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至芸と言うべきでしょうか・・・ヨーヨー・マ J.S.バッハ 無伴奏チェロ組曲全曲演奏会@サントリーホール 2016.9.21

秋の音楽シーズン真っ只中で連日のサントリーホール通いです。バッハの無伴奏チェロ組曲を全曲通しで聴くのも初めてだし、ヨーヨー・マを実演で聴くのも初めてです。どうして、高額チケットを買ってまで出かけることにしたのかというと、ヨーヨー・マのバッハの無伴奏チェロ組曲をCDで聴いて、その素晴らしい演奏に魅了されたからです。バッハの無伴奏チェロ組曲をCDでまとめ聴きした結果、古い録音のパブロ・カザルスは別格として、ヨーヨー・マの新盤(1982年録音の旧盤ではなく、1996年録音の新盤)とミッシャ・マイスキー新・旧盤(1984年録音:旧盤、1999年録音:新盤)が双璧の演奏に感じられました。そのヨーヨー・マのバッハの無伴奏チェロ組曲の全曲が一晩のリサイタルで聴けるというので大いに期待して出かけることにしたんです。

サントリーホールの客席に座って、ステージを見るとぽつんと椅子が一脚置いてあるだけです。当たり前の光景ですが、それをみて、ふと考え込んでしまいます。バッハの無伴奏チェロ組曲を全曲通しで聴くというとほぼ2時間半ほどはかかります。たった一人のチェロをサントリーホールの大ホールの大勢の聴衆がじっと長時間聴き入るというのは大変なことです。演奏家の心の持ち方、聴衆の一人としてのsaraiの心の持ち方はどうあるべきなのでしょう。ピアノ独奏のリサイタルでは当たり前のことではありますが、ピアノという巨大なマシンを介しての演奏家と聴衆というのと違って、ちっぽけなチェロではほぼ無防備な状態での対峙になります。てなことを考えているうちにヨーヨー・マが人懐こい微笑みを浮かべて、片手を挙げながら、ステージに現れます。やはり、なんだか、お互いに居心地が悪いですね。

まず、無伴奏チェロ組曲の第1番をすっと弾き始めます。自然体のようでありながら、結構、緊張しているようです。CDで聴いた印象とはかなり異なり、抑えた表現に思えます。無伴奏チェロ組曲の中でもポピュラーな第1番ですから、とても耳馴染みしている旋律が流れますが、朗々とした響きではなく、まるでオリジナル楽器のように地味な印象の演奏です。もちろん、モダン楽器での演奏ですが、ここはひねりを入れて、耳慣れない演奏スタイルで弾いているんでしょうか。それでも達者な演奏ですから、楽しんで聴いていましたが、今一つ物足りない感じは残ります。ヨーヨー・マって、こんな感じなのって思いながらの鑑賞です。それでも集中力が切れずに聴き続けたのは何か、saraiを惹き付けるものがあるからでしょう。

次は第2番です。ニ短調の哀調に満ちた音楽が響いてきます。これはツボを押さえた演奏で心に響いてきます。第1番以上に集中力が高まって、聴き入ってしまいます。

次の第3番に至って、ヨーヨー・マのチェロが響き渡ります。演奏に先立ちコップの水をぐいと一口飲み(ここで聴衆の笑いが起きる)、その勢いでプレリュードを朗々とした響きで突っ込んで歌い上げます。これこそ、モダン楽器で弾く無伴奏チェロ組曲の醍醐味っていう感じです。そういう弾き方でも品格を損なわないのはさすがですね。圧倒的な迫力でジーグまで一気呵成に弾いてしまいました。これは素晴らしい。第1番を抑え気味に弾いて、哀調あふれる第2番から、圧倒的な第3番という、考え抜かれた構成での演奏だったのでしょうか。そういえば、それぞれの組曲もプレリュードと5曲の舞曲をテンポを明確に変えて、組曲全体の構成をよく考えた演奏でした。クーラントだけを取れば、速過ぎる感じもありましたが、全体の構成を考えると妥当なテンポに思えました。ヨーヨー・マは無伴奏チェロ組曲の全曲の演奏会を開くにあたって、よくよく構成を熟慮したものと思えます。少なくとも休憩前の前半の演奏を聴いた段階ではそのように感じて、ヨーヨー・マの音楽的な実力と頭のよさに舌を巻きました。

