何故か胸にぐっときた!《イェーダーマン》@ザルツブルク音楽祭(大聖堂広場) 2016.8.6
とは言え、この演劇はドイツ語で演じられます。ドイツ語はちっとも分からないので、頭に入れておいたあらすじを参考に劇の進行を見ていきます。イェーダーマンというのは英語で言えばエヴリマン。つまり、どこにでもいる誰かという感じでしょうか。劇の中では固有名詞のように主役の金持ちの男がイェーダーマンという名前で呼ばれます。冒頭は《神》(少年の姿)が《死》(白装束の老人)を呼び出して、イェーダーマンに死を告げるように命じます。これは別に不条理劇などではなく、単に日常的な死がいつも隣り合わせにあるということを示すだけのことです。《神》と《死》が舞台から去ると、イェーダーマンが現れます。彼は大変な金持ちであることを誇示します。貧乏人が施しを求めると、さんざんにからかいながら、コインを1個与えるだけ。さらに、警官に連行される男が現れます。イェダーマンに借りた金を返せなかったために逮捕された男です。男の妻や子供も現れますが、イェーダーマンは非情です。イェダーマンの母親が現れて、イェーダーマンに神への信仰を大切にするように諭します。根負けしたイェーダーマンは信仰について考えることを約束し、母親は喜んで帰ります。やがて、賑やかな一団が現れます。その中に自転車に乗った美しい若い女性がいます。イェーダーマンと親密です。にぎやかな宴が続きます。イェーダーマンはその親密な女性にプロポーズします。宴もたけなわになったところで突如、鐘が鳴り、周り四方からイェーダーマンと呼ぶ声が聞こえてきます。それはイェーダーマンにしか聞こえません。やがて、《死》が現れて、イェーダーマンは今日死ぬことを告げます。イェーダーマンは驚き、その告知をなかなか受け入れられません。やがて、イェーダーマンは1日でいいから、死を待って欲しいと懇願しますが、《死》は聞き入れません。《死》はしばらく離れるから、キリスト教徒として残された時間を有益に過ごすように言い、いったん消え去ります。イェーダーマンは悪あがきを始めます。友達に救ってくれるように頼みますが、誰も逃げ腰でしかありません。やがて、大きな箱から異形の怪物があらわれます。お金の神様マモンです。奇妙な動きを見せた後、どんな金持ちも死ぬときは裸で死んでいくと言って、また、箱の中にはいります。次は高い棒の尖端の椅子に腰かけた、病人のような《善い行い》がイェーダーマンに諭します。実はこの《善い行い》はイェーダーマンのこれまでの善行の生き写しなので、あまり善行を積んでこなかったイェーダーマンの生き方を反映して、病弱な姿をしています。《善い行い》が女性の姿をした《信仰》を呼び出します。《信仰》に神様が救ってくれると諭されて、次第にイェーダーマンは気持ちがほぐされます。イェーダーマンがお祈りを捧げていると、《神》(少年)に手を引かれた母親が私の息子は救われたと感謝しながら通り過ぎます。ようやく信仰心が得られそうになったイェーダーマンは大聖堂の中に入っていきます。突如、舞台の下から現れた悪魔がそのイェーダーマンを追いかけようとします。しかし、《善い行い》と《信仰》に行く手を阻まれて、悪魔は引き下がります。やがて、イェーダーマンが大聖堂から出てきて、《善い行い》と《信仰》に導かれて、イェーダーマンが静かに死への道に自ら入っていきます。横たわって布を掛けられたイェーダーマンの上に皆が土をかけていきます。大聖堂の鐘が鳴ります。イェーダーマンの死です。
事前の情報ではちょうど1時間の上演だということでしたが、実際は2時間に及ぶ長い上演でした。ドイツ語は分からなくてもとても見ごたえがあって、じっと見入っていました。楽しいシーンや賑やかなシーンが多かったのですが、人間の死というテーマをあまり深刻ぶらずに見せるという意図もあるのでしょう。最後にイェーダーマンが静かな死を迎えるところは素晴らしいものです。死というものは誰にも一度は起きるもの。金持ちも貧乏人もどんな人にも等しく起きることですが、気持ちの整理がついて、清らかに死んでいく人がこんなにも清々しいものであることを見て、そして、感じて、強い感動を受けます。素晴らしい演劇でした。ザルツブルグ音楽祭の看板とも言っていい演目であることを実感しました。よいものを見ることができました。
なお、1920年のオリジナルの演出はマックス・ラインハルトでしたが、その後、多くの演出家による演出が行われました。2013年からは現在のBrian Mertes/Julian Crouchの演出になっています。オリジナルとはかなり変わった演出になっています。音楽アンサンブルの演奏が大きな特徴です。オリジナルのマックス・ラインハルト演出の舞台も見てみたいものです。
この演劇は1920年以来、ずっと野外の大聖堂広場(ドーム広場)で上演されてきました(雨の場合は祝祭大劇場などの屋内で振替上演されます)。この日も前日が丸1日雨が降り続いたので、とても心配でしたが、晴れ女の配偶者の力もあって、上演時は青空も見える絶好のお天気。伝統の演劇をオリジナルの場所で見ることができて幸運でした。終演後、ホテルに戻って、次のコンサートに向けて、タキシードに着替えて、外に出ると、何と雨でした。公演直後に雨になったんです。ますます、自分の幸運に感謝するやら、驚くやらの《イェーダーマン》でした。
↓ 音楽を愛する同好の士はポチっとクリックしてsaraiと気持ちを共有してください
いいね!

- 関連記事
-
- 何故か胸にぐっときた!《イェーダーマン》@ザルツブルク音楽祭(大聖堂広場) 2016.8.6
- マーラーはやっぱりウィーン・フィルで聴かないとね@ザルツブルク音楽祭(祝祭大劇場) 2016.8.6
- 静謐の美に深く感動!!《ダナエの愛》@ザルツブルク音楽祭(祝祭大劇場) 2016.8.5