これぞヴェルディ!シモン・ボッカネグラ@ハンガリー国立歌劇場 2013.5.31
いやあ、やっぱり、音楽は自分の耳で聴いてみないと分からないものです。とても素晴らしいオペラ公演に感動してしまいました。ヴェルディの1,2を争う傑作オペラの黒光りするような音楽美にしびれてしまいました。何と言っても、バス、バリトン陣の好演が光ります。冒頭のパオロとピエトロの登場からの2人の歌でこのオペラが素晴らしくなりそうな予感を抱かせられます。ヴェルディ渾身の男のオペラです。華やかさとは縁遠い男たちの葛藤のドラマです。そして、シモン役のKalmandiの登場。一段と声がよく響きます。シモン役としては、少し明るい声のバリトンですが、心理表現の深さはなかなかです。彼は理想と苦悩、そして、愛を熱演。素晴らしいシモンでした。続いて、フィエスコ役のPrestiaです。長身の体の奥から、ずしんと響いてくるバスは圧巻です。フィエスコは、表の主役シモンに対して、裏の主役のような重要な役どころです。このオペラはフィエスコ役がしっかりと歌わないと成り立たないオペラです。それは《ドン・カルロ》の国王と相通じるものがあります。今回のオペラで最高の歌唱はこのPrestiaでした。終幕で彼が『シモンは死んだ』と最終宣言するところは身震いするような歌唱でした。
さて、この男のオペラでの紅一点、アメリアですが、この役を歌ったBorossは少なくともsaraiの耳を十分に楽しませてくれました。欠点と言えば、細く高い声で響きが濁るところですが、あとは繊細な歌いまわしから、激しく叫ぶところまで、女声を一人で担う責務を期待以上にこなしてくれました。第1幕のシモンとアメリアが実の親子であることが判明するシーン、これはこのオペラ最大の山場でもありますが、2人の美しく、そして、深い感情表現には、最高の感動を味わいました。
ガブリエーレ役のテノールAdorjanは決してスケールの大きな歌手ではありませんが、テノールとしての役どころを十分にこなしていたと思います。目立ち過ぎず、それでいて、男声の高音部を一人で担って、アンサンブルとしてもよかったと思います。
シモンとフィエスコの憎しみから始まり、彼らの和解と愛情に至る男のドラマの骨組みがしっかりと押さえられた素晴らしい公演でした。アメリアの濁りのない声で純真さが彩られたのもよかったしね。
そうそう、演出が少し面白かったんです。海の男シモンのバックボーンなのか、男たちの欲望・野望を表現するのか、海の怪獣と思しき4匹が舞台を蠢くんです。それに対して、アメリアのシーンでは、人魚たちも登場。これは純真さの象徴でしょうか。いずれにせよ、オペラの本筋とは関係ありませんが、リグリア海を舞台に表現するための演出です。その是非はさておき、意欲的な演出には敬意を表します。
今日のキャストは以下です。
演出:Ivan Stefanutti
指揮:Vashegyi Gyorgy
管弦楽:ハンガリー国立歌劇場管弦楽団
シモン・ボッカネグラ:Kalmandi Mihaly
アメリア:Boross Csilla
フィエスコ:Giacomo Prestia
パオロ:Alik Abdukayumov
ガブリエーレ:Pataki Adorjan
ピエトロ:Bakonyi Marcell
今回の旅の皮切りとしては、上々の滑り出し。1日おいて、ウィーンで超弩級のオペラ、ガランチャとアラーニャの《カルメン》です。やはり、オペラはいいです。
《シモン・ボッカネグラ》は今回の旅で1週間後にミュンヘンのバイエルン国立歌劇場でも見ます。よっぽど頑張ってもらわないと、ハンガリー国立歌劇場の公演にひけを取ってしまいますよ!
ヴェルディの主要なオペラでは、この《シモン・ボッカネグラ》と《シチリア島の夕べの祈り》の2つだけが生では未聴でした。これで残りは《シチリア島の夕べの祈り》です。いつ、巡り合えるでしょうね。楽しみは尽きません。
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