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失望から奇跡の感動へ:ヒラリー・ハーン・ヴァイオリン・リサイタル@みなとみらいホール 2013.5.12

逆説的な言い方になりますが、素晴らしいコンサートほど終わった後の喪失感が大きいものです。しかし、今日のリサイタルはとても素晴らしかったけれど、喪失感もありません。明後日、同じプログラムのリサイタルを聴けるからです。
ヒラリー・ハーンはsaraiの最愛のヴァイオリニストです。現役のヴァイオリニストに限っているのではありません。録音でしか聴いたことのない歴史上の大ヴァイオリニストも含めてです。したがって、彼女のヴァイオリンを聴ける機会は逃せません。今日のみなとみらいホールのリサイタルに加えて、明後日のオペラシティでのリサイタルの両方を聴きます。

今回のプログラムはかなり変わった構成になっています。ひとつは一般的なレパートリーからのもの、もうひとつはヒラリー・ハーンが現代の作曲家に委嘱した新曲(27の小品:26名の作曲家による26曲及び公募した作品1曲)からのものから成ります。こういう特異な構成で聴衆を集めることができるのは、ヒラリー・ハーンの紡ぎだす音楽へ信頼感が高い証拠でしょう。委嘱新曲を聴いたことのある人はほとんどいなかったでしょう。

一般的なレパートリーでは、遂に生で聴けるバッハのシャコンヌを楽しみにしていました。彼女の17歳のときのデビューアルバムでの素晴らしい演奏を再び聴き直し、その瑞々しい演奏に感動し直し、17年経った今、一体、どんな演奏が聴けるか、どきどきして、聴きました。そして、いったん、その演奏に失望しましたが、聴き進むにつれ、奇跡的な演奏であることを実感するに至り、感動の大波に襲われました。この17年、ヒラリーが成熟したという簡単な言葉では表現しきれない大きな飛躍があったことを改めて確信しました。

この日のプログラムは以下の内容です。

 ヴァイオリン:ヒラリー・ハーン
 ピアノ:コリー・スマイス

 アントン・ガルシア・アブリル:"First Sigh" Three Sighs より
 デイヴィッド・ラング:"Light Moving"
 モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調 K.302
 大島ミチル:"Memories"
 J.S. バッハ:シャコンヌ (無伴奏パルティータ第2番より)

  《休憩》

 リチャード・バレット:"Shade"
 エリオット・シャープ:"Storm of the Eye"
 フォーレ:ヴァイオリン・ソナタ 第1番 イ長調
 ヴァレンティン・シルヴェストロフ:"Two Pieces"

  《アンコール》

    ジェームズ・ニュートン・ハワード:"133...At least"
    デイヴィッド・デル・トレディッチ:Farewell

ヒラリーは背中が大胆に開いた黒のロングドレスで颯爽と登場。ビジュアル的にも美しいヒラリーです。

最初はアブリルの委嘱新曲です。3曲構成のマイクロ・ピアノ・ソナタの第1曲。少しスペイン風のテーストも感じられますが、ともかく、ヒラリーのヴァイオリンの響きは美しく響きます。危惧したような難解さは感じられません。そういう意味では、前衛的ではありません。

次のラングの委嘱新曲はいわゆる、ミニマルミュージックですが、この曲も同様にヒラリーのヴァイオリンの美しい響きが耳に心地よく感じられます。

次はモーツァルトのソナタです。これもヒラリーのヴァイオリンが美しく響きますが、ヒラリーなら、もっと、のりのりの演奏を期待したいところです。気品はありますが、もうひとつ、切れがない感じです。予習のCDはグリュミオーのヴァイオリン、ワルター・クリーンのピアノでしたが、まさにこれぞモーツァルトという素晴らしい演奏でした。いつの日か、ヒラリーもこれを超える最高の名演を聴かせてくれることを信じています。

次は日本人の大島ミチルの委嘱新曲です。ますます、ヒラリーのヴァイオリンの音色は冴えわたります。素晴らしい!

