三月大歌舞伎《夜の部》@歌舞伎座 2016.3.12
夜の部の公演を見るために、歌舞伎座3階の客席に上がります。席に着いて、これからの演目の内容についてのあらすじをチェックします。そして、開演。
まずは最初の演目、双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)、角力場です。角力場は双蝶々曲輪日記の2段目で、後半の段の引窓が有名でよく上演されます。saraiも引窓は前にも見たことがありますが、角力場は初めて見ます。この段はそれほどのストーリーがあるわけではありません。実績のある関取の濡髪長五郎に新進の放駒長吉が挑戦する取り組みが背景になります。実際の取り組みが演じられるわけではなく、行司の声だけが聞こえてきますが、なかなか臨場感を味わえます。この勝負は結局、新進の放駒長吉が濡髪長五郎を寄り切って勝ちます。それぞれの相撲取りには贔屓がついていて、濡髪長五郎には大店のぼんぼんの山崎屋与五郎、放駒長吉には侍の平岡郷左衛門です。実は廓で人気の藤屋吾妻をこの贔屓の二人は身請けしようと張り合っています。恋仲になっているのは大店のぼんぼんの山崎屋与五郎のほうですが、侍の平岡郷左衛門は藩の御用金に手を付けて、お金の力で身請けしようとたくらんでいます。そして、彼らは贔屓にしている相撲取りにそれぞれ、藤屋吾妻を身請けできるように話を付けてくれるように依頼します。で、相撲取り同士が土俵ではなく、相撲小屋の前で話で勝負するわけです。その話で明らかになるのはやはり実績のある関取の濡髪長五郎は大変な実力があり、土俵ではあえて放駒長吉に勝ちを譲ったという事実です。この八百長もどきに免じて、濡髪長五郎は放駒長吉に平岡郷左衛門が藤屋吾妻の身請けを見送るように迫りますが、放駒長吉は自分に勝ちを譲られた事実に怒ります。こうして、お互いににらみあいながら幕になるということで、ほとんどストーリーに進展があるわけではありません。みどころは本来、スマートな歌舞伎俳優が大柄な相撲取りをどう演じ切るかということ。それも大店のぼんぼんの山崎屋与五郎と新進の相撲取りの放駒長吉は一人二役でどう演じ分けるかというのも楽しみなところです。
で、今日のお芝居ですが、濡髪長五郎を演じた橋之助は堂々とした相撲取りぶりでおみごと。お昼の公演での工藤祐経役での不満を一掃してくれました。一方、山崎屋与五郎と放駒長吉を一人二役で演じた尾上菊之助は鮮やかな演じ分けに大満足です。どちらかと言えば、山崎屋与五郎のぼんぼんぶりがよかったです。少々、上っ調子の声色も見事です。体調の悪い父の菊五郎ももう少し頑張ってくれれば、立派な跡継ぎになれるでしょう。まだまだ長い精進は必要なんでしょうけどね。
軽めのお芝居ではありますが、なかなか楽しめて、満足でした。
ここで休憩。銀座のデパ地下でゲットしたお弁当をおいしくいただきます。
続いて、五代目中村雀右衛門襲名披露の口上です。雀右衛門の京屋の紋がはいり、紅白の牡丹の花が散らされた幕が開くと、歌舞伎の名優たちがずらって並んで頭を下げています。中央に座していた坂田藤十郎が頭を上げて、口上の口火を切ります。次々と錚々たる面々がお祝いや叱咤激励の口上を述べていき、最後に五代目を襲名した中村雀右衛門が口上を述べて幕。なかなか華やかでいいものですね。雀右衛門にはますます芸を磨いていってほしいものです。
ここでまた休憩。今度は余計にゲットした3つめのお弁当を配偶者とシェアしていただきます。食べてばかりですが、歌舞伎の楽しみは幕間で食べるお弁当にもありますからね。
