FC2ブログ
 
  

何故か胸にぐっときた!《イェーダーマン》@ザルツブルク音楽祭(大聖堂広場) 2016.8.6

ホフマンスタールの演劇《イェーダーマン》はザルツブルグ音楽祭に欠かせないものです。ザルツブルグ音楽祭立ち上げのメンバーでもあったホフマンスタールが書いた詩作を原作に、同じく立ち上げメンバーだったマックス・ラインハルトが演出して1920年に上演されたのがザルツブルグ音楽祭の開始でした。ザルツブルグ音楽祭に折角行くので、この作品だけは絶対に見逃がせないと思いました。

とは言え、この演劇はドイツ語で演じられます。ドイツ語はちっとも分からないので、頭に入れておいたあらすじを参考に劇の進行を見ていきます。イェーダーマンというのは英語で言えばエヴリマン。つまり、どこにでもいる誰かという感じでしょうか。劇の中では固有名詞のように主役の金持ちの男がイェーダーマンという名前で呼ばれます。冒頭は《神》(少年の姿)が《死》(白装束の老人)を呼び出して、イェーダーマンに死を告げるように命じます。これは別に不条理劇などではなく、単に日常的な死がいつも隣り合わせにあるということを示すだけのことです。《神》と《死》が舞台から去ると、イェーダーマンが現れます。彼は大変な金持ちであることを誇示します。貧乏人が施しを求めると、さんざんにからかいながら、コインを1個与えるだけ。さらに、警官に連行される男が現れます。イェダーマンに借りた金を返せなかったために逮捕された男です。男の妻や子供も現れますが、イェーダーマンは非情です。イェダーマンの母親が現れて、イェーダーマンに神への信仰を大切にするように諭します。根負けしたイェーダーマンは信仰について考えることを約束し、母親は喜んで帰ります。やがて、賑やかな一団が現れます。その中に自転車に乗った美しい若い女性がいます。イェーダーマンと親密です。にぎやかな宴が続きます。イェーダーマンはその親密な女性にプロポーズします。宴もたけなわになったところで突如、鐘が鳴り、周り四方からイェーダーマンと呼ぶ声が聞こえてきます。それはイェーダーマンにしか聞こえません。やがて、《死》が現れて、イェーダーマンは今日死ぬことを告げます。イェーダーマンは驚き、その告知をなかなか受け入れられません。やがて、イェーダーマンは1日でいいから、死を待って欲しいと懇願しますが、《死》は聞き入れません。《死》はしばらく離れるから、キリスト教徒として残された時間を有益に過ごすように言い、いったん消え去ります。イェーダーマンは悪あがきを始めます。友達に救ってくれるように頼みますが、誰も逃げ腰でしかありません。やがて、大きな箱から異形の怪物があらわれます。お金の神様マモンです。奇妙な動きを見せた後、どんな金持ちも死ぬときは裸で死んでいくと言って、また、箱の中にはいります。次は高い棒の尖端の椅子に腰かけた、病人のような《善い行い》がイェーダーマンに諭します。実はこの《善い行い》はイェーダーマンのこれまでの善行の生き写しなので、あまり善行を積んでこなかったイェーダーマンの生き方を反映して、病弱な姿をしています。《善い行い》が女性の姿をした《信仰》を呼び出します。《信仰》に神様が救ってくれると諭されて、次第にイェーダーマンは気持ちがほぐされます。イェーダーマンがお祈りを捧げていると、《神》(少年)に手を引かれた母親が私の息子は救われたと感謝しながら通り過ぎます。ようやく信仰心が得られそうになったイェーダーマンは大聖堂の中に入っていきます。突如、舞台の下から現れた悪魔がそのイェーダーマンを追いかけようとします。しかし、《善い行い》と《信仰》に行く手を阻まれて、悪魔は引き下がります。やがて、イェーダーマンが大聖堂から出てきて、《善い行い》と《信仰》に導かれて、イェーダーマンが静かに死への道に自ら入っていきます。横たわって布を掛けられたイェーダーマンの上に皆が土をかけていきます。大聖堂の鐘が鳴ります。イェーダーマンの死です。

