見事な演出と音楽!オペラ:ベルリオーズ《ベアトリスとベネディクト》@アン・デア・ウィーン劇場 2013.4.17
今夜はアン・デア・ウィーン劇場の新演出の初日、プレミエ公演です。2列目のど真ん中という最高の席で見ることができました。
演出はアン・デア・ウィーン劇場らしく、新しいスタイルの演出ですが、決して、奇をてらっただけのものではなく、ベルリオーズのロマン主義の音楽を際立たせるための演出の工夫が随所にみられ、大変、質の高いものでした。例えば、第1幕終盤の夜想曲の美しい2重唱では、ソプラノを舞台前方に立たせ、メゾソプラノを対角の後方に立たせ、ソプラノの声を前面に出して、美しいハーモニーの響きを醸し出していました。第2幕目の冒頭の楽長ソマローネのアリアの終盤で、彼が酔っぱらってしまって、ちゃんと歌えなくなるシーンでは、ソマローネを椅子の上に立たせて、バランスをくずしそうになる、危なっかしさで、このシーンを表現し、自然な感じに見せていました。
舞台の作りも凝っていて、舞台全体がオペラ劇場の観客席を模したスタイルになっています。これは以前見た《こうもり》でも、同様だったので、その舞台を流用したのでしょう。楽長ソマローネが指揮する場面では、この舞台がうまく活かされていました。ちょうど、オーケストラ・ピットをはさんで、舞台上の観客席と実際の観客席が向かい合わせになるので、舞台上から楽長ソマローネがこの場面に限り、ドイツ語で指揮者のフセインに話しかけるというオペレッタ仕立ての展開になり、聴衆もどっと沸いていました。ちなみに公演自体は原語のフランス語でした。言わずもがなですが、このオペラは原作がシェークスピアの《恋の空騒ぎ》で、ベルリオーズ自身がオペラ用に翻案したもので、その際に英語からフランス語に変えられています。
舞台は回り舞台になっていて、中央に映像を表示する大きなパネルが上下するようになっていて、舞台を2分するようになっていて、実に凝った映像が流れます。おしゃれな演出です。
衣装は20世紀初頭といった感じのちょっと古めいたレトロな感じで、これもなかなかお洒落です。大勢の紳士、淑女が登場する場面は大変、華やかなもので、オペラを見る楽しみも倍化します。
さて、肝心の音楽ですが、これが素晴らしい。序曲の冒頭は演奏が固い感じも受けましたが、これもウィーン放送交響楽団のかっちりした演奏とも言えます。オーケストラは大変引き締まった演奏ですが、フランス音楽の、それもロマン派の音楽を十分に満喫させてくれるものです。このオーケストラはドゥ・ビリーが音楽監督の時代から、フランス音楽も得意にしていましたからね。とはいえ、やはり、ウィーンのオーケストラ、ウィーン風の音楽に聴こえる箇所も多く、それはそれで、大変、好もしい感じです。この土台のしっかりした管弦楽に乗って、粒揃いの歌手たちが素晴らしい歌唱を聴かせてくれます。あっと、その前に、このオペラはフランス語のセリフの場面が多いのですが、そのシーンでの演技のうまさは特筆するものがあります。大筋、ラブコメディみたいなものですから、オペレッタを感じさせますが、節度のある範囲内での演技で、上品でもあります。
歌についてですが、やはり、タイトルロールのベアトリスとベネディクト役の2人は抜群の出来です。期待のマレーネお姉さまは、演技力、容姿が素晴らしく、舞台の中心であり続けます。歌唱はメゾソプラノとは言え、高音の伸びが素晴らしく、ピュアーな響きがホールが広がります。第2幕のアリアでのリリックな歌唱もアリア終盤のダイナミックな歌唱も胸にじんじん来ます。一方、ベネディクト役のベルナルド・リヒターも張りのある声で素晴らしい歌唱。
(写真はプログラムから拝借)

しかしながら、このオペラで最高に素晴らしかったのは、第1幕終盤の女声重唱(エロー、ユルシュール)の夜想曲《静けき清らかに澄んだ夜よ》と、それをさらに上回った第2幕前半での女声3重唱(ベアトリス、エロー、ユルシュール)の《私は、心が愛に満たされて》です。夢見るような美しい歌唱に心がとろけてしまいそうです。エロー役のクリスティアーネ・カルクの美しいソプラノ、ユルシュール役のアン-べス・ソルヴァンクのメゾソプラノの美しいハーモニー、そして、マレーネお姉さまのメゾソプラノならではの美しい高音、これらが調和して、ベルリオーズが到達したロマン派の神髄を表現しきってくれました。幻想交響曲だけがベルリオーズではなかったことに、いまさらながら、気づかされました。
そうそう、合唱はアルノルト・シェーンベルク合唱団ですから、実力通りの素晴らしい響きを聴かせてくれました。
今日のキャストは以下です。
指揮:レオ・フセイン
管弦楽:ウィーン放送交響楽団
合唱:アルノルド・シェーンベルク合唱団
演出:カスパー・ホルテン
ベアトリス:マレーネ・エルンマン
ベネディクト:ベルナルド・リヒター
エロー:クリスティアーネ・カルク
ユルシュール:アン-べス・ソルヴァンク
ドン・ペドロ:マルティン・シュネル
楽長ソマローネ:ミクローシュ・セバスティアン
レオナート:トーマス・エンゲル
素晴らしいプロダクションの初日が聴けて、改めて、ウィーンの音楽文化のレベルの高さに舌を巻きました。うっとりとした感動・・・それがベルリオーズのロマン派の音楽でした。
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