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尖がったバルトーク、最高!!庄司紗矢香@川口リリアホール 2016.5.27

庄司紗矢香の初の無伴奏ヴァイオリン・リサイタルです。そして、期待を裏切ることのない素晴らしいリサイタルにsaraiは嬉しいばかりでした。バッハとバルトーク、200年以上の隔たりはありますが、無伴奏ヴァイオリンの頂上に君臨する名作です。それが敬愛する庄司紗矢香のヴァイオリンで聴けるのですから、1年間期待して待ち続けてきたリサイタルです。さらに庄司紗矢香のために書かれた細川俊夫の新作まで聴けるのですから、期待するなというのが無理です。ただ、心配だったのは、これほどの作品を彼女が弾き切るだけの体力があるのかということです。バッハもバルトークも緊張感を持続して演奏することを演奏家に強いる作品です。そう言えば、バルトークの無伴奏ヴァイオリン・ソナタが初演された1944年のユーディ・メニューヒンのリサイタルでもバッハが弾かれたそうです。もちろん、そのことを意識した庄司紗矢香のプログラムなんでしょう。さらに細川俊夫の新作の初演まで絡めるとは実にチャレンジャブルなプログラムではありませんか。

今日のプログラムは以下です。

  J.S.バッハ:幻想曲とフーガ ト短調 BWV542(ジャン=フレデリック・ヌーブルジェ編)
  バルトーク:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ Sz.117

   《休憩》

  細川俊夫:ヴァイオリン独奏のための「エクスタシス」・・・新作(2016)《庄司紗矢香委嘱作品・世界初演》
  J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番 ニ短調 BWV1004

会場は初遠征の川口リリアホール。川口駅のすぐ駅前にありました。横浜からは東京・上野ラインで赤羽まで直通で行け、京浜東北線でその赤羽の隣の駅が川口です。
今日のチケットは早々に完売したそうです。少し小ぶりな音楽ホールはもちろん満席です。saraiはこの日のチケットを入手するために川口リリアホールの会員になり、優先販売のチケットを入手しました。

開演時刻になり、静まり返るホールのステージに庄司紗矢香が登場。新しい赤い水玉のスカートのドレスで気合十分なようです。

最初はバッハの幻想曲とフーガ。原曲はオルガン独奏曲。バッハの傑作のひとつです。この曲ほどオルガンの特性が活かされた曲もないと感じるので、ヴァイオリン独奏ではスケール感が出ないだろうと危惧していましたが、さにあらず。庄司紗矢香の朗々と響き渡るヴォリューム感のあるヴァイオリンの演奏は見事の一言。前半の幻想曲は自在な演奏でありながら、どっしりと安定感もあります。これって、ヴァイオリン独奏のために書かれた曲なのかと錯覚するような演奏です。後半のフーガはさらに素晴らしい演奏。フーガの様式感を完全に手の内に収めた見事な演奏です。ともかく庄司紗矢香の美しいヴァイオリンの音色に唖然としました。とてもよく響きました。

次はいよいよ、バルトークの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ。saraiの予想では、バルトークを古典のようにリリックに演奏するのではないかと思っていました。しかし、最初の1小節でそれは間違いだと思い知らされます。72年前の作曲された時点に遡ったような前衛的で攻撃的な演奏です。尖がった演奏で丸まったところは微塵もありません。素晴らしい音色とテクニックでバルトークの音楽の本質を突いてきます。そうです・・・バルトークはこうでなくっちゃね。この作品はバルトークがナチスの手から逃れてアメリカで亡命生活を強いられ、白血病で闘っていた頃、大ヴァイオリニストのユーディ・メニューヒンが委嘱したものです。当初はヴァイオリン協奏曲を委嘱したかったようですが、バルトークの病状を見て、もう少し軽い作品ということで無伴奏ソナタを委嘱したようです。軽い・・・とんでもないです。バルトークは不屈の魂で燃えるような作品を作り上げました。バルトークは病にも逆境にも負けずに最後まで前衛的な作曲家でありつづけました。そういう作曲経緯を知っていれば、この無伴奏ヴァイオリン・ソナタを古典的な演奏で流すことなどはできる筈がありません。庄司紗矢香の芸術家魂を改めて感じました。外面は美しく、そして内面は燃えるような素晴らしい演奏でした。72年の時を超えてつながった二人の芸術家の心にsaraiの心も熱くなりました。
予習は以下の5枚のCDを聴きました。

 ユーディ・メニューヒン3枚 1947年、1957年、1974年
 イザベル・ファウスト
 ヴィクトリア・ムローヴァ

ファウストは彼女のデビュー盤です。古典的とも思える演奏でなかなか聴き応えがあります。庄司紗矢香もこの路線かと思いましたが、違いましたね。メニューヒンは魂の演奏とでも言いましょうか、とても突っ込んだ演奏です。聴くほうも辛くなるような演奏です。それでも年を経るうちに少しずつ角がとれてきて、最後の1974年が一番聴きやすい感じです。ムローヴァは基本的にはメニューヒン路線ですが、かなり、マイルドではあります。正統派のムローヴァか、古典演奏路線のファウストか、どちらかが良さそうに思いました。しかし、庄司紗矢香の演奏はメニューヒンの最初の1947年が一番近い感じです。きっと、1944年の初演の演奏を目指したんじゃないでしょうか。今日の庄司紗矢香の演奏を聴いて、saraiは猛烈に反省しました。芸術家への敬意に欠けていたようです。もっとメニューヒンの本質的な演奏に耳を傾けてみましょう。

休憩後は細川俊夫の新作です。おろそかに感想は書けません。なかなかの力作で美しさと力を兼ね備えた作品で庄司紗矢香の演奏も見事です。作曲家自身はシャーマニズムを念頭に置いて、庄司紗矢香をシャーマン(巫女)に見立てたとのことですが、庄司紗矢香の演奏は巫女のような演奏ではなく、現代に生きる音楽家そのものに思えます。そのギャップをどう埋めていくか、庄司紗矢香の演奏はまだ発展途上のようです。saraiは再度、聴く予定があるので、そのときにもう一度、この作品と演奏について考えてみたいと思います。

最後はバッハの無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番です。名曲中の名曲。庄司紗矢香のヴァイオリンは愉悦に満ちたバッハの世界を美しく演奏していきます。何も言うことのない演奏。ただただ、満足して、うっとりと聴き入ります。庄司紗矢香がこういうバッハを演奏してくれることにsaraiは嬉しく思うばかりです。最後のシャコンヌでsaraiの意識は宇宙に飛ばされた感じ。あまりの満足感でふーっと意識が朧げになっただけですが、それも致し方ないような美しい演奏です。バッハと庄司紗矢香でsaraiは幸福感でいっぱいになって、それがすべて。今度はバッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータの全曲演奏会を是非、実現させてください→庄司紗矢香様!

10日後にもう一度、同じプログラムを聴く予定です。楽しみです。


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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

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