モラヴィアの深い響き:オペラ《イェヌーファ》@新国立劇場 2016.3.8
久しぶりに聴く国内でのオペラです。実は今年は4月にウィーン国立歌劇場でデノケの歌う《イェヌーファ》を聴こうと思って、楽しみにしていたんです。そのヨーロッパ遠征の計画に手を付ける直前に起こったのがパリのテロ事件。結局、計画を断念しましたが、《イェヌーファ》を聴き逃したのが残念でした。そこへこの新国立劇場の《イェヌーファ》公演の情報を知り、久しぶりに国内でオペラを聴くことにしました。そもそも新国立劇場自体、ずいぶん昔に1回聴いた記憶があるだけで、実質的に初聴きみたいなものです。
ヤナーチェックの作曲した《イェヌーファ》は悲惨なストーリーが展開される中、愛や許しについて、深く考えさせられるオペラです。ヤナーチェックの初期のオペラではありますが、モラヴィアの旋律やチェコ語の語法を感じさせるヤナーチェックらしさが満載のオペラです。こういうチェコのお国ものとも言えるオペラで日本のオペラハウスが素晴らしい演奏を聴かせてくれたのは驚異的とも言えます。チェコの若手指揮者トマーシュ・ハヌスの力量も大きかったのでしょう。チェコの若手指揮者の活躍ぶりは目を瞠るものがあります。都響の首席客演指揮者ヤクブ・フルシャ、トマーシュ・ネトピルなどsaraiが実際に聴いた指揮者は素晴らしいチェコ音楽を聴かせてくれました。ハヌスの指揮で印象に残ったのは、オペラ中にゲネラル・パウゼを多用したことです。ただでさえ、深刻な内容の音楽ですが、さらに緊張感を高めることに成功していたと思います。
さらに凄かったのは海外から公演に参加した歌手陣の素晴らしい歌唱。主要とも思えない役の《ブリヤ家の女主人》が素晴らしい歌唱だと思ったら、なんとハンナ・シュヴァルツではありませんか。まだ、歌っていたとは思っていませんでしたが、結構、お若い様子。調べてみたら。最後に聴いたのは1993年の《トリスタンとイゾルデ》のブランゲーネ役でした。ワーグナーの楽劇に欠かせない人でした。何と現在、72歳で現役なんですね。コステルニチカ役のジェニファー・ラーモアは昨年、アムステルダムのネーデルランドオペラでの《ルル》でゲシュヴィッツ伯爵令嬢を歌って、感銘を与えてくれました。サイン会でサインもいただきました。今日も第2幕での鬼気迫る歌唱は素晴らしかったです。そして、何といっても素晴らしかったのがイェヌーファを歌ったミヒャエラ・カウネです。透明感あふれる声の響きは最高。コステルニチカ役のジェニファー・ラーモアとの掛け合いでは、それぞれの声質の違いを聴かせつつ、なおかつ、透明感での協調もあり、見事としか言えない歌唱でした。男性のテノールの二人も素晴らしい歌唱でしたが、女性3人が素晴らし過ぎたというところ。ちなみにこのキャストや演出はベルリン・ドイツ・オペラで公演したものと同一で、DVDも出ています。
今日の演奏は幕を追うごとに音楽的感興は高まるばかり。第3幕終盤、コステルニチカが子供殺しを告白して村長に連れ去られたところでいったんフィナーレの雰囲気に盛り上がります。しかし、その後のエピローグ的な5分ほどの最終場面の感動的なこと。イェヌーファ役のカウネの絶唱にはただただ涙するばかりです。イェヌーファとラツァが手と携えて未来に向かって歩んでいくところでフィナーレになりますが、拍手ができないほどの大きな感動が胸にひろがりました。
今日のキャストは以下です。
指揮:トマーシュ・ハヌス
演出:クリストフ・ロイ
ブリヤ家の女主人:ハンナ・シュヴァルツ
ラツァ・クレメニュ:ヴィル・ハルトマン
シュテヴァ・ブリヤ:ジャンルカ・ザンピエーリ
コステルニチカ:ジェニファー・ラーモア
イェヌーファ:ミヒャエラ・カウネ
管弦楽:東京交響楽団
合 唱:新国立劇場合唱団
今日の公演に向けての予習は以下。いずれも素晴らしい演奏でしたが、今日の公演も同レベルの素晴らしさでした。
DVD リセウ劇場ライブ ペーター・シュナイダー指揮、ニーナ・シュテンメ、エヴァ・マルトン
CD マッケラス&ウィーン・フィル、エリーザベト・ゼーダーシュトレーム、エヴァ・ランドヴァー
CD ロイヤル・オペラ・ライブ ハイティンク指揮、カリタ・マッティラ、アニヤ・シリア
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