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小山実稚恵の圧倒的なプロコフィエフ:クリスチャン・ヤルヴィ+東京都響@サントリーホール 2013.10.16

今日は東京都交響楽団の定期演奏会。大型台風の影響が心配でしたが、半日ずれたお蔭でセーフ。
今日の主役はピアノの小山実稚恵と指揮のクリスチャン・ヤルヴィ。もちろん、それを支えた都響のアンサンブルも健在。

小山実稚恵はコンサート前は、実はあらっぽい演奏になるのではないかと心配していました。何せ、超難曲のプロコフィエフのピアノ協奏曲第3番ですからね。しかし、結果的には、素晴らしく精度が高く、迫力に満ちた演奏でsaraiの杞憂を払拭してくれました。saraiの不明をお詫びしたい気持ちで一杯です。ここまで、この超難曲を弾きこなすとは、実力あってのことでしょうが、やはり、随分、弾き込んだんでしょうね。今日の演奏は大変興奮させられる気魄のこもった力演でした。

指揮のクリスチャン・ヤルヴィは後半のストラヴィンスキーのバレエ組曲「火の鳥」でやってくれました。ウィーンのお友達のはっぱさんがいつも「やんちゃ坊主」と評しているクリスチャン(父ネーメ、兄パーヴォと区別するためにファーストネームで呼ぶことにします)は、その通り、やりたい放題の指揮で八面六臂の大活躍。バレエ組曲「火の鳥」を指揮者自身が踊ってしまったような感じです。当たり前ですが、音楽にぴったりと合った指揮というか、ダンスの見事なこと。音楽自体もきらめきに満ちた素晴らしいものです。

都響もますます実力を伸ばし、従来からの最強の弦楽セクションだけでなく、管楽セクションも素晴らしい演奏をするようになったと感じます。お得意のマーラーばかりでなく、今日のような近代ものの超弩級オーケストラ作品も納得の演奏をするようになったと思います。実に幅広く、どんな音楽にも対応して、優れた演奏を聴かせてくれるようになったと感じています。

長い前置きでほとんど書いてしまいましたが、軽く、今日のコンサート全体について触れておきましょう。

この日のプログラムは以下の内容です。

 指揮:クリスチャン・ヤルヴィ
 ピアノ:小山実稚恵
 管弦楽:東京都交響楽団

ラフマニノフ:コレッリの主題による変奏曲(管弦楽版/日本初演)
プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第3番ハ長調
 《アンコール》
   プロコフィエフ:前奏曲Op.12-7

  《休憩》

ストラヴィンスキー:バレエ組曲「火の鳥」(1945年版)

最初のラフマニノフの《コレッリの主題による変奏曲》はピアノ独奏の作品を管弦楽用に編曲したものです。クリスチャンの父ネーメ・ヤルヴィが世界初録音のCDを出していますから、クリスチャンにとってもゆかりのある作品なのかもしれません。原曲のピアノ独奏曲は名曲として知られており、来年2月の上原彩子のサントリーホールでのリサイタルでも取り上げられることになっており、今から楽しみに待っているところです。
この管弦楽版は何と言うか、少し間延びをしたように感じる曲で必ずしも編曲がうまくいったような気はしません。しかし、編曲者もそのあたりは心得た上で、こういう全く趣の異なる作品に仕立て上げたのでしょう。その編曲の狙いがどのあたりにあるのかはよく分かりません。
この管弦楽版では、原曲と同じく、コレッリの主題が3度登場しますが、弦楽合奏での演奏はさすがに美しいです。しかし、これはラフマニノフというよりも、コレッリの原曲に負うところが大きいので、その評価は難しいところです。ネーメ・ヤルヴィのCDでは、ピアノ独奏曲に比べて、ロシアの土俗的な雰囲気が醸し出されていたので、それなりの面白さがありました。クリスチャンの表現はそういうところはなくて、現代風(近代風?)のバレエ曲のような雰囲気です。聴いていて退屈はしませんが、これではむしろ、原曲のピアノ曲を聴きたくなってしまうというのが正直なところです。都響のアンサンブルの響きは素晴らしかったんですけどね。今日のコンサートマスターの矢部達哉の終盤のソロはとても見事でした。

