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名古屋フィル&神奈川フィル_スペシャル・ジョイント・コンサート@横浜みなとみらいホール 2016.6.25

創立50周年の名古屋フィルと、昨年、創立45周年だった神奈川フィルが大編成のオーケストラを組んで、ショスタコーヴィチの交響曲第7番に挑むという注目のコンサートです。指揮は両者で指揮者を務めている川瀬賢太郎です。さらにモーツァルト演奏には絶対の信頼がおける菊池洋子がピアノ協奏曲第21番も弾くという垂涎のプログラム。これは聴くしかありません。実は神奈川フィルを聴くのはこれが2回目です。1回目は原因不明の高熱にうなされながら、聴いたマーラーでした。よかったような気もしますが、夢まぼろしの世界で聴いたコンサートでした。そのときの記事はここです。で、ちゃんと神奈川フィルを聴くのは実質、今日が初めてです。名古屋フィルを聴くのも初めて、川瀬賢太郎を聴くのも初めてです。菊池洋子は今年の宮崎音楽祭で聴いたばかりです。そのとき弾いたモーツァルトのピアノ・ソナタとヴァイオリン・ソナタは素晴らしい演奏でした。そのときの記事はここです。ただ、菊池洋子がオーケストラと共演するのを聴くのは初めてです。ソロで弾くときと同様に素晴らしいモーツァルトを聴かせてくれるのでしょうか。

今日のプログラムは以下です。

  指揮:川瀬賢太郎
  ピアノ:菊池洋子
  管弦楽:名古屋フィル&神奈川フィル

  モーツァルト:ピアノ協奏曲第21番ハ長調K.467

   《休憩》

  ショスタコーヴィチ:交響曲第7番ハ長調Op.60「レニングラード」

   《アンコール》

 チャイコフスキー:バレエ《白鳥の湖》より終幕の音楽


まず、最初のモーツァルトのピアノ協奏曲第21番ですが、まさに人生の喜びを味わうことになります。大好きなモーツァルトのピアノ協奏曲で至福の演奏が聴けたのですからね。何と言っても、菊池洋子の演奏が素晴らしいです。モーツァルト演奏はこうでなくてはというような粒立ちのよいタッチのピアノの響きです。彼女の足元を見ますが、ペダルは時折踏んでいるようですが、あまりは踏んでいないようです。ですから響きの大きさは小さくなりますが、その切れのよいタッチの素晴らしいこと。粒立ちのよい響きだけでなく、第2楽章の美しい歌わせ方も素晴らしく、音楽表現も見事です。圧巻だったのは第3楽章の音階や素早いパッセージの完璧な演奏です。しかもオーケストラとの微妙なコミュニケーションも見事です。ここまでモーツァルトを弾きこなせる日本人ピアニストがいるのは嬉しいですね。応援していきたいピアニストの一人です。もう一息でピリスやペライアの域に達するのではないでしょうか。オーケストラは名古屋フィル&神奈川フィルの混合チームでしたが、特にヴァイオリンを始めとした弦楽セクションが素晴らしい響きを聴かせてくれました。指揮の川瀬賢太郎の無理のないサポートもよかったと思います。ともかく、音楽を聴く喜びを与えてくれる素晴らしい演奏でした。
ちなみに予習したCDはピリスの新旧の録音です。

 ピリス、グシュルバウアー&リスボン・グルベンキアン財団室内管弦楽団
 ピリス、アバード&ヨーロッパ室内管弦楽団

ともかく、ピリスのモーツァルトは素晴らしいです。もっとも、saraiは最近、クララ・ハスキルの弾くモーツァルトにはまっていて、ほとんどすべてのCDを収集して聴いているところです。残念ながら、ハスキルはこの第21番は録音を残していません。第19番とか、第20番は多くの録音を残してくれているんですが、彼女の好みは偏っていて、この第21番は好みから外れていたようです。きっと素晴らしい演奏をしたに違いないのに残念です。

休憩後は総勢130名の名古屋フィル&神奈川フィルの混合チームによるショスタコーヴィチの交響曲第7番「レニングラード」です。冒頭の演奏される「人間のテーマ」は弦楽の響きが心地よく、さほどに大オーケストラを感じさせる音量ではありません。あれっと思っていたら、ボレロのリズムによる「戦争のテーマ」が頂点に達したときの凄まじい音量ははっきり言って、うるさいくらい。それがずっと持続しますから、耳がどうにかなりそうです。それでも弦楽セクションだけのパートでは心地よい響きに落ち着きます。その繰り返しでいささか聴くのも疲れます。川瀬賢太郎の指揮は激しい音量のときの姿はなかなか絵になりますね。でもうるさいです。大音量でもうるさくないような響きになれば、最高なんですけどね。大音量のとき以外は特に弦楽セクションの響きはとても美しいんです。ともかく長大な第1楽章を聴いて、疲れ果てました。第2楽章はそううるさい感じはありませんが、第1楽章で疲れた耳はなかなか回復しません。第2楽章が終わったときにこれでまだ半分聴いただけと思うだけでどっと疲れが出てきます。ところがこの後の第3楽章~第4楽章が素晴らしかったんです。特にヴィオラに始まる弦楽合奏による鎮魂を思わせる音楽の崇高さには胸を打たれます。非人間的な戦争へのアンチテーゼとも思える音楽は人間の尊厳がいかに大切かを表現しているように感じます。感動で胸が一杯になってしまいます。川瀬賢太郎の見事な指揮、混合チームの素晴らしいアンサンブルによる最高の演奏です。これまでこの曲を聴いていて、こういう思いに駆られたのは初めてのことです。この後、フィナーレまでの演奏の素晴らしさは圧巻でした。フィナーレでは、「こんな理不尽な世界であっても人間は生き抜いていくんだ」という強いメッセージ性を感じました。第3楽章~第4楽章の素晴らしい演奏はそれまでの疲れを吹き飛ばしてくれました。やはり、聴きに来てよかったと思わせられるコンサートでした。
ちなみに予習したCDは以下です。

