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一生に一度の邂逅!《グレの歌》@ウィーン・コンツェルトハウス 2013.6.22

いやはや、どこから書き始めれば、いいのか、迷ってしまうほど、実に多彩で凄すぎるコンサートでした。
シェーンベルクの《グレの歌》は無調音楽以前の後期ロマン派の絶頂をなす大曲で、ワーグナーはもちろんのこと、師匠のツェムリンスキー、さらにはマーラーの影響も受けつつ、シェーンベルクの濃厚なロマンの味わいを主軸にしています。曲は前半の第1部、及び後半の第2部、第3部からなりますが、前半と後半では、まったくと言っていいほどに、味わい・構成が異なり、聴く者にとって、受け止めかた・好みが分かれます。

saraiにとっては、どちらも衝撃的で素晴らしいのですが、大好きなのは前半の第1部です。第1部はヴァルデマール王とその愛人のトーヴェが交互に歌を交わしていく形式になっています。《トリスタンとイゾルデ》のように濃厚な愛を語り合うのではなく、もっとあっさりとした愛の歌です。あっさりと言っても、もちろん、ワーグナーに比べるとというだけで、深い情念を秘めた歌です。最初のオーケストラの前奏曲に続き、ジェイ・ハンター・モリスがヴァルデマール王の「いま黄昏がおとずれて」を低く、深い響きの声で歌い始めます。音域はバリトン。この人は本当にテノールなのっていう感じの響きです。しみじみとした歌に聴き惚れます。さすがに最近、ブレークしているワーグナー歌いのヘルデン・テノールです。柔らかい響きではなく、男らしい力を秘めた響きですが、表現はとても叙情的です。こういう響きと表現の組み合わせは、これまで聴いたことがありません。とても感銘を受けます。それにsaraiの席は2列目の中央、すぐそばでジェイ・ハンター・モリスとデノケが歌うので、ホールの響きではなく、声が直接耳に入ってきます。
次は待ちに待ったデノケがトーヴェの「おお月光が静かに滑るように輝き」を歌い始めます。このあたりは余裕の笑みさえ浮かべながらの歌唱。まだまだ、デノケらしいピュアーな高音のパートではありませんが、実に丁寧で美しい歌唱です。
次はまたジェイ・ハンター・モリスが「馬よ 我が馬よ」を激しく、ヘルデン・テノールらしく、大迫力で歌います。これは凄い。バリトンの声域からテノールの声域まで同じ力強く、輝かしい響きです。しかも深みのある響きでもあります。トリスタンを歌わせたい感じです。
次はまたデノケが「星が歓呼し 輝く海は」を初々しく、感性豊かにロマンチックに歌い、だんだん高揚してきます。でも、まだ、デノケの本領はこれからです。
ここでヴァルデマール王はトーヴェのいるグレの城に到着し、いよいよ愛の密会のシーンが始まります。このあたり、オペラにしたいくらいです。
ジェイ・ハンター・モリスが「神の王座の前で舞う天使たちの踊りも」で、すべての天使と引き換えにしても、このグレの城の宝、すなわち、トーヴェを決して手放さないと情熱的な愛の歌を歌います。リリックさも雄々しさも兼ね備えたスーパーテノールです。その底知れぬ実力を間近に聴き、鳥肌が立ちます。
デノケは「今私はあなたにはじめて申します」とヴァルデマール王への真実の愛の告白を歌います。見事な抑制された歌唱で胸に迫るものがあります。デノケらしい、素晴らしい響きが聴こえ始めました。こんな間近に完璧な歌唱を聴かされると、たまりません。
ジェイ・ハンター・モリスが「真夜中だ」と愛の喜びに燃えつつも、逆にいつか訪れる愛の終わり、すなわち、死へ不安を歌います。圧倒的な迫力、そして、暗い音楽です。
デノケの歌も最後の歌になります。もう、これで聴けなくなると思うと、とてつもない寂しさに襲われます。「あなたは私に愛のまなざしを送り」とヴァルデマール王を力づけるような、優しい愛の歌を歌いあげます。saraiがこの《グレの歌》でもっとも好きな歌です。デノケは見事な音程で感動的な歌・・・これはたまりません。今日のデノケは決して絶好調というわけではなく、特に超高音域の声がいまひとつ出ていませんが、それも素晴らしくカバーして、胸に迫る歌を聴かせてくれました。静かにデノケの歌は終わりました。ジーンときました。オペラなら、ここで拍手・・・それも盛大な拍手です。
ジェイ・ハンター・モリスが「不思議な娘トーヴェよ」を歌い、トーヴェの優しい歌でたましいに平安を得られたことを切々と歌います。
オーケストラの間奏がはいります。ヴァルデマール王の王妃ヘルヴィッヒの激怒でトーヴェは殺害されます。
最後にオーケストラ後方に立つ藤村実穂子が森鳩の声で「グレの鳩たちよ」を実にアーティスチックに歌いあげます。低く、そして、時として、ダイナミックに、素晴らしい声の響きです。それに恐ろしいくらいの感情表現。見事な歌唱でトーヴェの死を歌いあげます。素晴らしかったデノケを食ってしまいそうな勢いの歌唱です。この日は彼女の気魄がすべてに優っていたかもしれません。森鳩を藤村実穂子以上に歌える歌手はいないでしょう。

ここで、前半の第一部は終了。
もう、これ以上、何が聴けるのかという感じです。2人の愛は不倫の愛ですが、死をも超越するような純粋な愛。その愛は第1部で完璧に成就します。2人の見事な歌唱、さらに藤村美穂子が決めてくれました。そして、ナガノがうまくオーケストラをコントロールして、最高の出来。

休憩後の後半、第2部と第3部は、もう、デノケも藤村実穂子も登場しません。そのかわり、遂に総勢、200人以上の大合唱団が満を持して、登場。後半についてはもう詳しく書きませんが、フィナーレの大管弦楽と大合唱の大迫力は凄く、コンツェルトハウスのグローサーザールに轟きわたりました。この凄まじい音量に感動できない人はいないでしょう。そう、マーラーの交響曲第2番《復活》と同様です。ケント・ナガノのコントロール能力、音楽性も刮目するものがありました。そうそう、語り手の女優ズニー・メレスの《グレの歌》に没入した、彼岸にでも魂が飛ばされたような見事な語りも堪能しました。

今日のキャストは以下です。

  指揮:ケント・ナガノ
  管弦楽:ウィーン交響楽団
  合唱:Wiener Singakademie、Orfeo Catala、Cor de Cambra del Palau de la Musica Catalana、Herren des Chores des Slowakischen Nationaltheaters

  ヴァルデマール:ジェイ・ハンター・モリス
  トーヴェ:アンゲラ・デノケ
  森鳩:藤村実穂子
  農民:アルバート・ドーメン
  道化:クルト・アゼスベルガー
  語り手:ズニー・メレス

今回の旅で、各都市で素晴らしいオペラ・オペレッタ・コンサートを聴きましたが、それらの集大成として聴くのにふさわしい超大曲《グレの歌》でした。きっと、saraiの1生で1度の音楽体験になるに、相違ありません。



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テーマ : クラシック
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