畢生の名演! マーラー交響曲第8番《千人の交響曲》:インバル&東京都交響楽団@横浜みなとみらいホール 2014.3.9
今日のコンサートに向けて、できるだけの準備をしてきました。演奏時間は有に1時間20分以上は超える大曲ですし、また、精神的に負担の大きな曲でもありますから、ばんばんと予習するわけにもいきませんが、これまで聴いていない演奏を主体に以下を事前予習しました。
1.ハイティンク コンセルトヘボウ管 1971年
2. ハイティンク コンセルトヘボウ管 1988年 Video コンセルトヘボウ創立100周年記念
3.バーンスタイン ウィーン・フィル 1975年 ザルツブルク音楽祭
4.バーンスタイン ウィーン・フィル 1975年 Video
5.テンシュテット ロンドン・フィル 1986年
6.テンシュテット ロンドン・フィル 1991年 ライブ
7.クーベリック バイエルン放送交響楽団 1970年
8.クーベリック バイエルン放送交響楽団 1970年 ライブ
9.ショルティ シカゴ交響楽団 1971年
10. ホーレンシュタイン ロンドン交響楽団 1951年 ライブ
さすがにマーラーのこの名曲を巨匠たちはいずれも素晴らしい演奏で感動させてくれます。録音の出来のよさには差がありますが、演奏自体は優劣をつけるようなものではありません。それでも凄まじい感動を与えてくれたのは、ハイティンクとバーンスタインのVIDEOです。2人の燃えるような指揮で素晴らしい歌手たちが絶唱を繰り広げる様は凄いとしか言えません。
ハイティンクは1988年のコンセルトヘボウ創立100周年記念のコンサート。ハイティンク自身も1961年から続けてきたコンセルトヘボウ管の首席指揮者をこの年に退任することもあり、万感の思いを込めた指揮でした。オランダ女王列席の下、このときから、コンセルトヘボウ管はロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の名称をベアトリクス女王から与えられます。歌手はソプラノのギネス・ジョーンズ、アーリーン・オジェー、バリトンの(若き日の)トーマス・ハンプソンが素晴らしい歌唱ですが、何とも素晴らしいのはバーバラ・ボニーが歌う《栄光の聖母》です。澄み切った超高音は若く美しいバーバラでした。それにしてもハイティンクがこんなに燃え上がるような指揮ををするとは驚き、そして、感動しました。
バースタインは1975年のウィーン・コンツェルトハウスでのライブ公演です。これは女声陣、そして、ヘルマン・プライの《深淵の神父》が素晴らしいです。しかし、最高なのはやはり、バーンスタインです。マーラーに成り代わったような指揮は神がかっています。これも感動するしかない最高の名演です。
今日のプログラムとキャストは以下です。日本の最高レベルの演奏者を集めたような布陣。藤村美穂子が加われば、万全でしたね。
指揮:エリアフ・インバル
ソプラノ1/罪深き女:澤畑恵美
ソプラノ2/悔悟する女:大隅智佳子
ソプラノ3/栄光の聖母:森麻季
メゾソプラノ1/サマリアの女:竹本節子
メゾソプラノ2/エジプトのマリア:中島郁子
テノール/マリアを崇める博士:福井敬
バリトン/恍惚の神父:河野克典
バス/深淵の神父:久保和範
合唱:晋友会合唱団
児童合唱:東京少年少女合唱隊
管弦楽:東京都交響楽団
マーラー:交響曲第8番変ホ長調《千人の交響曲》
第1部は最初から最後まで凄まじい演奏。圧倒されて、感動の涙が滲みます。終盤の「グローリア・・・」の合唱に引き続いて、ソプラノ独唱が続くところでは、最高の感動。うるうるでした。パイプオルガンを伴う合唱の素晴らしさには感動するしかありません。特に2階席の両側に配置された女性合唱の美しい響きが降り注いでくるのには参りました。まさに天上の世界です。
第2部は冒頭の静謐な管弦楽の演奏の説得力からぐいっと引き込まれます。バリトン独唱のミスが高揚感に水を差しましたが、合唱と独唱で徐々に高揚感を増し、2階横の客席に突如、姿を現した森麻季の《栄光の聖母》の清らかな歌唱で一挙に頂点に上り詰めていきます。この《栄光の聖母》はもちろん、天上の世界の聖母マリアですが、現世にいるマーラーの愛する妻アルマでもあります。交響曲第6番では、神によっても愛によっても救済は与えられませんでしたが、この交響曲第8番では、神からも愛する妻アルマからも救いが得られます。救いを得られた存在、すなわち、マーラーが永遠の世界に昇天していく感動の音楽が最高の演奏で奏でられます。これはマーラーが書いた音楽ですが、我々自身の救済の物語でもあります。マーラーと自分の存在が重なり合って、来るべき永遠、すなわち、死を迎えていくのです。最後の《神秘の合唱》が静かに始まります。そのなかで《永遠に女性的なるものが私たちを高みに引き上げるのだ》と究極の救済を告げる感動の頂点に上り詰めます。聖母マリア、そして、愛する妻アルマによって、マーラー、そして、私たちは永遠の眠りを約束されます。圧倒的な感動です。ワーグナーの《さまよえるオランダ人》と同様に、女性の愛によって、究極の救済が得られます。管弦楽だけのコーダが続き、さらなる高揚感のうちにフィナーレ。
インバルは究極のマーラーを提示してくれました。マーラー指揮者の頂点を極めた畢生の名演です。
果てしもない拍手の嵐でした。これ以上のマーラー演奏があるとは信じ難いのですが、来週の第9番ではさらなる高みを見せてくれるのでしょう。東京芸術劇場、横浜みなとみらいホール、サントリーホールと3日連続のコンサートですが、saraiは2日目以降の横浜みなとみらいホール、サントリーホールでインバルのマーラー・チクルスを聴き終えることにしています。最終のサントリーホール公演はインバルの東京都交響楽団のプリンシパル・コンダクターの最終公演でもあります。ベルティーニの横浜みなとみらいホールでの感動のラストコンサートでの第9番を思い起こします。涙なしには聴けないラストコンサートになることでしょう。
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