休憩後、まずは第4番ですが、あれっと思います。先ほどの第3番同様の朗々たる響きで素晴らしい演奏です。ということは前半の演奏は全体の構成を考えたというよりもエンジンがかかって、しり上がりに響きがよくなったということだったのでしょうか。まあ、ともかく、地味な印象の拭えない第4番を素晴らしい演奏で弾き切ってしまいました。saraiの集中力も続いています。

次は第5番です。ハ短調の暗い響きでフランス風序曲の形式をとるプレリュードが弾かれます。後半のフーガ風の音楽が見事です。ところが次のアルマンドに入ったところでsaraiの集中力が遂に続かなくなります。見事な演奏が続きますが、短調の曲はどうしても暗めの響きになり、それはsaraiの集中力を高める支えにはなりません。気のせいか、ヨーヨー・マの音楽的な緊張感も下がり気味のような印象です。それも致し方ないでしょう。一人でこんなに長時間、緊張感のある曲を弾き続けるなんて超人的な努力を要しますね。第5番の終曲のジーグを弾き終った後、ヨーヨー・マは暗い顔をして、聴衆も拍手なし。何故?

最後の第6番です。これ凄い演奏です。集中力の落ちていたsaraiも当然のように復活しました。5弦のチェロのために書かれたこの組曲はハイポジションの演奏が多くなり、美しい響きが目立ちます。プレリュードは圧倒的な迫力。長大なアルマンドは繊細さにあふれた音楽です。長大なアルマンドを弾き切ったヨーヨー・マは山場を乗り切ったという感じに思えます。saraiもともかく集中力を持続できて、山場を乗り切ったという感じ。クーラントをさらっと弾き終り、その後のサラバンドはこの日の演奏の白眉とも言える素晴らしい演奏です。その演奏の素晴らしさに魅了されて、saraiは呆然とします。さらにガヴォットの素晴らしい演奏で追い打ちをかけられます。いやはや、素晴らし過ぎるヨーヨー・マです。終曲のジーグも凄まじい気魄で弾き切りました。満場、やんやの拍手。最後はスタンディングオベーションでヨーヨー・マを讃えます。

色々と感想を書きましたが、ヨーヨー・マの無伴奏チェロ組曲はもう至芸とも言っていいレベルに達しています。ちょっとしたミスもありましたが、そんなことは問題にならないような芸術の高みに達しています。ただただ、脱帽の演奏でした。

今日のプログラムは以下のとおりでした。

  ヨーヨー・マ J.S.バッハ 無伴奏チェロ組曲全曲演奏会

  チェロ:ヨーヨー・マ


   無伴奏チェロ組曲第1番 ト長調 BWV1007
   無伴奏チェロ組曲第2番 ニ短調 BWV1008
   無伴奏チェロ組曲第3番 ハ長調 BWV1009

   《休憩》

   無伴奏チェロ組曲第4番 変ホ長調 BWV1010
   無伴奏チェロ組曲第5番 ハ短調 BWV1011
   無伴奏チェロ組曲第6番 ニ長調 BWV1012

    《アンコール》
     マーク・オコナー:アパラチア・ワルツ

saraiは知りませんでしたが、ヨーヨー・マが日本で無伴奏チェロ組曲の全曲を演奏したのは今回で6度目だそうです。前回は2013年だったそうですから、うかつにもsaraiは聴き逃がしていたのですね。日本での全曲演奏がすべてサントリーホールだというのも驚きです。何分にも高額なコンサートなので、次の機会はどうするか、悩みそうです。マイスキーが全曲演奏するのならば、間違いなく聴きますけどね。



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