上原彩子の渾身のショパンに感動!@みなとみらいホール 2013.1.13
そもそも音楽とは何でしょうか。空気中を伝播する波動を耳で捉えて、その波動を脳で感じるものです。それ自体はある意味、無機的な波動に過ぎませんが、その波動を媒介物にして、演奏者の魂の叫びを聴衆の魂が受け止めて、共感するのが音楽の本質ではないでしょうか。もちろん、作曲家の作り上げた譜面がそのベースにあります。作曲家、演奏者、聴衆の3者のコミュニケーションが音楽です。そして、それが共鳴するところに音楽の感動が生まれます。回りくどい話にしてしまいましたが、要は上原彩子の魂の声をsaraiが心の奥深い所で受け止めて、圧倒的な感動を覚えたということです。必ずしも、一般的に考えられているショパンらしい演奏ではなかったかもしれませんが、これこそ、ショパンが譜面で書きたかった音楽なんだろうとsaraiは信じています。繊細にして、大胆・・・それが今日の演奏を形容する言葉です。繊細さはショパンの音楽、大胆さは上原彩子の音楽、それがアウフヘーベンされて、saraiの心に打ち込まれてきました。
新年早々、大変な演奏と出会えました。これが今年のベストテンのトップであってもおかしくない程、素晴らしいものでした。
さて、今回のプログラムは以下です。
ピアノ:上原彩子
ヴァイオリン:千住真理子
指揮:ウカシュ・ボロヴィチ
管弦楽:プラハ交響楽団
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲ホ短調 Op.35
ショパン:ピアノ協奏曲第1番ホ短調 Op.11
《休憩》
ドヴォルザーク:交響曲第9番ホ短調「新世界より」 Op.95
《アンコール》
ドヴォルザーク:スラヴ舞曲第9番ロ長調 Op.72-1
まず、千住真理子のヴァイオリンでメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲です。
これは・・・何と言えば、いいでしょう。名曲コンサートのなかの1曲と思えば、納得もできます。
オーケストラはとても響きがよく、サントリーホールでのコンサートよりもかなりよくなっています。
コンサートマスターに第1コンサートマスター?の女性奏者がはいり、多分、ベストメンバーになったせいでしょう。
問題はヴァイオリンの千住真理子です。千住さんのファンの方には申し訳けありませんが、音は固いし、音楽の表情もぎこちなく感じます。もちろん、これはsaraiの受け取り方に問題があるかもしれません。実際、ストラディヴァリウスはよく響いていました。しかし、その響かせ方がこのメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲には合っているとは思えなかったんです。もっと優美に響かせてもらいたかったところです。もしかしたら、この響きなら、20世紀の作品であれば、よかったかもしれません。
次はいよいよ、上原彩子のピアノで5日前のサントリーホールでのコンサートに続いて、ショパンの協奏曲を聴きます。
何か、予感のようなものはありました。今日は素晴らしいピアノが聴けるんじゃないかと。
・・・実際、その通りになりました。
第1楽章のオーケストラの前奏はとてもよい演奏でした。オーケストラのアンサンブルはきっちり決まっています。そして、上原彩子のピアノが入ってきます。今日は前回と違い、最初の和音から、バーンと綺麗に響いてきました。最初からエンジン全開です。そして、前回の演奏の不満を吹っ飛ばしてくれる見事な演奏が続きます。上原彩子の気魄に満ちたピアノにsaraiの集中力も一気に高まり、上原彩子のピアノの響きと一体化した自分がそこにいます。もう、忘我の境地で感動に酔いしれるだけです。上原彩子の指が強音を叩き出す度に、saraiの身体もびくっと反応します。美しく、そして、強烈な音楽に身を委ねながら、感涙の思いです。こんなショパンは聴いたことがありません。決して、お洒落なサロン風の音楽ではなく、自我と熱情に包まれたショパンです。オーケストラの響きも素晴らしく、上原彩子のピアノを盛り立てます。しびれるような感覚のまま、素晴らしい楽章がしめくくられました。
第2楽章です。上原彩子のピアノは何と繊細な音楽を奏でることでしょう。息もできないくらい、緊張して、じっと聴きいります。前回はもう少し、ショパンらしい節回しが欲しいと感じましたが、今日はそんなことは微塵も感じません。上原彩子の自在なピアニズムに聴きいるのみです。実にゆったりしたテンポで上原彩子の魂の音楽が語られます。またまた、感涙の思いです。何て素晴らしい演奏なんでしょう。今日も前回以上に、指揮者のボロヴィチが上原彩子の自在極まりない演奏にぴったりとオーケストラをつけます。これは完璧と言ってもいいくらいです。
最高のピアノと最高のオーケストラとあえて称賛したいと思います。美しいというよりも、人間の真情の込められた心の音楽でした。
第3楽章です。これも素晴らしいピアノが続きます。ショパンでこんなに激しく鍵盤を叩くとは思いもよりませんでした。これが上原彩子のショパンです。繊細な抒情と強烈な激情が繰り返され、フィナーレに上りつめていきます。この楽章でも感涙の思いです。すべての楽章、最高の演奏でした。
こんな鬼気迫る演奏を新春から聴けるとは思ってもみませんでした。上原彩子のこのところの演奏に必ずしも満足していませんでしたが、今日の演奏ですべてを払拭してくれました。配偶者からも「完全復活ね!」という嬉しい言葉が聞けました。saraiの期待に応えて、上原彩子はまた、高いレベルに到達したようです。この次はオール・ラフマニノフのピアノ・リサイタルが3月にあります。また、凄い演奏を聴きたいものです。
休憩時間は、この素晴らしい演奏に白ワインで祝杯を上げました。
休憩後、ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」です。前回のサントリーホールで演奏したのはチャイコフスキーの交響曲第5番でした。共通点はどちらもホ短調だということです。そして、今日の協奏曲もすべてホ短調。偶然ではないでしょう。当初、指揮者はイルジー・コウトだったので、彼の意向で、ホ短調揃いを狙ったんですね。コウト氏がホ短調好きなのか、それとも、ホ短調って、名曲が多いんでしょうか。ホ短調の曲って、「運命に抗う人の気高さ・熱情」という雰囲気があるので、コンサートの曲目として揃えたくなるのかもしれません。
ともあれ、さすがに、チェコのオーケストラが本場の音楽を聴かせてくれました。熱い演奏でしたし、プラハ交響楽団の高い実力も見せてくれました。満足して、この名曲中の名曲を聴かせてもらいました。少年時代に親しんだ音楽と言うよりも、あまりに聴き過ぎてしまった音楽ですが、今日の演奏は懐かしく聴くことができました。
アンコールはスラヴ舞曲です。前回のサントリーホールでのコンサートでは本編のプログラムにはいっていた曲です。元気のよい演奏で気持ちよく、コンサートをしめくくりました。
今年はこのショパンの協奏曲を上回るコンサートにどれだけ、出会えるでしょうか・・・。
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