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ティーレマン+ウィーン・フィルのベートーヴェン交響曲チクルスへの助走:交響曲第1番

ティーレマン+ウィーン・フィルのベートーヴェン交響曲チクルスの第1日(11月8日(金))のプログラムについて、聴いていきます。

なお、予習に向けての経緯はここ
交響曲第1番についてはここ
交響曲第2番についてはここ
交響曲第3番《英雄》についてはここ
交響曲第4番についてはここ
交響曲第5番《運命》については1回目はここ、2回目はここ、3回目はここ
交響曲第6番《田園》については1回目をここ、2回目をここ、3回目をここ
交響曲第7番については1回目をここ、2回目をここ、3回目をここ、4回目をここ、5回目をここ、6回目をここ
交響曲第8番については1回目をここ、2回目をここ、3回目をここ
交響曲第9番については1回目をここ、2回目をここ、3回目をここ、4回目をここに書きました。

(全予習が完了したので、全予習へのリンクを上記に示します。参考にしてくださいね。)


まず、交響曲第1番ハ長調Op.21。
ベートーヴェンが1800年に完成させ、ウィーンのブルク劇場で自らの指揮で初演。

saraiも大方の人と同様に、この第1番、第2番、第8番あたりはほかの曲に比べると、あまり聴いていないほうの曲です。逆に言えば、まだまだ、新鮮さを感じる曲とも言えます。多分、レコードで初めて聴いたのは、後にも出てくるワルター指揮コロンビア交響楽団のものだと思います。

以下、今回、CDを聴いた順に感想を書いていきます。計13の演奏を聴きました。

まず、ウィーン・フィル以外です。

ハイティンク、ロンドン交響楽団 2006年録音

 期待の全集です。コンパクトに研ぎ澄まされた演奏を予想して聴き始めました。今、ティーレマン以外で最も期待できる巨匠の演奏です。そういう意味で、ティーレマンのチクルスを聴く上で、リファレンス的に聴いていくつもりです。
 まず、感じたのは精緻でコンパクトなアンサンブル。アクセントをきっちり明確にした上で、軽みを感じさせる無理のない表現。それらが最も明確に感じられるのが第2楽章の緩徐楽章を少し速めに演奏しているところ、贅肉のない美しい響きです。第4楽章も力みがなく、インテンポで押し通しながら、それでいて躍動感にあふれる、まことに見事な演奏です。
 聴き終えて、この交響曲自体がまるで、オペラの序曲だったような印象に捉われました。この後に続く8つの交響曲の序曲です。もっとも、ハイティンクがそのように意識したわけではないでしょう。この全集の最初のCDに第1番が収録されているわけではありませんからね。単なるsaraiの思いです。

ヴァント、ミュンヘン・フィル 1994年録音

 ヴァントは全集を北ドイツ放送交響楽団と録音していますが、今回は第1番だけ、ミュンヘン・フィルを指揮したCDを聴きます。この時期、ミュンヘン・フィルはチェリビダッケに磨き上げられて、美しい響きのオーケストラでした。そのミュンヘン・フィルをヴァントが指揮した唯一のベートーヴェンがこの第1番です。8枚のCDからなるミュンヘン・フィルBOXに含まれています。このブルックナーを中心とした素晴らしい演奏からなるシリーズです(ブルックナーの第9番は素晴らしい演奏! ハイティンクのコンセルトヘボウ1981年盤と双璧)。
 このベートーヴェンの第1番はミュンヘン・フィルの美しい響きで堂々たる量感のある演奏でした。ベートーヴェン初期の第1番とは言え、中期の交響曲を思わせる巨匠ヴァントの表現でした。今更ながら、ほかの8曲もこのミュンヘン・フィルと録音していてくれたらなあとかなわぬ望みを抱いてしまいます。

ワルター、コロンビア交響楽団 1959年録音

 子供の頃、ベートーヴェンと言えばこのワルターを聴いていました。そういう意味では、いつも安心して聴ける原点のような演奏です。ステレオ録音が始まった時期のものですが、今聴いても素晴らしい響きがするのに感心します。
 この第1番は、柔らかい響きでゆったりと安定した、気品に満ちた演奏です。それでいて、重量感もあります。ちょっともたつくような部分もありますが、全体としては天国的な雰囲気に満ちた名演奏です。

クーベリック、ロンドン交響楽団 1974年録音

 クーベリックの全集はすべて異なるオーケストラを振り分けるものですが、この第1番はロンドン交響楽団。
 みずみずしく爽やかでロマンあふれる素晴らしい演奏。色彩感にも満ちた輝かしい演奏です。
 第1楽章の躍動感あふれる演奏に驚かされます。第4楽章は溌剌と精気に満ちた勢いのある演奏で息もつけません。

トスカニーニ、NBC交響楽団 1951年録音 モノラル

 トスカニーニと言えば、昔から、メンデルスゾーンの交響曲第4番「イタリア」の切れ味鋭い演奏が大好きでした。ベートーヴェンはほとんど聴いていませんが、ちょうどいい機会なので、まとめて聴いてみることにします。
 この第1番は実に歯切れの良い見事な演奏。実に魅力的に感じる演奏。アインザッツもピタッ、ピタッと決まり、爽快この上ありません。メロディーの節回しも見事で、まるでオペラのようです。こんな演奏は聴いたことがありません。第1楽章の躍動感あふれる演奏から一転して第2楽章の緩徐楽章で見事に歌わせるところは凄いとしか言いようがありません。第3楽章のひきしまった演奏は最高。第4楽章の完璧なアンサンブル、これも凄いとしか表現できません。
 恐ろしいくらい、凄い演奏です。音質もモノラルとは言え、上々です。