 バーンスタイン、シカゴ交響楽団
 ムラヴィンスキー、レニングラード・フィル

それぞれの指揮者の個性が出た演奏で、どちらもオーケストラの実力が大変なものです。しかし、やはり、この曲は生演奏で聴くのがいいですね。

ところでこの曲は戦争をテーマにして、ソ連時代の国民の意識高揚の一面もあるということで賛否両論のある曲ではあります。saraiの尊敬する作曲家バルトークは当時、亡命先の米国で「国家の奴隷にまでなって作曲するものは、馬鹿」という批判的なコメントを出し、自作の《管弦楽のための協奏曲》でもこの交響曲第7番の「戦争のテーマ」を揶揄的に引用したくらいです。ショスタコーヴィチもそのバルトークのコメントは承知していたようで、自作でバルトークの作品を引用したりしています。悲しい戦争の時代、そして、人間の尊厳が傷つけられる時代には、芸術家も無縁ではいられません。バルトークもショスタコーヴィチもsaraiが好んで聴いている作曲家であり、それぞれの思い、それも内に秘めた思いがあることは理解しているつもりです。それぞれの個性に合ったスタイルで人間の生きる道を模索した音楽を作ってくれたと思っています。芸術家が世界情勢とは無縁でいられない時代は今でも続いています。音楽の力で人間が人間たりえること・・・そういう音楽を聴いていきたいとsaraiは祈っています。今日のこの曲もsaraiはポジティブに捉えたいと思っています。国家発揚の音楽ではなくて、人間に生きる力を与える音楽だと・・・。

盛大な拍手の続く中、思わぬアンコール曲が始まります。何と《白鳥の湖》です。すぐに終幕の場面であることに気が付きます。ジークフリート王子と悪魔ロットバルトの壮絶な戦いの場面です。オデット姫の美しい姿も重なるシーンです。この場面の終結は正義が悪に打ち勝ち、ハッピーエンドというソ連時代に改変されたシナリオとそれ以前の魂の救済もなく、オデット姫も死ぬという悲しい結末の両極パターンがあるのはバレエファンは皆承知しています。さて、今日の音楽はどちらのシナリオに向けた音楽になっているのかを聴き取りましょう。通常ではありえないようなグランド・オーケストラによるグラマラスな音楽が続きます。意外にこういう演奏もよいものです。ということはこの音楽は言うまでもなく、正義の勝利、つまりは人間の勝利ということになります。単純なハッピーエンドというよりも人間賛歌のようなものでしょうか。アンコールにこういう音楽を持ってきた川瀬賢太郎の音楽的センスのよさにも拍手です。そもそもアンコールをやること自体、異例なことですからね。ショスタコーヴィチの交響曲第7番のような大曲の後ならなおさらです。コンサートマスターの石田泰尚も疲れたというように手を振っていたと後で配偶者が言っていました。ご苦労様でした。



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オペラ・美術が大好きでヨーロッパの旅にはまっています。音楽の聖地ウィーンが中心で、イタリア、フランス、ドイツも巡っています。国内外のオペラ・コンサートの体験もレポートします。

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ありがたいコメント、嬉しいです。マーラーのファンのかたにこそ、読んでいただきたかったので、気持ちを共有できた思いです。自然の中にこそ、マーラーの音楽の本質はあり

04/23 23:45 sarai

マーラーの作品を聴きながら、ブログを読ませていただいています。
読みながら画像を見て、マーラーの過ごした風景に想いを馳せて楽しんでいます。
素敵なブログをありがと

04/23 21:47 

マーラー6番ですか・・・ハンマー打撃は勘弁してほしいものです。あったとしても、3回目の打撃だけは・・・

04/11 18:10 sarai

まさにマーラー6番な状況です笑

04/11 17:51 kico

お互い、残念でしたね。今年でヨーロッパ遠征を終わりにする予定でしたが、悲劇的な状況になりました。天はまだ我に旅を続けよというご託宣を与えたのでしょうか。1年延期

04/11 03:13 sarai

以前にもコメントさせていただいた者です。来ましたね、楽友協会からのメール。私たちはとりあえず1年延期としましたが、どうでしょうね。困っている人が多い中贅沢な悩み

04/11 00:33 kico

お返事ありがとうございます。
本当に!私もレイルジェットや美術館の手配もしているので、祈るような気持ちです。

03/10 19:06 kico
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