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純粋な響きのシューベルト:マリア・ジョアン・ピリス・ピアノ・リサイタル@サントリーホール 2014.3.7

今日はマリア・ジョアン・ピリスのピアノ・リサイタルでした。ピリスは昨年、ハイティンク指揮ロンドン交響楽団との共演でモーツァルトとベートーヴェンのピアノ協奏曲で初めて実演に接し、大変、感銘を受けました。そのときの記事はここここここです。そのとき、今度は是非、ソロのピアノのリサイタルを聴きたいと思い、意外に早く、その機会が訪れたわけです。日本でのピリスのソロリサイタルは何と16年ぶりというのですから、物凄く、タイミングがよかったと思います。

ピリスと言えば、昔からモーツァルト弾きという印象で、実際、DGからの2度目のモーツァルトのピアノ・ソナタのアルバムはずい分聴き込んだものです。彼女の濁りのないピュアーな響きのモーツァルトの素晴らしい演奏を気持ちよく聴いていました。昨年、思い立って、1度目のモーツァルトのピアノ・ソナタのアルバムを入手し、聴いてみましたが、実に爽やかで痛々しいくらい率直な演奏に驚愕しました。ガラスのように壊れやすい繊細な演奏です。若くなければ、決してこんな演奏はできないと思いました。調べてみると録音は日本のイイノホール(もう閉館したそうです)で1974年、ピリスが30歳の頃のようです。印象からは20歳以前の少女のような演奏でしたが、ピリスは純粋な少女の心を持ち続けているピアニストなのでしょう。

今日聴くピリスはその40年後の70歳くらいです。姿はもう若くはありませんが清新な心は持ち続けているようです。さすがに40年前の演奏に比べると、ずっと安定感のある演奏ですが、純粋で素直な表現は年齢を感じさせません。何よりもYAMAHAのピアノから紡ぎだされる響きのピュアーな美しさには心が洗われるようです。

まず、今日のプログラムを紹介しておきます。

 シューベルト:即興曲集 D.899 Op.90
 ドビュッシー:ピアノのために

  《休憩》

 シューベルト:ピアノ・ソナタ第21番変ロ長調 D.960

   《アンコール》
     シューマン:《森の情景》より、第7曲 予言の鳥

最初に演奏されたシューベルトの即興曲集 D.899の4曲は夢のように美しい演奏。予習した彼女のCDは10年前の録音ですが、同様の素晴らしい演奏です。この4曲はsaraiの大好きな曲なので、どのピアニストの演奏でも気持ちよく聴けますが、彼女の演奏は最高レベルと言えます。特に第1曲のロマンティックな味わい、そして、最高に好きな第3曲のしみじみとした表現には言葉を失います。第2曲はペライアがアンコールでよく演奏してくれますが、これも同じくらい素晴らしい演奏。第2曲と第4曲はCDの演奏に比べると少しテンポが速くなっていますが、決して曲想を壊すものではありません。実演で即興曲集 D.899の4曲のこれだけの演奏を聴いたのは初めての経験です。初めてレコードでケンプの演奏を聴いてから、数十年経ちますがようやく生演奏で素晴らしい演奏に接することができ、大変な充足感を持つことができ、幸せです。

次はドビュッシーの《ピアノのために》です。あまり聴かない曲です。色彩感はドビュッシーそのものかもしれませんが、全体の印象はドビュッシーらしくない感じの曲集です。何よりダイナミズムが激しい曲です。こういう曲を繊細なピリスがいったいどう弾くのかと思っていたら、実に奔放な演奏です。腰を浮かせて、体全体で思いっ切りピアノの鍵盤を叩く激しい演奏。繊細な彼女のラテンの情熱を見た思いです。こういう演奏もできるんですね。しかし、いかに強く鍵盤を叩いても、決して響きが濁って汚くなることはありません。情熱のなかにも純粋で繊細なピリスの本質は変わることはありません。まあ、こういうピリスの演奏もあるということですね。

休憩後、この日のメインのシューベルトのピアノ・ソナタ第21番 D.960です。シューベルトの最後のピアノ・ソナタ。もちろん、長大なソナタです。ピリスの演奏は最高でした。2年半前にも内田光子の最高の演奏を聴きましたが、それに比肩する演奏です。内田光子と同様に第2楽章の素晴らしさといったら、何と言えばいいでしょう。永遠への憧れ、青春の美しさ・・・とでも言えばいいでしょうか。ピリスは自然なスタイルでの表現ですが、純粋無垢な少女の清らかさのような雰囲気が漂います。これも彼女の言う《神への奉仕》なんでしょうか。けがれを知らないような無垢の美しいピアノの響きはまるで天上世界のもののようです。こういう響きは大ピアニストが80歳を過ぎた老境で獲得するものだと信じていましたが、70歳でこの響きを奏でているピリスは恐るべき存在に思えます。10年後のピリスはどんな響きを奏でるんでしょうか。それを聴き遂げるまではsaraiも死ねませんね。このシューベルトは素晴らしい演奏に圧倒されたというのではなく、ピリスの奏でた音楽に共感したという思いの演奏でした。自然で内省的なシューベルト・・・実に本質的なシューベルト演奏でした。

アンコール曲は当然、シューベルトだろうと思っていたら、あれっ? シューベルトっぽくない・・・これって、シューマン? とても美しい響きのシューマンでした。ピリスのシューマンもなかなかよさそうです。《子供の情景》あたりはよさそうですね。

とても清々しいリサイタルに満足して、家路につきました。





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ジャンル : 音楽

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首都圏の様々なジャンルのクラシックコンサート、オペラの感動をレポートします。在京オケ・海外オケ、室内楽、ピアノ、古楽、声楽、オペラ。バロックから現代まで、幅広く、深く、クラシック音楽の真髄を堪能します。
たまには、旅ブログも書きます。

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08/04 21:31 G線上のアリア

じじいさん、コメントありがとうございます。saraiです。
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これがsaraiの聴いたハイティンク最高のコンサートでした。
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07/08 18:59 sarai

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クルト。ザンデルリング、ヴァント、ハイティンク
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07/08 15:53 じじい@

saraiです。
久々のコメント、ありがとうございます。
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06/18 12:46 sarai

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05/13 23:47 sarai
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