コンヴィチュニー、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 1960年録音

 生粋のドイツ人のベートーヴェン。古きドイツの伝統あるオーケストラ。これもステレオ初期の録音ですが、とてもよい音質です。コンヴィチュニーと言えば、今や、オペラの演出家の息子のペーターが有名かもしれません。
 この演奏はコンヴィチュニー59歳のときですから、全盛期と言ってもいいのでしょうが、彼はこの2年後、若くして亡くなります。この全集は彼の残した偉大な遺産となってしまいました。
 この第1番は何と言っても、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の響きの素晴らしいことです。その上で、コンヴィチュニーの折り目正しいと言ってもいいほど、きっちりした、ベートーヴェンらしいベートーヴェン。第2楽章のインテンポでの実に坦々とした表現がいかにもこの指揮者らしく、最高です! 全体に自然で無理がありません・・・内容の咀嚼はあくまでも聴き手に委ねられています。

ここからはウィーン・フィルの演奏に移ります。録音年の順に聴いていきます。

フルトヴェングラー 1952年録音 モノラル

 EMIの新リマスター盤です。意外に実に端正な演奏で最後まで押し通します。ウィーン・フィルの柔らかく美しい響きに満ちた演奏です。これが正統的なベートーヴェン演奏の規範に思えます。

シュミット・イッセルシュテット 1968年録音

 スケール感もあり、自然な表現ですが、何と言ってもウィーン・フィルの美音が綺麗に捉えられている録音です。良い意味で過不足何もなしと言うところです。ウィーン・フィルのベートーヴェンを聴くのには最高の1枚。

ベーム 1972年録音

 きっちりと厳格に隅々まで神経の行き届いたコントロールの利いた演奏。一方、おおらかさに欠け、面白味もうすく思えます。ウィーン・フィルらしさと言えば、シュミット・イッセルシュテットの方に軍配を上げます。

バーンスタイン 1978年録音

 後半の2楽章はきびきびとした躍動感のある演奏で素晴らしいものです。それだけに前半の2楽章のテンポの遅さとそれに伴う、悪く言えば、弛緩した演奏が残念。少なくともバーンスタインはテンポの速いリズミックな演奏スタイルが向いているように思われます。ゆったりしたテンポでも歌っているようには感じられればいいのですが、決して、そうではありません。

アバド 1988年録音

 精気に満ちた溌剌とした最高の演奏。アクセントの利いた歯切れの良い演奏です。演奏スタイルはトスカニーニに通じるところもあるが、ウィーン・フィルの優美で気品のある響きを活かした古典的なスタイルでもある。もっとも、ご本人はフルトヴェングラーの演奏を理想と考えているようですが・・・。

ラトル 2002年録音

 アバドよりもさらに切れ味鋭い現代的な演奏。溌剌として、思わず聴き惚れてしまう名演。ラトルという人はこのところ、実演に接する機会も多く、底知れぬ音楽性を感じています。saraiの評価がうなぎのぼりという感じです。この演奏もノリノリの演奏です。それにしても、このラトルの現代的な指揮に対応したウィーン・フィルの響きの美しいことには舌を巻きます。

ティーレマン 2008年録音

 もちろん、これを聴くのが目的! これを最後に聴きます。
 第1楽章は、ともかく勢いがあると感じます。ゆったりとしていながら、推進力があります。フルトヴェングラーの強烈な推進力とはまた質が異なりますが、この推進力はフルトヴェングラー以来とも思えます。スケールの大きさな破格の演奏です。重量感があり、それでいて、もたつきはありません。
 第2楽章は、美しくメリハリの利いた、とてつもない演奏。こんな素晴らしい演奏は誰も出来なかったと思います。演奏に溜めがあるのもたまりません。
 第3楽章は、凄まじい推進力。それでいて、美しい響き。これ以上、何が望めるかという感じです。
 第4楽章は、軽やかな「疾駆」。どんどん先に走っていく姿の美しさがあります。
 全体として、もうこれは最高!としか言いようがありません。この第1番を聴くだけでも、今回のベートーヴェン・チクルスに行く意味があるとさえ思わせる快演です。

これで予定したCDはすべて聴き終えました。13の演奏自体、絞ったものですから、どれもレベルの高い素晴らしいものです。通常の聴き比べのようにベストCDを選ぶものではありません。ともあれ、ティーレマンは一聴の価値があります。あとはトスカニーニは必聴。ハイティンク、クーベリック、コンヴィチュニー、シュミット・イッセルシュテット、アバド、ラトルも聴いておきたいものです。

肝心のティーレマンのベートーヴェン・チクルスの聴きどころ。

 1.推進力のある演奏に身を委ねるだけで十分かもしれません。
 2.第2楽章は心を集中して聴くべき価値がある筈です。CDとはまた違った即興性のある演奏が聴けるでしょう。
 3.この日はまだ後に第2番と第3番が控えているので、この第1番で消耗し過ぎることに要注意です。

明日は第2番を聴きます。



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首都圏の様々なジャンルのクラシックコンサート、オペラの感動をレポートします。在京オケ・海外オケ、室内楽、ピアノ、古楽、声楽、オペラ。バロックから現代まで、幅広く、深く、クラシック音楽の真髄を堪能します。
たまには、旅ブログも書きます。

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07/08 18:59 sarai

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07/08 15:53 じじい@

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久々のコメント、ありがとうございます。
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