北海沿岸のポール・デルヴォー美術館:デルヴォーの素晴らしい作品を堪能
北海沿岸の田舎町シント・イデスバルドSint-Idesbaldにあるポール・デルヴォー美術館Museum Paul Delvauxで配偶者と二人、素晴らしいポール・デルヴォーの作品群を独占状態で鑑賞します。
この美術館にはデルヴォーの初期から晩年に至る作品群が展示され、さらに彼の列車模型や骸骨といった収集品も展示され、彼の生涯を概観することができます。デルヴォーのファン、シュールレアリズム好きは行かなくてはいけないような聖地とも言えます。鉄道愛好家だったデルヴォーに合わせて、館内のベンチも鉄道車両の木製のベンチと思われるものになっていますし、館内のイメージも駅構内という感じです。凝った内装で素敵です。
では、主だった作品を見ていきましょう。
《語り手》です。1937年、デルヴォー40歳頃の作品です。この年にデルヴォーはシュザンヌ・ピュルナルという女性と結婚します。32歳のときに大恋愛したアンヌ=マリー・ド・マルトラール(愛称タム)とは母親の猛反対を受けて別れていました。母親は亡くなる際にもタムとは結婚しないように言い残したそうです。デルヴォーはいわゆるマザコンだったんですね。でも、デルヴォーは心の底ではタムのことを忘れられず、彼の絵に登場する女性はタムがモデルだと言われています。この作品は珍しく男性が描かれています。デルヴォーにはあまりないパターンの作品です。それでも男性は大きく目を見開いて無表情で、背景には神殿跡のようなものが描かれています。総体的にはデルヴォーワールドになっています。

《緑色のソファー(神殿)》です。1944年、デルヴォー47歳頃の作品です。これはまさしくデルヴォーワールドの絵です。左の女性が繰り返し描かれるタムがモデルになっている女性です。大きく目を見開き、陰毛を露わにしています。エロチックな筈ですが、そう感じないのは生身の女性でないからでしょう。顔がまったく無表情ですからね。マネキンみたいなものです。デルヴォー自身はミューズ(女神)を描いたと言っています。ミューズ=タムです。デルヴォーの心情を表しているのかもしれません。背景はいつもの神殿跡です。

《埋葬》です。1957年、デルヴォー60歳頃の作品です。デルヴォーはこれに先立つ10年前、50歳のときにこのポール・デルヴォー美術館のあるシント・イデスバルドで運命的な出会いを果たします。タムと偶然に18年ぶりに再会したんです。もう、デルヴォーの心を押し留めるものは何もありません。不倫には違いありませんが、それを言うとデルヴォーが可哀想でしょう。タムを逢瀬を重ねて、5年後、55歳のときに遂にタムと結婚しました。この作品はデルヴォーが好んで取り上げた骸骨が描かれています。デルヴォーが35歳の時にスピッツナー博物館の人体の骨格模型を見てショックを受けて以来、彼の作品の中に繰り返し登場しています。saraiは好みませんけどね。

《森の駅》です。1960年、デルヴォー63歳頃の作品です。デルヴォーは名うての鉄道マニアでした。鉄道もよく彼の絵に登場します。ただ、鉄道だけが描かれる作品はなんだか魅力に欠けますね。

《見捨てられて》です。1964年、デルヴォー67歳頃の作品です。裸のミューズたちの絵です。タムと結婚した後も相変わらず、タムを思わせるミューズばかりを描くデルヴォーです。結局、このワンパターンとも思える作品群がデルヴォーらしさを発揮する素晴らしい作品なんです。さりげなく背中を向ける謎の紳士が効果的にシュールさを醸し出しています。リアルでありながら、現実にはありえない幻想的なシーンが描かれています。

《消しゴム(アラン・ロブ=グリエの小説から)》です。1968年、デルヴォー71歳頃の作品です。画家への冒瀆かもしれませんが、saraiの趣味で絵の右半分を切り取ったものがこれです。《消しゴム》は“ヌーヴォー・ロマン”の旗手、ロブ=グリエの代表作かつデビュー作です。残念ながらsaraiはこの作者の存在すら知りませんでした。この小説は運河の街で起きたらしい殺人事件発生にまつわるストーリーだそうですが、我が国の安部公房にも影響を与えたそうな・・・。絵自体は古代の神殿の石段を上る巫女のような女性が強い印象を与えています。ロマンティックな雰囲気が素晴らしいです。

《ポンペイ》です。1970年、デルヴォー73歳頃の作品です。これは華やかな雰囲気の作品です。タムもミューズもいなくて、リアルなヌードの女性たちが描かれています。もはや、シュールレアリズムではありませんね。芸術的には退歩したかもしれませんが、デルヴォーの心は幸福感にあふれているようで微笑ましく感じます。作品の題名はこの場所がポンペイ遺跡であることを示しているようです。実際にこのような風景はあるんでしょうか。

《庭園》です。1971年、デルヴォー74歳頃の作品です。女性の肌の白さが目立ちます。老いてますますデルヴォーワールドは盛んです。シュールさよりもリアルさを感じるようになります。女性も少し表情を持つようになりました。タムと再会して20年以上も経ち、デルヴォーの心のトラウマもやわらいできたのでしょうか。

《最終列車》です。1975年、デルヴォー78歳頃の作品です。これは再び、タム=ミューズが復活し、シュールな雰囲気を醸し出しています。やはり、こういうデルヴォーがいいですね。

《海辺の夜》です。1976年、デルヴォー79歳頃の作品です。これも幻想的なシーンが描かれています。何かの儀式を思わせます。高齢でこういう作品が作り出せるエネルギーはどこから来るのでしょう。

《ポーズ》です。1979年、デルヴォー82歳頃の作品です。これはヌードのモデルを画家たちが描いているシーンがリアルに描かれているもので、モデルの女性も現実感があります。あのデルヴォーがこういう絵も描くようになったのかと驚かされます。もっともモデルの女性はリアルですが、画家たちの顔は無表情です。若干のシュールさは残しているかな。

最後の油彩画となった《カリュプソー》を見て、鑑賞を終えます。
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