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昔も今も極上の響き・・・ウィーン・フィルのモーツァルト@サントリーホール 2015.10.8

ウィーン・フィルの極上の響きを聴いて、幸せを感じたのはsaraiだけではなかったでしょう。サントリーホールがあたかもウィーン楽友協会とも思えてしまうほど、響きが体に沁み渡ってきました。これで床鳴りがすれば、ウィーン楽友協会のホールと同じ感覚です。ウィーン・フィルの響きはなよやかな高弦の響きが特徴的です。なんとも柔らかい第1ヴァイオリンの響きはウィーン・フィルならではのもの。それは録音で聴ける1930年代の昔から変わりない素晴らしさです。昔はもっと凄かったと言われるかたもいるかもしれませんが、今は何せライブで聴ける贅沢さがあります。それも日本にいながらにしてです。ウィーン・フィルの初来日は1956年だそうですから、もう半世紀以上も昔のことですが、それでもそのときには不世出の指揮者フルトヴェングラーが亡くなって2年後のことです。フルトヴェングラーの録音で聴くウィーン・フィルの凄さは誰しも認めるところでしょう。今回も予習でそのころのウィーン・フィルの素晴らしい響きを聴きましたが、今回の来日演奏のウィーン・フィルの響きを聴いて、本質的にはその響きが受け継がれていることが体感できました。この場にフルトヴェングラー、ワルター、クレメンス・クラウス、クレンペラーが指揮台の上に立てば、往年の名演奏がそのまままの音で再現されるだろうなあという妙な感慨に浸ってしまいました。ひとつのオーケストラの昔と変わらぬ響きを持続しているって凄いことですね。

今回のウィーン・フィルの来日コンサートは何を聴きにいこうか、正直、迷いました。マーラーとかブルックナーとかR・シュトラウスとか重い曲目があれば、それで決まりですが、今回はモーツァルトを中心とした比較的、軽い曲目ですし、指揮もそんなにカリスマ性のないエッシェンバッハ(ファンのかた、ゴメンナサイ)。いっそのこと、パスしようかとも思いました。今年の春にはウィーンでマーラーも聴いて、大満足したばっかりですしね。でも、来日しているのに何も聴かないのは何か寂しいものがあります。モーツァルトの最後の3つの交響曲をまとめて聴くのも初めてなので、それにしてみようと思った次第です。

予習のため、久々にモーツァルトをまとめ聴きしてみましたが、この3つの交響曲は名演奏を聴けば、実に深い内容を秘めていることが再確認できました。そして、このウィーン・フィルのコンサートが楽しみになってきました。

その予習ですが、モーツァルトはLPレコードで聴きたいです。何故か? 亡くなった叔父さんからの豊富な遺産があるからです。その上で、ウィーン・フィルの歴史的な演奏もCDで聴きました。予習したのは以下です。

1. ワルター コロンビア交響楽団 第40番/第41番 LP
2. クーベリック バイエルン放送交響楽団 第39番/第40番/第41番 LP
3. フリッチャイ ウィーン交響楽団 第40番/第41番 LP
4. ホグウッド エンシェント室内管弦楽団 第39番/第40番/第41番 LP
5. ベーム ベルリン・フィル 第40番/第41番 LP
6. ケルテス ウィーン・フィル 第39番/第40番 LP
7. セル クリーブランド管弦楽団 第39番/第40番 LP
8. ワルター ウィーン・フィル 第40番 CD 1952年録音
9. ワルター ウィーン・フィル 第41番 CD 1938年録音
  10. フルトヴェングラー ウィーン・フィル 第40番 CD 1948/49年録音
  11. クレンペラー ウィーン・フィル 第41番 CD 1968年録音

ワルター指揮コロンビア交響楽団、ベーム指揮ベルリン・フィルは実に安定感のある立派な演奏。今回素晴らしさに気付いたのはクーベリック指揮バイエルン放送交響楽団。とても見事な演奏です。しかし、それ以上にびっくりしたのはフリッチャイ指揮ウィーン交響楽団の演奏です。フリッチャイ独特のタメのきいた指揮は素晴らしいです。これでウィーン・フィルとDECCAで録音していれば、もっと凄かったのにと残念にも思いました。ケルテス指揮ウィーン・フィルの演奏は、ケルテスには悪いのですが、ウィーン・フィルの素晴らしい響きが聴けて、素晴らしい録音です。ウィーン・フィル主導の演奏に聴こえます。指揮者が誰であれ、ウィーン・フィルの響きはモーツァルトを聴くのに最適だと思わせるような演奏です。
というところで、LPレコードをすべて聴き終えて、CDは大指揮者がウィーン・フィルを振った演奏を聴きます。まず、モーツァルトと言えば、この人、ブルーノ・ワルター。1952年録音の第40番はもうこれ以上の演奏はないと思えるほど。これを聴くとほかの第40番の演奏は聴けなくなります。哀感のこもった第1楽章には聴き惚れるだけです。モノラルだということは決してハンディにはなりません。同じワルターの1938年録音の第41番はそんなに音が悪いわけではありませんが、これは資料的価値といったところでしょうか。ウィーン・フィルの第1ヴァイオリンの素晴らしい響き、木管の素晴らしい響きは十分に聴き取れます。フルトヴェングラーの第40番もウィーン・フィルの響きの素晴らしさを最大限に生かした驚異的な演奏です。快速で飛ばす第1楽章は決して奇をてらったものではなく、あるべき速さに思えます。そして、第4楽章の充実度。第41番の第4楽章も聴いてみたかったものです。多分、録音ありませんよね。最後に聴いたのはクレンペラー。1968年のウィーン芸術週間に登場したクレンペラーは既に83歳だったそうです。彼とウィーン・フィルが残した8枚のCDは何と素晴らしいのでしょう。その中の1枚、この第41番は厳格で重厚でありながらも、ウィーン・フィルの第1ヴァイオリンの美しい響きもあって、決して重たくはありません。インテンポの演奏が心に訴えかけてくるような名演奏です。

