三月大歌舞伎《昼の部》@歌舞伎座 2016.3.12
朝11時からの開演に向けて、地下鉄の都営浅草線の東銀座駅に降り立つとすぐに歌舞伎座の地下に出ます。売店の並ぶ地下は多くの人でいっぱいです。まずはタリーズコーヒーで朝食。1階玄関前のチケット預かり窓口で予約済のチケットを受け取り、3階の客席に上がります。おやつの試食だけで満足して、席に着くとすぐに開演。
まずは最初の演目、寿曽我対面(ことぶきそがのたいめん)です。これは前にも見たことがあるので、内容がよく分かり、とても楽しめます。要するに曽我兄弟の仇討ちに先立つ前段のお話しです。仇討ちの相手である工藤祐経の人情あふれるくだりが心に沁みる話です。曽我兄弟の弟五郎の逸る態度を制する兄十郎、2人の性格の違いも見どころです。
で、今日の公演ですが、橋之助演じる工藤祐経は今一つ、ピンときません。あえて、自分への仇討ちの機会を与える場面では本来はジーンと胸にくるはずですが、若干、セリフが空回り。ここが一番の見どころなんですけどね。松緑演じる弟五郎はそれなりに元気があってよかったのですが、勘九郎演じる兄十郎はただ落ち着いているだけで仇討ちに向けての強い内面が感じられません。まあ、それでも全体としては脇役も立派だし、十分に楽しめました。
ここで休憩。本来はお弁当の時間ですが、朝食が遅かったので、とりあえず、鯛焼きを食べます。
続いて、舞踊の女戻駕(おんなもどりかご)と俄獅子(にわかじし)。こういうゆったりした日本舞踊は苦手のsaraiです。ぼーっと見ているうちに幕。まあ、梅玉の踊った俄獅子はそれなりに楽しめました。
ここでまた休憩。今度はお弁当を求めて、館内を回りますが、見つからず、サンドイッチをいただきます。
次は、鎌倉三代記(かまくらさんだいき)、絹川村閑居の場です。これは初めて実演に接しますが、素晴らしいお芝居で、とても楽しめます。鎌倉時代の源頼家方と北条時政方の争いにまつわる男女の愛、親子の情、武士の心情を描いたものです。北条時政の娘の時姫が相手方の武将である三浦之助義村に心を寄せて、病床にある三浦之助義村の母を看病するために三浦之助義村の実家に泊まり込んでいることが物語の発端です。戦場で傷ついた三浦之助義村が実家に戻り、母の様子を見ようとしますが、母は戦場から離脱し、実家に戻った三浦之助義村と会うことを拒否します。これも子を思う親の情なんです。一方、束の間の逢瀬を楽しみたい時姫は強く三浦之助義村との一夜を望みます。三浦之助義村は敵将の娘である時姫のことを心の底からは信じられません。そうこうするうちに時姫を連れ戻すために北条時政が送った武将や腰元がうろちょろし、中でも安達藤三郎が使者として、時姫に帰還を迫ります。安達藤三郎は北条時政から、時姫を連れ戻った暁には妻にしてよいというお墨付きをもらっています。うーん、それってなんだか聞いたことのあるような話だなっと思ったあなたは日本史に詳しい人です。そうです。これは鎌倉時代の話にしているだけで実は大阪夏の陣、千姫の話なんです。歌舞伎は江戸時代、実名を出すと幕府から大目玉をくらうような話はこういうふうにして、時代設定や名前を入れ替えて、お芝居にしていました。でも、みんな、そんなことは分かっていたので、幕府も鷹揚に黙認していたんですね。これも当時の民衆のガス抜きだったんでしょう。まあ、話を戻しますが、そういう扱いを受けた時姫はもちろん、安達藤三郎の要請を撥ね付けて、父の北条時政への不信感を募らせます。それを見ていた三浦之助義村はようやく、時姫の自分への無限の愛情を信じることができて、時姫にある提案を持ち掛けます。三浦之助義村はもうすぐ戦場での死を覚悟していますが、自分の死を見届けた後、時姫が北条時政のもとに戻り、すきを見て父を殺し、その後自害せよというものです。