20年ぶりのベルリン:旧ナショナル・ギャラリーのドイツ印象派の作品群
博物館島の旧ナショナル・ギャラリーAlte Nationalgalerieにはフリードリヒの素晴らしいコレクションのほかにも、マックス・リーバーマンやアルノルト・ベックリンやフリッツ・フォン・ウーデの作品も揃っています。さすがにベルリンですね。
これはアルノルト・ベックリンの《荒廃した城のある風景》です。ベックリンはこれまでドイツ人とばかり、思っていましたが、実はスイスのバーゼル出身だそうです。ただ、人生の大半はドイツとイタリアで過ごし、晩年を過ごしたイタリアのフィレンツェで傑作の数々を描いたそうです。ベックリンは印象派の画家が活躍した19世紀末に、文学、神話、聖書などを題材に、想像上のイメージを幻想的に描き出した象徴主義の画家たちの一人です。象徴主義の画家として、saraiの脳裏に浮かぶのは、フランスのギュスターブ・モロー、ルドン、そして、ベルギーのクノップフという超個性的な画家たちです。ベックリンの作品はこの部屋には、この1枚だけです。この絵はちょっと見ると、フリードリヒ風にも見える不思議な絵です。

これはカール・フリードリッヒ・シンケルの《川の上の中世の街》です。シンケルは新古典主義の建築家ですが、絵も描いていたようです。作風はやはり新古典主義でしょうか。建築家としては、博物館島Museumsinselの旧博物館Altes Museumが彼の作品です。

これはフランツ・フォン・レンバッハの《リヒャルト・ワーグナーの肖像》です。これは凄いものを見ました。フランツ・フォン・レンバッハ伯爵は伯爵画家としても知られていますが、何といっても彼の収集したコレクションが展示されているミュンヘンMünchenのレンバッハハウス美術館Städtische Galerie im Lenbachhausが有名です。この美術館はカンディンスキー、マルク、クレーなどを中心とした芸術運動の青騎士der Blaue Reiterの聖地です。sarai、そして、マルクの大ファンである配偶者は当然、レンバッハハウス美術館を訪れましたが、残念ながら改装中のため、まだ、入館できていません。レンバッハハウス美術館はレンバッハ伯爵邸の一部を改装して作られましたが、場所はミュンヘンのケーニヒス広場Königsplatzの一角にあります。レンバッハが同じ芸術愛好家として尊敬していたルードヴィッヒ2世が造営した広場です。そのルードヴィッヒ2世が熱烈に後援していたのが音楽家リヒャルト・ワーグナーです。そのワーグナーを描いた肖像です。レンバッハもワーグナーと親交があったんですね。

これはマックス・リーバーマンの《ラーレンの亜麻布納屋》です。リーバーマンはフランスの印象派に傾倒し、ドイツの印象派の代表的な存在です。ユダヤ系ドイツ人であった彼はナチスの台頭によって、ドイツ画壇の中心的存在の座から追われ、寂しい最期となったそうです。それでもクレーなどとは違って、彼の作品群がベルリンでこうして見られるのですから、まだしもではないでしょうか。
この作品は暗い画面でオランダ風の絵画ですね。

これはマックス・リーバーマンの《靴直し工房》です。これも上の作品と同様の印象を受けます。

これはマックス・リーバーマンの《ガチョウの羽をむしる女達》です。これも精緻な画風ですが、オランダ絵画を思わせます。

これはマックス・リーバーマンの《ライデンのStevenstift》です。これは戸外の光を表現した作品で、印象派にふさわしいものです。

これはマックス・リーバーマンの《アムステルダムの幼児学校》です。可愛い子供たちを明るく描いていますが、ルノアールとは随分、違いますね。これがドイツ的とでも言うんでしょう。

これはマックス・リーバーマンの《アムステルダムの孤児の女の子》です。これも戸外で描いた作品ですが、印象派というよりも、彼の独自性が感じられる作品です。

これはフリッツ・フォン・ウーデの《ヒースのなかの小さなプリンセス》です。ウーデもドイツの印象派を代表する画家の一人です。
この作品も戸外での人物と風景を描いた印象派らしい作品ですが、精緻で写実的に描きこんでいるので、ちょっと違和感を感じます。印象派の明るい光が感じられないんです。

