fc2ブログ
 
  

感動と楽しさ・・・アンドラーシュ・シフ・ピアノ・リサイタル@東京オペラシティ コンサートホール 2017.3.21

今日のアンドラーシュ・シフのピアノ・リサイタルは期待通りの素晴らしさで感動(これは本編)と楽しさ(これはアンコール)が交錯しました。まるで本編(1時間半ほど)とアンコール(何と40分ほど)の2部構成みたいなもので、アンコールはシフと聴衆が一体化して、まさにファンの集いのような雰囲気になりました。ともあれ、本編でのベートーヴェンのピアノ・ソナタ第31番 変イ長調 op.110が感動的に素晴らしく、さらにシューベルトのピアノ・ソナタ第20番 イ長調 D959は超絶的な素晴らしさ。こんなピアノ・リサイタルは人生で何回も聴けるものではありません。満足の極みでした。

今日のプログラムは以下です。

  ピアノ:アンドラーシュ・シフ
 
モーツァルト:ピアノ・ソナタ第17(16)番 変ロ長調 K.570
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第31番 変イ長調 op.110
ハイドン:ピアノ・ソナタ ニ長調 Hob. XVI: 51
シューベルト:ピアノ・ソナタ第20番 イ長調 D959
  ※休憩なし

  《アンコール》

シューベルト:3つの小品(即興曲)~第2曲 D946-2
バッハ:イタリア協奏曲BWV.971~第1楽章 アレグロ ヘ長調
バッハ:イタリア協奏曲BWV.971~第2楽章 アンダンテ ニ短調、第3楽章 プレスト ヘ長調
ベートーヴェン:6つのバガテル~第4曲 プレスト ロ短調 Op.126-4
モーツァルト:ピアノ・ソナタ第16(15)番ハ長調K.545~第1楽章 アレグロ ハ長調
シューベルト:楽興の時D780~第3番ヘ短調


今日のリサイタルは《最後から2番目のソナタ》と銘打ったものです。ウィーンで活躍した古典派の大作曲家4人の作品が取り上げられました。
まず、モーツァルトのピアノ・ソナタ第17(16)番 変ロ長調 K.570です。因みに第17番は新全集での番号で、第16番は旧全集での番号です。冒頭から、いかにもシフらしい柔らかく、あたたかい響きです。モーツァルトにしては少し厚みがあるかなと思いますが、決して重厚な響きではありません。ただ、saraiの好きなピュアーな響きのモーツァルトではありません。古くはハスキル、最近では若い頃のピリス、エッシェンバッハの純度の高い響きのほうがしっくりとします。それでもシフ流のモーツァルトもそれなりに説得力があります。特に第2楽章の美しい演奏には魅了されました。

そのまま、弾き続けるのかなと思っていたら、いったん、ここで切って、拍手。ちょっと間を取って、次のベートーヴェンのピアノ・ソナタ第31番 変イ長調 op.110に入ります。シフのピアノの響きは理想的なベートーヴェンの響きです。第1楽章のパーフェクトな演奏に惹き込まれます。パーフェクトというのは決してミスタッチがないというような低次元の話ではなく、音楽的な表現の話です。実に心に沁みてくるような演奏に感銘を受けます。上昇音型の憧れを感じさせるようなところでは、心が奪われそうです。でも、本当に素晴らしかったのは第3楽章です。大規模な序奏の後、『嘆きの歌』の演奏が始まります。まさにその言葉通りの演奏で、人間の深い悲しみがシフの演奏で綴られていきます。ここに至り、シフとベートーヴェンが一体化し、saraiの心は感動でいっぱいになります。それも束の間、すぐにフーガが始まり、宗教的とも思える救済に音楽は昇華していきます。狂おしく音楽は上りつめていきます。シフの激しいピアノの響きがホール中に満たされます。そして、響きが収まり、再び、『嘆きの歌』に戻ります。さきほど以上に切なく悲しい音楽に心が耐えきれないほどになります。『嘆きの歌』が終わり、再び、素晴らしいフーガが高揚していきます。単なる魂の救済ではなく、人間の究極の悲しみと明日への希望がアウフヘーベンされたような素晴らしい芸術表現のフィナーレに熱い感動を覚えました。ベートーヴェンの最高の音楽、そして、シフのあくなき芸術的な追及が合わさることで、奇跡のような音楽が生み出されたと感じました。

いったんは拍手で休止ですが、正直、休憩なしにこのまま、演奏を続けられると聴く側もつらい感じです。大きな感動の心の持っていくところがありません。しかし、よくプログラムが考えれており、次はハイドンのピアノ・ソナタ第61番 ニ長調 Hob. XVI: 51です。5分ほどの短い曲ですが、とても心地よく聴ける曲で、気持ちの切り替えになります。このハイドンもとても素晴らしい演奏でした。シフもハイドンのピアノ・ソナタ全集を録音してほしいと感じます。(よく知らないのですが、既に録音しているのかな?)

ハイドンが終わると、そのまま、続けて、シューベルトのピアノ・ソナタ第20番 イ長調 D959の演奏が始まります。まるでハイドンが序奏のようです。シューベルトは第1楽章から、全開モードでとっても素晴らしい演奏です。第2楽章の美しいメロディーが始まると、saraiの心は感極まります。中間部の凄まじい音響も素晴らしく、その後に美しいメロディーに戻ると心がとろけそうです。短い第3楽章を経て、終楽章に入ります。もう、これは言葉での表現ができそうにもありません。最高のシューベルトとしか、形容のしようがありません。フィナーレに入るころには心がずたずたです。歩を止めるように、何度も休止を繰り返すところは、まるでシューベルトが美しいこの世から去り難く思っているような心情が見事に表現されています。そして、圧巻のフィナーレ。先ほどのベートーヴェンも素晴らしかったのですが、それをはるかに超える感動を覚えます。
ベートーヴェンの後期ソナタ3曲は超えることが不可能とも思える傑作群でしたが、シューベルトはその天才的な才能で最晩年に至って、途轍もない別の峰々を築き上げたことを実感させてくれるようなシフの素晴らしい演奏でした。

アンコールについては特に記述しなくてもいいでしょう。ただただ、楽しかったんです。バッハのイタリア協奏曲は前回聴いたリサイタル(2014年3月、紀尾井ホール)でもアンコール曲でしたが、そのときは第1楽章だけで残念な思いでした。今日もいったんは第1楽章で演奏を止めたので、またかと思ったところ、再度の登場で再び、第2楽章に続けて第3楽章まで聴かせてくれて大満足。素晴らしい演奏でした。ソナチネアルバムにあるモーツァルトのソナタですが、これは最後から3番目のソナタなので演奏したんでしょう。決して、手抜きして、簡単な曲でお茶を濁したんではないと思います。2日後のリサイタルでは、アンコールでシューベルトの3つの小品 D946の残りの2曲を期待したいところです。


↓ 音楽を愛する同好の士はポチっとクリックしてsaraiと気持ちを共有してください

 いいね!



関連記事

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

       シフ,

コメントの投稿

非公開コメント

No title

「最高のシューベルトとしか、形容のしようがありません。フィナーレに入るころには心がずたずたです」
本当にそんな感じでした。こんなに素晴らしい演奏会、人生でそう何度も聴けないですよね!

No title

コメントありがとうございます。
本当に素晴らしい演奏でしたね。23日はさらに素晴らしい演奏でした。
人気ランキング投票、よろしくね
ページ移動
プロフィール

sarai

Author:sarai
首都圏の様々なジャンルのクラシックコンサート、オペラの感動をレポートします。在京オケ・海外オケ、室内楽、ピアノ、古楽、声楽、オペラ。バロックから現代まで、幅広く、深く、クラシック音楽の真髄を堪能します。
たまには、旅ブログも書きます。

来訪者カウンター
CalendArchive
最新記事
カテゴリ
指揮者

ソプラノ

ピアニスト

ヴァイオリン

室内楽

演奏団体

リンク
Comment Balloon

金婚式、おめでとうございます!!!
大学入学直後からの長いお付き合い、素晴らしい伴侶に巡り逢われて、幸せな人生ですね!
京都には年に2回もお越しでも、青春を過ごし

10/07 08:57 堀内えり

 ≪…長調のいきいきとした溌剌さ、短調の抒情性、バッハの音楽の奥深さ…≫を、長調と短調の振り子時計の割り振り」による十進法と音楽の1オクターブの12等分の割り付けに

08/04 21:31 G線上のアリア

じじいさん、コメントありがとうございます。saraiです。
思えば、もう10年前のコンサートです。
これがsaraiの聴いたハイティンク最高のコンサートでした。
その後、ザル

07/08 18:59 sarai

CDでしか聴いてはいません。
公演では小沢、ショルティだけ

ベーム、ケルテス、ショルティ、クーベリック、
クルト。ザンデルリング、ヴァント、ハイティンク
、チェリブ

07/08 15:53 じじい@

saraiです。
久々のコメント、ありがとうございます。
哀愁のヨーロッパ、懐かしく思い出してもらえたようで、記事の書き甲斐がありました。マイセンはやはりカップは高く

06/18 12:46 sarai

私も18年前にドレスデンでバームクーヘン食べました。マイセンではB級品でもコーヒー茶碗1客日本円で5万円程して庶民には高くて買えなかったですよ。奥様はもしかして◯良女

06/18 08:33 五十棲郁子

 ≪…明恵上人…≫の、仏眼仏母(ぶつげんぶつも)から、百人一首の本歌取りで数の言葉ヒフミヨ(1234)に、華厳の精神を・・・

もろともにあはれとおもへ山ざくら 花よりほか

月別アーカイブ
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR