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終幕が圧倒的な超迫力の《エレクトラ》、R.シュトラウスの最高傑作を実感 ヴァイグレ&読売日本交響楽団@東京文化会館大ホール 2024.4.21

終幕の凄まじさに圧倒されました。R.シュトラウスの渾身の音楽、そして、彼が芸術的に頂点に達したときに生み出した最高傑作であることにsaraiも最大限に芸術的な感動を覚えました。何と言ってもヴァイグレの凄まじいエネルギーに満ちた音楽創造、そして、それに応えた読響の凄まじい音響、エレクトラ役のエレーナ・パンクラトヴァの美しい高音、クリソテミス役のアリソン・オークスの耳をつんざくばかりの絶唱、これらが一体になって、最前列に座ったsaraiの耳と体を突き抜けました。

コンサート形式の《エレクトラ》と言えば、昨年のジョナサン・ノット&東響、エレクトラを歌ったクリスティーン・ガーキーの最高の演奏がまだ、ありありと脳裏に刻み付けられています。このオペラはホフマンスタールが台本を書いて、R.シュトラウスとコンビを組んだ最初の記念碑的な作品でもあり、ホフマンスタールの詩人としての才能が最高に光るものでもあり、昨年の公演でも歌手たちが豊かな表現力を発揮していました。昨年、そして、今日に限りませんが、この《エレクトラ》を聴くと、この後、古典回帰してしまうR.シュトラウスの作品が甘ったるく感じて、物足りなくなってしまいます。昨年の演奏は実に先鋭的かつ強烈でその印象はさらに深まってしまいました。ある意味、R.シュトラウスの最高の芸術を味わった思いに駆られました。そして、それは今日の公演でもまざまざと思い知らされました。昨年のジョナサン・ノットの知的エネルギーの爆発に対して、今日のセバスティアン・ヴァイグレの重戦車のような馬力の推進力はいい勝負でした。

冒頭、アガメームノンのモティーフがオーケストラで奏せられ、すぐに侍女たちの狂ったような歌唱が始まります。侍女たちはみな日本を代表するような歌手たちで驚くほどの声の張りが響き渡ります。そして、満を持して、ステージに現れたエレクトラ役のエレーナ・パンクラトヴァが美しい響きの声で長いモノローグを歌っていきます。表現力に満ちた歌唱で圧倒的です。美しい声ゆえにもっと狂ったような歌唱を期待していたsaraiにはそこが、素晴らしくもあり、かつ、物足りない感じでもあります。どこか醒めている雰囲気もあります。ともあれ、ヴァイグレがオーケストラの響きを抑えて、エレクトラの圧倒的な存在感を示し、実際、物理的にも彼女の歌声だけが聴衆の耳をつんざくような具合に響きます。

クリソテミス役のアリソン・オークスが登場し、エレクトラとのダイアローグ的な歌唱を繰り広げます。クリソテミスは音楽的にはエレクトラと対立関係にあり、常識的な個性を調性のある音楽で表現していきます。しかし、アリソン・オークスは声量的に物凄い声を張り上げて、エレクトラを圧倒するような歌声です。アリソン・オークスがエレクトラを歌ったほうがこのオペラはさらに盛り上がったかも知れません。saraiが実演で聴いたソプラノ歌手でこのアリソン・オークスの声量に対抗できるのはグルヴェローヴァ(ルチア役)くらいです。

次いで、クリテムネストラ役の藤村実穂子が登場。このクリテムネストラ役は歌手が「キャリアの秋」に歌う古典的なキャラクター役のひとつだそうですが、藤村実穂子はまさに旬な歌手、深い表現力と演技力の素晴らしさに魅了されました。つい最近も《トリスタンとイゾルデ》のブランゲーネ役を聴きましたが、そのとき以上の素晴らしい歌唱です。エレクトラは母親のクリテムネストラを容赦なく責め立てますが、藤村実穂子は一歩も引きません。凄い存在感を放って、ステージを去ります。もっと歌ってほしいと思ったほどです。

笑いながら退場するクリテムネストラと入れ替わりに再登場するクリソテミス役のアリソン・オークスが弟オレストの死を告げます。それを契機にエレクトラは姉クリソテミスに母の殺害を手伝わせようとそれまでの狂人的な歌唱から一転して、長調の明るい歌唱で説得しようとします。このあたりはエレーナ・パンクラトヴァの美しい響きの声が似合っています。しかし、ここでもアリソン・オークスの強烈な歌唱が凄いんです。

エレクトラの説得を拒絶して退場したクリテムネストラを罵り、エレクトラは一人で母殺害を決意。そこに遂に兄オレスト役のルネ・パーペが登場。ルネ・パーペはオレスト役にはもったいないほどの見事な歌唱。かつてのフィッシャー・ディースカウの美声を彷彿とさせる素晴らしい歌唱。彼の歌唱がステージを支配します。オレストに再会したエレクトラは喜びますが、同時に今の自分の無様な姿を恥じ入ります。

そして、いよいよ、音楽は佳境に入っていきます。エレクトラは家に入っていったオレストが母を殺害するシーンを聴き入ります。このシーンは遂にヴァイグレ指揮の読響が音楽でその残酷なシーンを描き出します。主役に躍り出た読響がおどろおどろしい音楽をベースや管楽を駆使して素晴らしく表現します。

最後の人物、母親の情夫であるエギスト役のシュテファン・リューガマーの登場です。ここでは偽善的な個性に扮したエレクトラをガエレーナ・パンクラトヴァが実に気持ちよく歌い上げます。そして、エギストは家に入り、オレストに討たれます。エレクトラの復讐劇の完成です。クリソテミスが現れて、オレストの出現と仇討ちを誇らしげに語ります。