では、今回のコンサートを聴いてみましょう。

今日のプログラムは以下です。

  指揮:クリストフ・エッシェンバッハ
  管弦楽:ウィーン・フィル


  モーツァルト: 交響曲第39番 変ホ長調 K.543

   《休憩》

  モーツァルト: 交響曲第40番 ト短調 K.550

   《休憩》

  モーツァルト: 交響曲第41番 ハ長調 K.551「ジュピター」


最初の交響曲第39番を聴いたところで、悟りました。本気モードのウィーン・フィルはこの第39番を序奏にして、素晴らしい演奏を繰り広げてくれるだろうとの思いです。まず、コンサートマスターのキュッヒルの厳しい顔つきでの演奏を先頭に第1ヴァイオリンの素晴らしく美しい響きが聴衆の体を貫きます。木管の響きも続きます。そして、一体感のあるアンサンブル。これが世界最高のオーケストラかどうかは些細な問題で、ともかく、この響きはウィーン・フィルだけのものです。

第40番の第1楽章は中庸か、ちょっと遅めのテンポで、ともかく美し過ぎる響きの第1ヴァイオリンに耳を奪われます。満足過ぎる第1楽章です。続く第2楽章の天国的な響き、第3楽章の厚みのある減の響き、何も言うことがありません。そして、圧巻の第4楽章。晩年のモーツァルトの達した高みを思う存分、味わわせてもらいました。ふーっ・・・。

交響曲第41番は3部作の交響曲をしめくくる作品。第39番と第40番をヘーゲル的な意味でアウフヘーベンしたものに思えます。事実、第1楽章は決然とした開始です。これが結論だと言わんばかりです。ウィーン・フィルの響きは激しくもありますが、根底は柔らかさを潜ませています。強さと甘さ・・・これも止揚しているかの如くです。めくるめくような演奏に圧倒されつつも、優しさに抱かれるような思いです。第2楽章は美しさも悲しさも、そして、ベートーヴェンを思わせるような厳しい精神性もないまぜにしたような果てしない音楽・・・長大な音楽が見事に演奏されます。第3楽章は一転して、舞曲のようなノリのよい演奏で心躍らされます。そして、すべての収束点になる第4楽章。3部作の交響曲の到達点であり、全交響曲の最終到達点。単純とも思える主題が繰り返し、重なり合って、高揚していきます。モーツァルトのオーケストラ曲の最高峰です。この果てしもない高揚の末にウィーン・フィルが奏でた弦楽のフーガの超絶的な高みは感動するしかないでしょう。そして、簡潔なコーダ。パーフェクトなモーツァルトでした。

昨夜はとても感想が書ける精神状態ではなく、1日置いた今日の記事になってしまいました。音楽の与えてくれるあまりの幸福感に耐え切れなかったんです。

ところで最後に苦言。サントリーホールの聴衆の素晴らしさにはいつも敬服していますが、昨日に限っては一部の聴衆のフライング気味の拍手・・・とても耐えられませんでした。音の余韻すら、楽しめませんでした。トッパンホールのヴィトマン&ハーゲン・カルテットのブラームスのクラリネット五重奏曲では演奏が終わり、奏者が手を下げても静寂が続き、奏者が立ち上がってから、ようやく拍手が起こりました。感動が倍化したのは言うまでもありません。心当たりのある方は猛省を!! あなた一人のコンサートではありませんよ。


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08/04 21:31 G線上のアリア

じじいさん、コメントありがとうございます。saraiです。
思えば、もう10年前のコンサートです。
これがsaraiの聴いたハイティンク最高のコンサートでした。
その後、ザル

07/08 18:59 sarai

CDでしか聴いてはいません。
公演では小沢、ショルティだけ

ベーム、ケルテス、ショルティ、クーベリック、
クルト。ザンデルリング、ヴァント、ハイティンク
、チェリブ

07/08 15:53 じじい@

saraiです。
久々のコメント、ありがとうございます。
哀愁のヨーロッパ、懐かしく思い出してもらえたようで、記事の書き甲斐がありました。マイセンはやはりカップは高く

06/18 12:46 sarai

私も18年前にドレスデンでバームクーヘン食べました。マイセンではB級品でもコーヒー茶碗1客日本円で5万円程して庶民には高くて買えなかったですよ。奥様はもしかして◯良女

06/18 08:33 五十棲郁子

 ≪…明恵上人…≫の、仏眼仏母(ぶつげんぶつも)から、百人一首の本歌取りで数の言葉ヒフミヨ(1234)に、華厳の精神を・・・

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通りすがりさん

コメント、ありがとうございます。正直、もう2年ほど前のコンサートなので、詳細は覚えておらず、自分の文章を信じるしかないのですが、生演奏とテレビで

05/13 23:47 sarai
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