ワシントン合唱団、マリン・オールソップ指揮ボルティモア交響楽団 2012年9月28-30日 ジョゼフ・マイヤーホフ・シンフォニー・ホール、ボルティモア、メリーランド州、米国 セッション録音


バーンスタイン&イスラエル・フィルは決定盤。バーンスタインの愛弟子の女性指揮者オールソップも実に見事な演奏。



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首都圏の様々なジャンルのクラシックコンサート、オペラの感動をレポートします。在京オケ・海外オケ、室内楽、ピアノ、古楽、声楽、オペラ。バロックから現代まで、幅広く、深く、クラシック音楽の真髄を堪能します。
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最後までレビューありがとうございます。最後は時間の都合がつかず視聴できず、非常に残念でした。

アンコールも含め好評のレビューを見てますます残念ですが、お陰様でど

04/02 12:33 

michelangeloさん

saraiです。大変、ご無沙汰しています。
このたびは過分なご評価いただき、恐縮しています。

よいコンサート、オペラを聴くと、興奮して、記事を書き過

03/31 01:42 sarai

sarai様

こんばんは。

3月に8回も《トリスタンとイゾルデ》公演が開催される東京は音楽都市です。再び御感想を拝読し、改めて感じるのはsarai様のクラシック音楽オペラ公

03/29 21:28 michelangelo

《あ》さん、saraiです。

結局、最後まで、ご一緒にブッフビンダーのベートーヴェンのソナタ全曲をお付き合い願ったようですね。
こうしてみると、やはり、ベートーヴェン

03/22 04:27 sarai

昨日は祝日でゆっくりオンライン視聴できました。

全盛期から技術的衰えはあると思いましたが、彼のベートーヴェンは何故こう素晴らしいのか…高齢のピアニストとは思えな

03/21 08:03 

《あ》さん、再度のコメント、ありがとうございます。

ブッフビンダーの音色、特に中音域から高音域にかけての音色は会場でもでも一際、印象的です。さすがに爪が当たる音

03/21 00:27 sarai

ブッフビンダーの音色は本当に美しいですね。このライブストリーミングは爪が鍵盤に当たる音まで捉えていて驚きました。会場ではどうでしょうか?

実は初めて聴いたのはブ

03/19 08:00 
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