事前の情報ではちょうど1時間の上演だということでしたが、実際は2時間に及ぶ長い上演でした。ドイツ語は分からなくてもとても見ごたえがあって、じっと見入っていました。楽しいシーンや賑やかなシーンが多かったのですが、人間の死というテーマをあまり深刻ぶらずに見せるという意図もあるのでしょう。最後にイェーダーマンが静かな死を迎えるところは素晴らしいものです。死というものは誰にも一度は起きるもの。金持ちも貧乏人もどんな人にも等しく起きることですが、気持ちの整理がついて、清らかに死んでいく人がこんなにも清々しいものであることを見て、そして、感じて、強い感動を受けます。素晴らしい演劇でした。ザルツブルグ音楽祭の看板とも言っていい演目であることを実感しました。よいものを見ることができました。

なお、1920年のオリジナルの演出はマックス・ラインハルトでしたが、その後、多くの演出家による演出が行われました。2013年からは現在のBrian Mertes/Julian Crouchの演出になっています。オリジナルとはかなり変わった演出になっています。音楽アンサンブルの演奏が大きな特徴です。オリジナルのマックス・ラインハルト演出の舞台も見てみたいものです。

この演劇は1920年以来、ずっと野外の大聖堂広場(ドーム広場)で上演されてきました(雨の場合は祝祭大劇場などの屋内で振替上演されます)。この日も前日が丸1日雨が降り続いたので、とても心配でしたが、晴れ女の配偶者の力もあって、上演時は青空も見える絶好のお天気。伝統の演劇をオリジナルの場所で見ることができて幸運でした。終演後、ホテルに戻って、次のコンサートに向けて、タキシードに着替えて、外に出ると、何と雨でした。公演直後に雨になったんです。ますます、自分の幸運に感謝するやら、驚くやらの《イェーダーマン》でした。



↓ 音楽を愛する同好の士はポチっとクリックしてsaraiと気持ちを共有してください

 いいね!



関連記事

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

コメントの投稿

非公開コメント

人気ランキング投票、よろしくね
ページ移動
プロフィール

sarai

Author:sarai
オペラ・美術が大好きでヨーロッパの旅にはまっています。音楽の聖地ウィーンが中心で、イタリア、フランス、ドイツも巡っています。国内外のオペラ・コンサートの体験もレポートします。

来訪者カウンター
CalendArchive
最新記事
カテゴリ
指揮者

ソプラノ

ピアニスト

ヴァイオリン

室内楽

演奏団体

リンク
Comment Balloon

ありがたいコメント、嬉しいです。マーラーのファンのかたにこそ、読んでいただきたかったので、気持ちを共有できた思いです。自然の中にこそ、マーラーの音楽の本質はあり

04/23 23:45 sarai

マーラーの作品を聴きながら、ブログを読ませていただいています。
読みながら画像を見て、マーラーの過ごした風景に想いを馳せて楽しんでいます。
素敵なブログをありがと

04/23 21:47 

マーラー6番ですか・・・ハンマー打撃は勘弁してほしいものです。あったとしても、3回目の打撃だけは・・・

04/11 18:10 sarai

まさにマーラー6番な状況です笑

04/11 17:51 kico

お互い、残念でしたね。今年でヨーロッパ遠征を終わりにする予定でしたが、悲劇的な状況になりました。天はまだ我に旅を続けよというご託宣を与えたのでしょうか。1年延期

04/11 03:13 sarai

以前にもコメントさせていただいた者です。来ましたね、楽友協会からのメール。私たちはとりあえず1年延期としましたが、どうでしょうね。困っている人が多い中贅沢な悩み

04/11 00:33 kico

お返事ありがとうございます。
本当に!私もレイルジェットや美術館の手配もしているので、祈るような気持ちです。

03/10 19:06 kico
月別アーカイブ
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR