12月7日はクララ・ハスキルの日
saraiがクララ・ハスキルに夢中になったのは今年に入ってからです。もちろん、若い頃から彼女のレコードは聴いていましたが、こんなに凄いピアニストであることは分かっていませんでした。現在のところ、モーツァルトのピアノ協奏曲を集中的に聴いています。きっかけになったCDはフリッチャイとコンビを組んで録音したピアノ協奏曲第19番ヘ長調K.459を聴いたことです。これですっかり、虜になってしまい、入手できそうなモーツァルトのCDはほとんどコレクションしました。
クララ・ハスキルが世界の檜舞台で活躍するようになったのは第2次世界大戦後のこと。若い頃はいろいろあって、花が開きませんでした。ほとんどの録音は1950年代のものです。ハスキルが55歳を超えてからのことです。同時代を生きた音楽家に讃えられる存在になりました。本人はあくまでも謙虚で決して自信家ではありませんでしたが、彼女の演奏を耳にした人はすべからく、その演奏に惹き付けられたようです。そのキャリアが頂点に達した1960年に悲劇が起きます。パリのシャンゼリゼ劇場でアルトゥール・グリュミオーとヴァイオリン・ソナタのリサイタルを開いた12月1日の数日後、12月6日に彼女はパリからブリュッセルに鉄道で移動します。ブリュッセルでアルトゥール・グリュミオーとリサイタルを開くためです。ブリュッセル南駅ではグリュミオーの代わりにグリュミオー夫人が迎えに来ていました。その駅の階段でクララ・ハスキルは転倒して、頭を打ちますが、意識はあったそうです。救急車で病院に運ばれたクララ・ハスキルはその日のうちに開頭手術を受けますが、その後、意識が戻ることはなかったそうです。そして、翌日の12月7日の午前1時に帰らぬ人になりました。彼女は現在、パリのモンパルナス墓地Cimetière du Montparnasseで静かに眠っています。彼女は常々、自分がピアノが弾けなくなる前に神様が天国に連れていってほしいと言っていたそうですから、この悲劇も運命として、彼女自身も我々も受け入れるべきなのかもしれません。
ハスキルの日には彼女のCDを聴いて過ごすことにしましょう。何を聴こうかな。もちろん、モーツァルトですが、たまにはピアノ協奏曲ではなく、ピアノ・ソナタを聴きましょう。彼女の残した録音は第2番と第10番だけです。以下がその一覧です。(*は所有しているもの)
ピアノ・ソナタ第2番 K.280
*(1)...60/05/05-06、ルツェルン (DGG)
ピアノ・ソナタ第10番ハ長調 K.330
*(1)...54/05/05-06、アムステルダム (Philips)
*(2)...57/08/08、ザルツブルク音楽祭ライブ(モーツァルテウム) (ORF)
*(3)...57/08/23、エジンバラ音楽祭ライブ (THARA)
1957年のザルツブルグ音楽祭で弾いたピアノ・ソナタ第10番 K.330を聴きましょう。ほぼ、60年前の演奏です。このCDには、ほかに以下の曲が録音されています。
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第18番変ホ長調 Op.31-3
シューベルト:ピアノ・ソナタ第21番変ロ長調 D.960
期待通り、会心の演奏でした。ハスキルらしい芯のしっかりしたタッチの純度の高い響きで、そのピアノの音を聴いているだけで天国的な気持ちになります。モーツァルトのこのソナタはハ長調というシンプルな調ですが、ハスキルのピアノはその単純さの奥に深い精神性をかいま見せてくれます。一方、ベートーヴェンはしっかりした音楽をハスキルらしいピュアーな響きとともに聴かせてくれます。そして、最高だったのはシューベルトの最後のソナタです。これはどうのこうのと言う演奏ではなく、ハスキルとシューベルトが魂の深いところでつながっているようなパーフェクトな演奏です。ああ、そこはそんな風に弾くのねって、終始、感銘を受けながら聴き続けました。特に第2楽章の美しさが心に沁みました。それに第4楽章の超絶的な世界は凄い。いつも、この曲は第1楽章に魅了されますが、この演奏は全楽章、惹き付けられて、長さを感じさせません。なお、ハスキルが残したシューベルトのソナタの録音はこの第21番のほかには第16番があるだけですが、この第16番も美しい演奏です。
ここで聴き終えても満足ですが、やっぱり、ハスキルと言えば、モーツァルトのピアノ協奏曲、それも第19番を聴きたいですね。今日はどのCDを聴きましょうか。以下が彼女の残した全録音、8種です。
ピアノ協奏曲第19番ヘ長調 K.459
*(1)...50/09/23-24、ヴィンタートゥール ヘンリー・スウォボダ、ヴィンタートゥール交響楽団(Westminster)
*(2)...52/05/30、ケルン フェレンツ・フリッチャイ、ケルン放送(WDR)交響楽団(MEDICI MASTERS)
*(3)...53/01/20、ベルリン フェレンツ・フリッチャイ、RIAS交響楽団(THARA)
*(4)...55/09/21-22、ベルリン フェレンツ・フリッチャイ、ベルリン・フィル(DGG)
*(5)...56/07/04、ルドヴィクスブルク カール・シューリヒト、シュトゥットガルト放送交響楽団(Hanssler Swr Music)
*(6)...56/09/06、ブザンソン(市立劇場) イェジー・カトレヴィッツ、パリ音楽院管弦楽団(INA)
*(7)...57/10/04、ローザンヌ ヴィクトル・デザルツェンス、ローザンヌ室内管弦楽団(Claves)
*(8)...59/02/19、パリ(シャンゼリゼ劇場) コンスタン・シルヴェストリ、フランス国立管弦楽団(INA)
フリッチャイとの3種の録音も素晴らしいですが、実はsaraiはオーケストラはともかくとして、少なくともハスキルのピアノに関してはどの演奏も好きなんです。今日は7番目の1957年のデザルツェンス指揮ローザンヌ室内管弦楽団のCDを聴きましょう。一緒に録音された以下の演奏も聴きます。
ピアノ協奏曲第24番ハ短調 K.491
オーケストラはまあ、そこそこの演奏ですが、ハスキルのピアノは何度聴いてもインスパイアされます。ピアノの響きは彼女にしか出せない響きです。ハスキルの第19番は最高です。第24番のほうもいいのですが、ピアノの高域の響きがワーンと反響した感じでよく聴き取れないのが残念です。
saraiのこれからの人生はハスキルとともにあると言っても過言でないほど、彼女のピアノに恋しています。
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