異形のバルトーク、納得のリゲティ:アルディッティ・カルテット@鶴見サルビアホール 2017.6.26
今日のプログラムは以下です。
弦楽四重奏:アルディッティ・カルテット
第1ヴァイオリン:アーヴィン・アルディッティ
第2ヴァイオリン:アショット・サルキシャン
ヴィオラ:ラルフ・エーラース
チェロ:ルーカス・フェルス
バルトーク:弦楽四重奏曲 第3番
リゲティ:弦楽四重奏曲 第2番
《休憩》
細川俊夫:沈黙の花
ラッヘンマン:弦楽四重奏曲 第3番「グリド」
1曲目のバルトークの弦楽四重奏曲 第3番は20世紀の最高の弦楽四重奏曲であるバルトークの6曲の中でも、最も先鋭的と言える作品です。単一楽章のたった15分ほどの作品ですが、凝縮した内容に圧倒されます。この際、手持ちのLP、CDを総ざらいして、予習しました。予習したのは以下のLP3枚、CD6枚です。
LP:ハンガリー四重奏団(1961年)、ジュリアード四重奏団(2回目録音、1963年)、バルトーク四重奏団(1966年)
CD:ジュリアード四重奏団(1回目録音、1950年)(3回目録音、1981年)、ヴェーグ四重奏団(1972年)、アルバン・ベルク四重奏団(1983年)、エマーソン・カルテット(1988年)、ハーゲン・カルテット(1995年)
LPの3枚、ハンガリー四重奏団、ジュリアード四重奏団(2回目録音)、バルトーク四重奏団はわざわざLPをコレクションするほど気に入ったものですから、もちろん、すべて名演で素晴らしい演奏です。ちなみにsaraiがこの曲を最初に聴いたのはジュリアード四重奏団(2回目録音)でした。今回、ジュリアード四重奏団の3回の録音を聴くと、1回目のモノラル録音は表現主義的とも思える切り込んだ演奏ですが、音楽的には2回目の録音が鋭角的な美しい演奏でこれがベスト。3回目は少なくとも、この第3番はアプローチが弱い感じ。全体で最高に素晴らしいのは、エマーソン・カルテットの演奏です。最高のテクニックでやりたい放題とも思える自由な演奏ですっかり魅惑されました。
その上で、今日のアルディッティ・カルテットの演奏ですが、これが予習しまくったバルトークの同じ曲とは思えないような、前衛的とも思える新鮮な演奏です。まるで世界初演の曲を聴いたような感覚です。アルディッティ・カルテットの凄まじい演奏に圧倒されました。もし、バルトークが生きているうちにこの演奏を聴いたなら、その後の作曲が変わったのではないかと思いました。もっとも、saraiはこういうバルトークをCDで聴きたいかと言えば、それはありません。今、所有しているLP、CDで聴きたいというのが本音です。ただ、今日の演奏はカルチャーショックみたいなもので、バルトークの新しい一面を聴けて、よかったと思っています。また、アルディッティ・カルテットで今度は第4番を聴きたいと思っています。意外に第3番よりも前衛さはないのではないかと想像しています。
2曲目はリゲティの弦楽四重奏曲 第2番です。リゲティは弦楽四重奏曲を2曲書いていて、第1番はハンガリーから亡命する前の1954年で、亡命後のような前衛的な手法で作曲することはなく、まるでバルトークの第4番あたりの感じの作品です。そして、今日演奏された第2番は亡命後、シュトックハウゼンらの現代音楽の手法に影響されて、トーン・クラスター、ポリリズムなどの手法を駆使して、前衛的な音楽として書かれました。書かれたのは1968年です。スタンリー・キューブリック監督作「2001年宇宙の旅」で使われて有名になったルクス・エテルナ(1966年)が書かれた2年後のことです。もちろん、バルトークよりも前衛的な作品ですが、saraiの耳には、むしろ、このリゲティのほうがフツーに聴けました。まあ、演奏がよかったということです。そう感じたのは、この作品の予習をこのアルディッティ・カルテットの2枚のCDで聴いたせいかも知れません。
1994年 リゲティ・エディション1 弦楽四重奏と二重奏のための作品集
2005年 アルディッティ弦楽四重奏団:ウィグモア・ホール・ライヴ ナンカロウ/リゲティ/デュテイユー
リゲティ・エディション1には、弦楽四重奏曲第1番ほかも含まれており、素晴らしい内容です。リゲティのファンでなくても、必聴の1枚です。このCDの演奏と今日の演奏はほぼ同じでした。いかに前衛的な手法を使っていても、やはり、リゲティの作品は音楽的な内容がリッチに詰まっています。アルディッティ・カルテットはある意味、それを明快に演奏してくれます。彼らが超絶技巧を誇っているからでしょう。第2楽章はルクス・エテルナを彷彿とさせる宇宙的な空間イメージを感じさせますし、第3楽章のピチカートのポリリズムは心地よい限りです。そして、第5楽章はもはや、古典的な感覚を覚えます。バルトークの6曲とリゲティの2曲は今後、セットで聴きたくなりそうです。
後半の細川俊夫とラッヘンマンもちゃんとアルディッティ・カルテットの演奏で予習までしましたが、これはsaraiには難解でついていけませんでした。ですから、コメントはなしです。ただ、アルディッティ・カルテットの超絶的な演奏による多彩な音響には脱帽でした。分からなかったのは音楽的な内容です。
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