ある意味、愛情試験のようなものですね。もちろん、父親殺しは親不孝の極致ですが、自害することで親不孝のそしりは免れるという妙な理屈を三浦之助義村は語ります。このあたりはちょっと筋書きとしては無理がありそうです。驚くことにこの提案を時姫は受け入れます。これを陰で見ていた北条時政方の武将、富田六郎がこの事実を伝えるために北条時政のもとに駆け去ろうとしたとき、いきなり、井戸の中に潜んでいた安達藤三郎から槍の一撃をくらって、殺されてしまいます。北条時政方の武将であったはずの安達藤三郎は実は源頼家方が放ったスパイの佐々木高綱だったんです。でも、それなら、この佐々木高綱が北条時政を討てばよかったのにというのはなしですよ。それじゃ、このお芝居のストーリーが台無しになりますからね。最後は佐々木高綱が大見得を切って、佐々木高綱、三浦之助義村、時姫が並んでフィナーレ。こう書くと無茶苦茶なストーリーですが、実際に名優たちが演じると、胸に響く、素晴らしいお芝居になるところが歌舞伎の醍醐味です。
今日の公演は芝雀改め雀右衛門が5代目を襲名するもので雀右衛門が時姫を演じました。歌舞伎では3姫という歌舞伎があって、時代物の姫役のうち至難とされる三役を言います。「本朝廿四孝」の八重垣姫、「鎌倉三代記」の時姫、「祇園(ぎおん)祭礼信仰記」の雪姫です。この時姫と夜の公演の雪姫(後述)を5代目襲名で雀右衛門が演じます。なかなか見栄えも声もよく、上々のスタートです。これからが期待されます。
三浦之助義村を演じた尾上菊五郎が見事なお芝居を見せてくれました。彼は胃潰瘍のために初日(3月3日)から休演していましたが、体調は決してよくないように見えましたが、今日から復帰してくれました。実生活での体調不良と役柄で重傷を負った武将というのも重なり、鬼気迫る演技です。菊五郎の素晴らしい演技を見られたのは嬉しかったのですが、まだまだ先のある身ですから、お体を大切に頑張ってほしいですね。
佐々木高綱を演じた中村吉右衛門はさすがの演技。特に最初の安達藤三郎を演じた洒脱な演技は彼にしかできない見事なものです。逆に後半の佐々木高綱の大見得はもっとスケールの大きな演技を期待していましたので、ちょっぴり不満。もっとも吉右衛門だからこその期待であって、素晴らしい演技ではあったんです。
その他の俳優も満足の出来で、今日、一番の内容でした。
最後は、舞踊の団子売(だんごうり)。日本舞踊は苦手のsaraiでも、片岡仁左衛門と孝太郎の親子共演は楽しい内容でした。特に片岡仁左衛門の芸の力に感服しました。
満足したところで今日の昼の部はおしまい。
今日の公演内容は以下です。
昼の部 午前11時~
1.寿曽我対面(ことぶきそがのたいめん)
工藤祐経 橋之助
曽我五郎 松緑
曽我十郎 勘九郎
化粧坂少将 梅枝
近江小藤太 廣太郎
八幡三郎 廣松
喜瀬川亀鶴 児太郎
梶原平次景高 橘太郎
梶原平三景時 錦吾
大磯の虎 扇雀
小林朝比奈 鴈治郎
鬼王新左衛門 友右衛門
2.女戻駕(おんなもどりかご)
俄獅子(にわかじし)
〈女戻駕〉
吾妻屋おとき 時蔵
浪花屋おきく 菊之助
奴萬平 錦之助
〈俄獅子〉
鳶頭梅吉 梅玉
芸者お孝 孝太郎
芸者お春 魁春
3.鎌倉三代記(かまくらさんだいき)
絹川村閑居の場
時姫 芝雀改め雀右衛門
佐々木高綱 吉右衛門
おくる 東蔵
富田六郎 又五郎
母長門 秀太郎
三浦之助義村 菊五郎
4.団子売(だんごうり)
杵造 仁左衛門
お福 孝太郎
この後、夜の部が続きます。5代目襲名で雀右衛門の口上もあります。
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