これはフリッツ・フォン・ウーデの《食前の祈り》です。これは現実の場面にキリストが登場しているので、普通の意味での印象派ではなくて、宗教性との融合を図った作品です。その真価はsaraiにはまだ理解できません。カラヴァッジョからの光と陰の技法の延長線上に印象派を置いてみたとも思えますが、どうでしょうね。

これはフリッツ・フォン・ウーデの《ザンドフォールト(オランダ)の手回しオルガンひき》です。これはまるでフランドル絵画のようにも思えます。色々な模索があったんでしょうか。

ドイツの印象派、象徴主義の画家の作品を見ています。こんなに一度に見られる機会は今までありませんでしたから、とっても面白く感じています。
まだまだ、旧ナショナル・ギャラリーでの鑑賞は続きます。
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この記事へのコメント
上掲のマックス・リーバーマンの絵の数々を拝見すると、題材や描かれた場所がいかにもオランダだし、色のトーンや構図などにオランダの印象派絵画の影響が非常に感じられます。調べてみたら、彼は1876年から1877年にオランダに滞在し、1874年から1914年の夏にはオランダに来て絵を描いていたということで納得。
『靴直し工房』はゴッホのオランダ時代の絵に似てるし、『ダチョウの毛をむしる女達』はオランダ黄金時代の17世紀の風俗画そのもの。オランダの印象派画家サーク・イスラエルスとも親交があったようで、スヘーフェニンヘンの海岸を描いた絵など、イスラエルスそっくりです。(今年の夏は、デン・ハーグの美術館数箇所でイスラエルスの回顧展が開かれてました)
リーバーマンの絵からは、オランダ絵画のダイレクトな影響が見て取れて興味深いです。
2, saraiさん 2012/11/19 08:35
レイネさん、こんにちは。
もう一度、リーバーマンの絵を見ると、ドイツ人というよりも、オランダ人の印象派といってもいいほどですね。でも、ナチスが台頭する前は、彼はドイツ画壇の重鎮だったのですから、ドイツにおいて、オランダ絵画の影響がいかに強いか、興味深いですね。次回のベックリンもオランダ、フランドルの影響が感じられますしね。
ところで、ヤン・ファン・エイクの『トリノ=ミラノ時祷書』を見られたとのこと、大変、羨ましく、読ませていただきました。
3, ayaさん 2013/02/10 17:55
saraiさん こんにちは。以前、バーゼルの美術館への旅でメールさせていただいたayaです。
実は、ちょっと予定変更で、6月にベルリンに行こうと思っています。
ここでのお目当ては、カスパー・ダヴィッド・フリードリヒの絵画たちです。というわけで、ぐぐっていたら、またまたsaraiさんのページに到達してしまったというわけです。 :-)
今、博物館島の美術館たちが改装中とガイドに出ていたのですが、
saraiさん昨年末にいらしたのですね。
あちらの様子はどうでしたか?
それに、さすがベルリンというべきか、、、
旧ナショナルギャラリー、新ナショナルギャラリー、絵画館など
いろいろあって、どこに何があるのか、いまいち、はっきり
しません。
教えていただけたら嬉しいです!
PS せっかくベルリンに行くので、ぜひベルリンフィルも聞きたいと
思っていますが・・・。
4, saraiさん 2013/02/10 23:49
ayaさん、こんばんは。saraiです。
どうやら、ayaさんとは美術の趣味が合っているようですね。
ベルリンは美術の宝庫です。楽しんでください。フリードリヒは、多分、旧ナショナル・ギャラリーに最大のコレクションがあります。6月にはドレスデンでもフリードリヒの作品を堪能する予定です。
実はsaraiがベルリンに行ったのは昨年の4月です。そのときの記録を今頃、書きこんでいるので、現在の状況は分かりません。
新ナショナル・ギャラリーだけは行く余裕がなく、残念でした。絵画館、新ナショナル・ギャラリーはかなり詳しくレポートしたので、当ブルグを参考にしてください。フィルハーモニーで聴くベルリン・フィルも聴き逃せませんね。
不明点があれば、ご遠慮なく、どうぞ。
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