そして、音楽は大団円へ。狂乱するエレクトラは踊りながら高潮します。クリソテミスも激しい歌唱。素晴らしい響きの読響はオレストのモティーフを強烈に繰り返し、圧倒的なフィナーレ。ヴァイグレの溜めていたパワーが炸裂し、誰もが熱狂の渦に。

万雷の拍手とブラボーコールを聴きながら、saraiは慌てて、ホールを飛び出します。いつものようにカーテンコールに参加したかったのですが、老い故にスケジュール管理に失敗し、今日は箱根の温泉三昧と重なってしまい、急いで、箱根に向かいます。箱根の温泉で配偶者と友人夫婦がsaraiの遅い到着を待っています。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:セバスティアン・ヴァイグレ
  エレクトラ(ソプラノ):エレーナ・パンクラトヴァ
  クリテムネストラ(メゾ・ソプラノ):藤村実穂子
  クリソテミス(ソプラノ):アリソン・オークス
  エギスト(テノール):シュテファン・リューガマー
  オレスト(バス):ルネ・パーペ
  第1の侍女(メゾ・ソプラノ):中島郁子
  第2の侍女(メゾ・ソプラノ):小泉詠子
  第3の侍女(メゾ・ソプラノ):清水華澄
  第4の侍女/裾持ちの侍女(ソプラノ):竹多倫子
  第5の侍女/側仕えの侍女(ソプラノ):木下美穂子
  侍女の頭(ソプラノ):北原瑠美
  オレストの養育者/年老いた従者(バス・バリトン):加藤宏隆
  若い従者(テノール):糸賀修平
  召使:新国立劇場合唱団
   前川依子、岩本麻里
   小酒部晶子、野田千恵子
   立川かずさ、村山 舞
  管弦楽:読売日本交響楽団(コンサートマスター:長原幸太、ダブルコンマス:林悠介)
  合唱:新国立劇場合唱団
  合唱指揮:冨平恭平


最後に予習について、まとめておきます。

 R.シュトラウス:歌劇「エレクトラ」op.58(全曲)

  指揮:カール・ベーム
  演出:ゲッツ・フリードリッヒ 
  ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
  ウィーン国立歌劇場合唱団 
  レオニー・リザネク
  カタリーナ・リゲンザ
  オルガ・ヴァーラ
  カルメン・レッペル
  コレット・ローラン
  ミルカナ・ニコロヴァ
  マージョリー・ヴァーンス(S)
  アストリッド・ヴァルナイ
  ロハンギス・ヤハミ(Ms)
  ハンス・バイラー
  クリストファー・ドイグ(T)
  ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(Br)
  ヨーゼフ・グラインドル
  クルト・ベーメ(Bs)

  収録時期:1981年3月30日開始、6月11日完了
  収録場所:ウィーン

1981年に亡くなったベーム最期の録音。86歳のベームは収録完了した2カ月後に逝去しました。とても高齢のベームの指揮とは思えない激しい表現に驚愕します。ベームの最後の録音がこのエレクトラとは、何とも感慨深いものです。それもウィーン・フィルを指揮したのも納得できます。因みにsaraiがウィーン国立歌劇場を2回目に訪問したとき(1992年)に聴いたのがこのエレクトラ。ダブルコンマスでゲルハルト・ヘッツェルとライナー・キュッヒルが並んで演奏した凄いものでした。ルードヴィッヒがクリテムネストラ、ベーレンスがエレクトラ、コンネルがクリソセミスという充実した女声で、中でもベーレンスの絶唱が凄かった!



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首都圏の様々なジャンルのクラシックコンサート、オペラの感動をレポートします。在京オケ・海外オケ、室内楽、ピアノ、古楽、声楽、オペラ。バロックから現代まで、幅広く、深く、クラシック音楽の真髄を堪能します。
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最後までレビューありがとうございます。最後は時間の都合がつかず視聴できず、非常に残念でした。

アンコールも含め好評のレビューを見てますます残念ですが、お陰様でど

04/02 12:33 

michelangeloさん

saraiです。大変、ご無沙汰しています。
このたびは過分なご評価いただき、恐縮しています。

よいコンサート、オペラを聴くと、興奮して、記事を書き過

03/31 01:42 sarai

sarai様

こんばんは。

3月に8回も《トリスタンとイゾルデ》公演が開催される東京は音楽都市です。再び御感想を拝読し、改めて感じるのはsarai様のクラシック音楽オペラ公

03/29 21:28 michelangelo

《あ》さん、saraiです。

結局、最後まで、ご一緒にブッフビンダーのベートーヴェンのソナタ全曲をお付き合い願ったようですね。
こうしてみると、やはり、ベートーヴェン

03/22 04:27 sarai

昨日は祝日でゆっくりオンライン視聴できました。

全盛期から技術的衰えはあると思いましたが、彼のベートーヴェンは何故こう素晴らしいのか…高齢のピアニストとは思えな

03/21 08:03 

《あ》さん、再度のコメント、ありがとうございます。

ブッフビンダーの音色、特に中音域から高音域にかけての音色は会場でもでも一際、印象的です。さすがに爪が当たる音

03/21 00:27 sarai

ブッフビンダーの音色は本当に美しいですね。このライブストリーミングは爪が鍵盤に当たる音まで捉えていて驚きました。会場ではどうでしょうか?

実は初めて聴いたのはブ

03/19 08:00 
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