次は、祇園祭礼信仰記(ぎおんさいれいしんこうき)、金閣寺です。これも初めて実演に接しますが、ちょっと荒唐無稽かつ間延びしたお芝居で、少し不満が残ります。saraiは世話物で泣かされるお芝居が好きですから、相性が悪かったんでしょう。まあ、5代目を襲名した雀右衛門の雪姫はキュートでなかなかよかったので、それでよしとしましょう。このお芝居の舞台は京都の金閣寺です。戦国時代、将軍足利義輝を暗殺した《国崩し》の大悪人の松永大膳は将軍の母親の慶寿院尼を人質にして金閣寺に立てこもっています。雪舟の孫娘の美女絵師の雪姫も無理やり連れ込んでいます。雪姫の夫の絵師の狩野之介直信も捕らえて、夫を殺すと脅迫して雪姫を言いなりにしようとしています。細かいストーリーは馬鹿馬鹿しいばかりですが、結局、此下東吉(木下藤吉郎すなわち秀吉)の活躍で人質を解放し、松永大膳を追い詰めるところで幕になります。このお芝居の見どころは何といっても雪姫の艶やかさに尽きるでしょう。雪舟の涙で描いた鼠の故事を下敷きにした雪姫が降り散った桜の花びらで鼠を描き、木に縛り付けられていた縄をその鼠が食いちぎる場面をどう魅力的に演じるかは見ものです。また、冒頭で松永大膳が此下東吉と碁を打ちながら、雪姫とちぐはくな会話を交わすコミカルさも面白いところです。
で、今日のお芝居ですが、雀右衛門演じる雪姫が縄で縛られながら、桜吹雪の中で独演するシーンはなかなか美しいものでした。ただ、これは演出の問題でしょうが少々、このシーンが長過ぎて間延びがしたのが残念なところです。松永大膳を演じた幸四郎ですが、あえてステレオタイプの悪役ぶりを強調するあたりは名優ならではの演技でした。碁を打つシーンは幸四郎と仁左衛門が実際にちゃんと碁石を置いていったのにはびっくり。セリフを言いながら、それなりの盤面を作っていったお二人の余裕の演技はさすがとしか言えません。最後に松永大膳が悪あがきをするシーンも大袈裟な演技が胴に行っていました。
此下東吉を演じた仁左衛門もなかなかかっこよかったです。
それぞれの俳優は見事に演じていたにもかかわらず、お芝居全体にしまりがなかったように感じたのは、もともとこの歌舞伎が駄作なのか、演出がよくなかったのか、どうなんでしょうね。
最後は、舞踊の関三奴(せきさんやっこ)。日本舞踊は苦手ですが、それにしてもあんまり秀逸な踊りにはありませんでしたね。槍の投げ合いのようなアクロバティックなところでもあれば、楽しかったかもしれませんけどね
今日は昼の部のほうがよかったと思いますが、夜は口上が聞けたのが収穫でした。
今日の公演内容は以下です。
夜の部 午後4時30分~
1.双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)
角力場
濡髪長五郎 橋之助
藤屋吾妻 高麗蔵
平岡郷左衛門 松江
三原有右衛門 亀寿
茶亭金平 橘三郎
山崎屋与五郎/放駒長吉 菊之助
2.五代目中村雀右衛門襲名披露 口上(こうじょう)
芝雀改め雀右衛門
幹部俳優出演
3.祇園祭礼信仰記(ぎおんさいれいしんこうき)
金閣寺
雪姫 芝雀改め雀右衛門
松永大膳 幸四郎
狩野之介直信 梅玉
松永鬼藤太 錦之助
春川左近 歌昇
戸田隼人 萬太郎
内海三郎 種之助
山下主水 米吉
十河軍平実は佐藤正清 歌六
此下東吉 仁左衛門
慶寿院尼 藤十郎
4.関三奴(せきさんやっこ)
奴駒平 鴈治郎
奴勘平 勘九郎
奴松平 松緑
昼の部、夜の部の延々、8時間超の長丁場は少々、疲れました。
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