次にプロコフィエフのピアノ協奏曲第3番です。これは新古典主義の極致をいくような作品です。冒頭のクラリネットソロの侘しげなメロディーに続いて、弦が加わり、そして、ピアノが素晴らしい勢いで飛び込んでくると、もう、プロコフィエフ・ワールド。そうそう、その前に、弦が勢いづいてくるあたりで、その弦に体を同調させるように小山実稚恵が手を膝に置いたままで、体を揺すらせていたのが印象的でした。いかにもセッションに参加すべく、助走を始めたような感じでノリノリの様子。ピアノを弾き始める前に既に音楽はスタートしていました。ピアノが第1主題を演奏し始めると、次第に音楽はヒートアップ。激しく叩きつけるような打鍵でピアノが唸りを上げ、興奮の坩堝と化していきます。小山実稚恵の正確で、それでいて、奔放なピアノ演奏に呆気にとられます。彼女は硬質のタッチではなく、深い響きのタッチで、一見、こういう曲には向かない感じですが、さすがに一流のピアニストは違いますね。見事にそのタッチを活かして、強烈な響きの音楽を作り上げます。そして、乾いた感じの音楽になりやすいところを、潤いのある音楽に作り上げていくところはさすがとしか言いようがありません。コンサート前に予習したのは、アルゲリッチ(アバドと共演した1回目の録音)、上原彩子(キタエンコ指揮NHK交響楽団と共演した放送録画)、ユジャ・ワン(アバドとルツェルン音楽祭で共演したDVD)というところで、いずれもプロコフィエフを得意とする超絶技巧の持ち主揃い。コンサート前に聴くと、耳がリッチになり過ぎて、演奏レベルのハードルが高くなってしまいます。しかし、今日の小山実稚恵は絶好調で、ライブゆえの迫力で、予習した演奏なんぞは問題にならない快演です。途中、思わず、感動しそうになってしまうほど。この曲は興奮しても、感動するような曲ではない筈なのにね。第3楽章の終盤の演奏の美しさには絶句。圧巻のフィナーレでした。
コンサートの前には、配偶者に、この曲は上原彩子か、小川典子のほうが向いているのになあと軽口を叩いた自分の愚かしさを恥じています。

休憩後、ストラヴィンスキーのバレエ組曲「火の鳥」です。1945年版の組曲って、多分、聴くのは初めてです。たいていは全曲か、1919年版の組曲を聴いている筈です。今日は珍しい曲が聴けて、幸せです。全曲は別にして、組曲はやはり、1919年版がコンパクトで精選した曲ばかりでベストではないかと感じました。まあ、そういう音楽的な感想はぶっ飛ばすような、この日の演奏でした。クリスチャンのダンス、いや、指揮を見ているだけで面白くてたまりません。演奏もノリノリで美しいものでした。これなら、全曲やってくれても、バレエなしでも面白く聴けたでしょう。

今日はまことに楽しいコンサートでした。都響はいよいよ、マーラーチクルスが迫ってきました。インバルがどんなマーラーを聴かせてくれるか、そわそわしています。その前に来週はいよいよペライアのリサイタルです。音楽の秋もどんどん、佳境にはいってきました。


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首都圏の様々なジャンルのクラシックコンサート、オペラの感動をレポートします。在京オケ・海外オケ、室内楽、ピアノ、古楽、声楽、オペラ。バロックから現代まで、幅広く、深く、クラシック音楽の真髄を堪能します。
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08/04 21:31 G線上のアリア

じじいさん、コメントありがとうございます。saraiです。
思えば、もう10年前のコンサートです。
これがsaraiの聴いたハイティンク最高のコンサートでした。
その後、ザル

07/08 18:59 sarai

CDでしか聴いてはいません。
公演では小沢、ショルティだけ

ベーム、ケルテス、ショルティ、クーベリック、
クルト。ザンデルリング、ヴァント、ハイティンク
、チェリブ

07/08 15:53 じじい@

saraiです。
久々のコメント、ありがとうございます。
哀愁のヨーロッパ、懐かしく思い出してもらえたようで、記事の書き甲斐がありました。マイセンはやはりカップは高く

06/18 12:46 sarai

私も18年前にドレスデンでバームクーヘン食べました。マイセンではB級品でもコーヒー茶碗1客日本円で5万円程して庶民には高くて買えなかったですよ。奥様はもしかして◯良女

06/18 08:33 五十棲郁子

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コメント、ありがとうございます。正直、もう2年ほど前のコンサートなので、詳細は覚えておらず、自分の文章を信じるしかないのですが、生演奏とテレビで

05/13 23:47 sarai
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