前半最後は、一番期待していたバッハのシャコンヌです。できれば、無伴奏パルティータ第2番の全曲を聴きたかったところです。演奏は上に書いたように、初めは若干、期待外れに感じました。すっと弾き始め、あっさりした演奏なんです。17歳のときのような気合のはいった演奏ではありません。バッハの無伴奏と言えば、魂のこもった演奏という意識で聴いてしまいます。美しい響きでたんたんと弾いているだけだと、初めは誤認してしまいました。それほど、17歳のときの演奏とは隔絶したスタイルの演奏だったんです。しかし、何変奏か進んでいくうちに、段々とヒラリーの響きが心に沁みいってきました。実に自然な演奏で、まったく力みのないヴァイオリン。“ヒラリー・ハーン”のシャコンヌではなく、これはあくまでもバッハのシャコンヌですと語りかけてくるような演奏です。バッハの音楽を自己表現の道具にせずに、作曲家の楽譜を忠実に再現すること・・・それがヒラリーの17年の成熟の証しでした。バッハの器楽曲の最高峰とも言えるシャコンヌの素晴らしい響きに次第に引き込まれていく自分を感じます。ヒラリーの弾くバッハのシャコンヌは奇跡とも思える感動的な演奏です。抑えた弱音から、重音まで、美しい響きに包まれて、パーフェクトです。いつまでも聴いていたい音楽もいつかは終わりを告げます。涙が滲むような体験でした。熱く自己表現するだけが音楽的共感を生むわけではないという当たり前のことを再認識させられる最高レベルの音楽でした。これが明後日、もう一度聴けるとは、何という幸福でしょう。しかも明後日はヒラリーの弾くバッハのシャコンヌが何たるかを初めから分かって聴けますから、感動は倍加するでしょう。

休憩後、バレットの委嘱新曲は先鋭的な響きですが、ヒラリーはそれさえも美しく響かせます。

次のシャープの委嘱新曲もバレットほどではありませんが、現代的な響きです。しかし、結局、ヒラリーのヴァイオリンの響きは美しい!

次はフォーレのソナタです。今回のプログラムのメインとも言える曲目です。圧巻だったのは第2楽章。ゆったりとした叙情的なメロディーが奏でられますが、その音楽に合わせたヒラリーの体の動きの美しいこと、うっとりしてしまいます。まるで、ロマンティックな映画の1シーンを見ているようです。ふいにキム・ノヴァークの映画を思い出してしまいました。あれは『ピクニック』という映画だったでしょうか。キム・ノヴァークが恋心を抱いて、自然に体を揺らし、スローなダンスを踊るシーンにとても魅了された記憶があります。あれと同じように、ヒラリーがヴァイオリンを弾きながら、自然に体を揺らすのに魅了されました。この曲を弾くために、魅惑的な黒のドレスを着てきたのか思うほど、ぴったりな雰囲気でした。ヴァイオリンのリサイタルで美しいバレエを見たようなものです。それほど、今日のヒラリーはビジュアル的にも美しく思えました。誤解のないように書きますが、saraiがヒラリーの熱狂的なファンなのは、あくまでも彼女の音楽を愛するからで、彼女が美しいからではありませんでした。ただ、今日のような体験をしてしまうと、それも変わってしまうかも。
まあ、フォーレの演奏はとても美しい演奏でした。

最後は何故か、また、委嘱新曲です。このシルヴェストロフの曲は古典的な美しい曲で、題名を変えて、『ヒラリーのテーマ』としてしまいたいような曲です。彼女以外には、こんなに美しく響かせることは不可能に感じます。この曲を最後に持ってきたからには、ヒラリーもお気に入りなんでしょう。委嘱新曲はCD録音が予定されているそうですが、この『ヒラリーのテーマ』だけはヴィデオ化してもらいたいものです。

アンコールは2曲。もちろん、どちらも委嘱新曲で、とても素敵な演奏でした。今日はなんだか、ミーハー的になってしまいました。でも、それはヒラリーのせいですよ!


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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

       ヒラリー・ハーン,

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オペラ・美術が大好きでヨーロッパの旅にはまっています。音楽の聖地ウィーンが中心で、イタリア、フランス、ドイツも巡っています。国内外のオペラ・コンサートの体験もレポートします。

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ありがたいコメント、嬉しいです。マーラーのファンのかたにこそ、読んでいただきたかったので、気持ちを共有できた思いです。自然の中にこそ、マーラーの音楽の本質はあり

04/23 23:45 sarai

マーラーの作品を聴きながら、ブログを読ませていただいています。
読みながら画像を見て、マーラーの過ごした風景に想いを馳せて楽しんでいます。
素敵なブログをありがと

04/23 21:47 

マーラー6番ですか・・・ハンマー打撃は勘弁してほしいものです。あったとしても、3回目の打撃だけは・・・

04/11 18:10 sarai

まさにマーラー6番な状況です笑

04/11 17:51 kico

お互い、残念でしたね。今年でヨーロッパ遠征を終わりにする予定でしたが、悲劇的な状況になりました。天はまだ我に旅を続けよというご託宣を与えたのでしょうか。1年延期

04/11 03:13 sarai

以前にもコメントさせていただいた者です。来ましたね、楽友協会からのメール。私たちはとりあえず1年延期としましたが、どうでしょうね。困っている人が多い中贅沢な悩み

04/11 00:33 kico

お返事ありがとうございます。
本当に!私もレイルジェットや美術館の手配もしているので、祈るような気持ちです。

03/10 19:06 kico
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