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アデスの新作オペラ《皆殺しの天使》@ザルツブルク音楽祭(モーツァルト劇場) 2016.8.1

トーマス・アデスの新作オペラ《皆殺しの天使》The Exterminating Angelの公演をモーツァルト劇場で聴きます。本来は昨年のザルツブルク音楽祭で世界初演される筈でしたが、今年にずれこんだお蔭で聴くことができます。トーマス・アデスのオペラと言えば、昨年、ウィーン国立歌劇場で《テンペスト》を聴いて、大変、感銘を受けました。この新作オペラ《皆殺しの天使》はルイス・ブニュエル監督のメキシコ映画の《皆殺しの天使》El Angel Exterminadorが原作です。この原作の映画は原題が《プロビデンシア(神意、摂理)通りの遭難者たち》でしたが、最終的に《皆殺しの天使》に変更されました。監督のルイス・ブニュエルは脚本家のイス・アリコリサと組んで、この不可解なストーリーを組み上げたそうです。1962年制作の白黒映画です。映画には奇妙な繰り返し(まったく同じシーンが繰り返されます)があって、最初はDVDの再生が故障したのかと思いました。一体、この理解不能とも思える不条理なストーリーをどうオペラ化するのか、興味は尽きないところです。

まず、あらすじはオペラ《ランメルムーアのルチア》を見た紳士・淑女が14名、ブルジョアの邸宅でのアフターオペラの晩餐会に招待されて集まるところから始まります。ところが晩餐会が終わっても誰一人帰ろうとしません。これは不条理ものの典型ですね。結局、彼らは邸宅から出られなくなり、水も食料も尽きます。最後は迷い込んできた羊を殺して、料理して飢えをしのぎます。最終的には大パニックに陥り、殺し合いが始まろうとしますが、ワルキューレというあだ名の外国人の若い女性(オペラ《ルチア》のプリマドンナ)の導きで難局を脱します。

このワルキューレ役を歌うのがオードリー・ルーナ。彼女はオペラ《テンペスト》でも彼女にしか出せない金切り声を上げていましたが、今回も超高音の歌唱。よくあんな声が安定して出せますね。フォン・オッターは末期がんで苦しむ患者レオノーラ役です。幻覚に襲われるシーンでの彼女の素晴らしい歌唱は特筆すべきものでした。ブルジョア邸宅の女主人ルシア役はソプラノのアマンダ・エシャラズ。とてつもない声の響きをホール中に轟かせていました。シルヴィア役のソプラノのサリー・マシューズもまた超高音の美しい声が素晴らしく、よく、こんな人をキャスティングしたものだと感心しきりです。ブランカ役のクリスティーネ・ライスはピアニストを演じつつ、なんとまあ素晴らしく表現力のある見事な歌唱を聴かせてくれました。とここまで書いてきたところでお気づきでしょうが、女声歌手の実に充実していたことは驚異的ですし、彼女らに高音の歌を作曲したトーマス・アデスは余程の女声好きと思えます。しかし、こういうキャスティングをしないといけないとなると、公演できるオペラハウスは限られるかもしれません。現在のところ、来年、英国ロイヤル・オペラ、メトロポリタン歌劇場での公演が決まっているそうですが、少なくともルーナ、フォン・オッター、サリー・マシューズの出演は欠かせないのではないかと思えます。
男声陣ですが、閉じ込められたグループを何とか助けようとする医師の役はジョン・トムリンソン。さすがにボリューム感のある見事な歌唱でした。イェスティン・デイヴィスはちょい悪のシルヴィアの弟フランシスコ役ですが、誠実派の彼が役にはまり込んで見事に歌い切っていました。ブルジョアのホストのノビレ役がチャールズ・ワークマン。いかにもブルジョワ的で、ちょっと突けばひ弱な人間を役になり切って歌っていました。
このほか、トーマス・アレンもロック役で登場。実力派の活躍するオペラでした。ともかく閉じ込められた15人の人間がすべて重要な役どころなので大変なオペラですね。

ところで映画には奇妙な繰り返しがあることは書きましたが、オペラでも冒頭のブルジョワ邸に客が到着するシーンでしっかりと奇妙な繰り返しが演じられました。見事な演出でした。それと舞台に羊は登場するのかなと思っていたら、開演前に3匹の生きた羊が登場。さかんに排出物を出して、お世話係はその掃除に大変そうでした。さすがに幕が開くとすぐに羊たちは退場。迷い込んできた羊を殺して食べるシーンは映像のみでした。
基本的なシナリオは映画と同じですが、最終シーンが映画とは異なり、不条理な閉じ込めから脱出して、神に感謝というところで幕です。映画は神に感謝する教会でまた、閉じ込められてしまい、その後はどうなるか分からないという永遠の不条理で終わります。

トーマス・アデスの音楽ですが、前作の《テンペスト》と同様にノントナールの音楽を軸にしていますが、やはり、耳馴染みのよい響きが多く、聴衆にも受け入れやすそうな雰囲気の音楽です。今回は不条理ものなので、前作ほどの抒情性は引っ込んでいますが、ところどころに抒情的なメロディーが顔を出すのも彼のよさですね。なお、映画はスペイン語でしたが、オペラは英語のテキストでした。前作の《テンペスト》と同様に今後も上演が続きそうな作品です。
saraiが特に気に入ったシーンはやはり、フォン・オッターが幻覚に襲われて歌うシーンと終幕の荘厳なレクイエム(ルクス・エテルナ)です。これはもう一度聴きたいな。

キャストは以下です。

  指揮:トーマス・アデスThomas Adès
  演出:トム・ケアンズTom Cairns

  ルシア:アマンダ・エシャラズAmanda Echalaz
  レチチア:オードリー・ルーナAudrey Luna
  レオノーラ:アンネ・ゾフィー・フォン・オッターAnne Sofie von Otter
  シルヴィア:サリー・マシューズSally Matthews
  ブランカ:クリスティーネ・ライスChristine Rice
  ベアトリッツ:ソフィー・ベヴァンSophie Bevan
  ノビレ:チャールズ・ワークマンCharles Workman
  ラウル:フレデリック・アントゥーンFrédéric Antoun
  コロネル:デヴィッド・アダム・ムーアDavid Adam Moore
  フランシスコ:イェスティン・デイヴィスIestyn Davies
  エドゥアルド:エド・リヨンEd Lyon
  ルッセル:エリック・ハーフヴァーソンEric Halfvarson
  ロック:トーマス・アレンThomas Allen
  医者:ジョン・トムリンソンJohn Tomlinson
  ジュリオ:モーガン・ムーディMorgan Moody

  合唱:ザルツブルク・バッハ合唱団Salzburger Bachchor
  管弦楽:ウィーン放送交響楽団ORF Radio-Symphonieorchester Wien




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オペラ・美術が大好きでヨーロッパの旅にはまっています。音楽の聖地ウィーンが中心で、イタリア、フランス、ドイツも巡っています。国内外のオペラ・コンサートの体験もレポートします。

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06/14 23:46 Yuichironyjp

ありがたいコメント、嬉しいです。マーラーのファンのかたにこそ、読んでいただきたかったので、気持ちを共有できた思いです。自然の中にこそ、マーラーの音楽の本質はあり

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