ファビオ・ルイージ、渾身のR・シュトラウス:読売日本交響楽団@みなとみらいホール 2017.8.25
前半のR.シュトラウスの交響詩「ドン・ファン」とハイドンの交響曲第82番「熊」もよかったのですが、やはり、圧巻だったのは、後半のR.シュトラウスの交響詩「英雄の生涯」です。冒頭の低弦の分厚い響きの英雄のテーマから、ぐっと惹きつけられます。そこにヴァイオリン群がのっかってくるあたりの雄々しい響きには身震いするほどです。読響の弦のアンサンブルも素晴らしいのですが、ルイージのまとめかたも見事です。こういうのを聴いていると、やはり、ルイージはメトロポリタン歌劇場でオペラを振っているよりも、シュターツカペレ・ドレスデンでドイツの後期ロマン派の作品を振っていたほうがよかったのにと思われてなりません。もっとも今、シュターツカペレ・ドレスデンはティーレマンが掌握しているので、もう出る幕はありませんね。さて、今日の「英雄の生涯」ですが、抒情的なパートの演奏もパーフェクト。しっとりと聴かせてくれます。特にフィナーレは珍しく初稿での演奏だったこともあり、静かに消え入るような感じでしめくくられましたが、その見事なこと、素晴らしいです。この作品はR.シュトラウスの比較的、早い頃に作曲されたものですが、まるで晩年を見据えたような雰囲気すら漂っています。ルイージ、読響ともに会心の出来だったのではないでしょうか。saraiもこの作品は、ハイティンク指揮シカゴ交響楽団、ティーレマン指揮シュターツカペレ・ドレスデンの超ど級の演奏を聴いていますが、派手さを除けば、内容的に納得できる高レベルの演奏で非常に満足しました。付け加えておくと、ルイージの指揮はまるでR.シュトラウスの楽劇を聴いているようにも思える感じです。交響詩「英雄の生涯」の筋書きを忘れて聴くと、もう一つの《ばらの騎士》でも聴いているようで楽しいこと、この上なしでした。
今日のプログラムは以下です。
指揮:ファビオ・ルイージ
管弦楽:読売日本交響楽団 長原 幸太(コンサートマスター)
R.シュトラウス:交響詩「ドン・ファン」
ハイドン:交響曲第82番「熊」
《休憩》
R.シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」
最後に予習について、まとめておきます。
R.シュトラウスの交響詩「ドン・ファン」は以前、ヤンソンス指揮バイエルン放送交響楽団のコンサートの折にまとめて聴きました。以下はそのときの引用です。
軸となったのはフルトヴェングラー指揮のものです。
フルトヴェングラー指揮/ベルリン・フィル(1942年2月17日、ライヴ録音)
フルトヴェングラー指揮/ベルリン・フィル(1947年9月16日、放送用録音)
フルトヴェングラー指揮/ベルリン・フィル(1951年3月1日、ローマでのライヴ録音 )
フルトヴェングラー指揮/ウィーン・フィル(1953年8月30日、ザルツブルグ音楽祭でのライヴ録音)
フルトヴェングラー指揮/ウィーン・フィル(1954年3月、スタジオ録音)
フルトヴェングラー指揮/ベルリン・フィル(1954年4月27日、ティタニア・パラストでのライヴ録音 )
クレメンス・クラウス指揮/ウィーン・フィル(1950年6月録音、スタジオ録音)
カラヤン指揮/ウィーン・フィル(1960年、スタジオ録音)
カラヤン指揮/ベルリン・フィル(1972年、スタジオ録音)。カラヤンはベルリン・フィルと1982年に再録音。これは以前聴いたのでパス。
フリッツ・ライナー指揮/シカゴ交響楽団(1954年、スタジオ録音)。ステレオ録音。素晴らしい音質。
フリッツ・ライナー指揮/シカゴ交響楽団(1961年、スタジオ録音)。
クラウス・テンシュテット指揮/ロンドン・フィル(1986年、スタジオ録音)。
ゲオルク・ショルティ指揮/シカゴ交響楽団(1973年、スタジオ録音)。
ベルナルト・ハイティンク指揮/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(1973年、スタジオ録音)。
フルトヴェングラーは濃密とも思える後期ロマン派の香りに満ちた魅力的な演奏。ベルリン・フィルとの演奏では、1947年と1951年が切れ込み鋭く、ロマンティックさも兼ね備えた大変な演奏。ウィーン・フィルとの演奏では、1953年8月30日、ザルツブルグ音楽祭でのライヴ録音の緊張感、1954年3月のスタジオ録音の高音質で柔らかい表現のいずれも必聴ものです。
このフルトヴェングラーの演奏に並ぶのがクレメンス・クラウス指揮のウィーン・フィルです。シャープできびきびした表現はさすがにR.シュトラウスの盟友ならではの表現。
カラヤン、ライナー、テンシュテット、ショルティ、ハイティンクはいずれも音質のよいステレオで、それぞれの持ち味を出した名演揃い。
ともかく、この曲は聴き込むほど、その素晴らしさが身に沁み入ってきます。
《引用終わり》
まあ、ともかく、この曲はフルトヴェングラーに尽きるということですね。ということで、今回は聞き漏らしていた以下の演奏を聴きました。
フルトヴェングラー指揮/ウィーン・フィル(1950年9月25日、ストックホルムでのライヴ録音 )
演奏はフルトヴェングラーとしては並みの出来でしょうか。音質はあまりよくありません。しかし、これでフルトヴェングラーが指揮したベルリン・フィルとウィーン・フィルの録音はすべて聴いたことになります。あと残りはストックホルム・フィル(1942年)とヴェネズエラ交響楽団(1954年)を残すのみです。
ハイドンの交響曲第82番「熊」は以下を聴きました。
バーンスタイン指揮/ニューヨーク・フィル(1962年5月7日、セッション録音)
ジギズヴァルト・クイケン指揮/ラ・プティット・バンド(1988年、セッション録音)
モダーン・オーケストラの代表として、バーンスタイン指揮/ニューヨーク・フィルを聴きましたが、この頃のバーンスタインは実に颯爽として、かっこいい演奏です。録音も素晴らしいです。一方、オリジナル楽器派の代表として、ジギズヴァルト・クイケン指揮/ラ・プティット・バンドを聴きました。これまた素晴らしい演奏ですが、あまり、オリジナル楽器を感じさせないところも見事です。
R.シュトラウスの交響詩「英雄の生涯」は以前、ティーレマン指揮シュターツカペレ・ドレスデンのコンサートの折にまとめて聴きました。以下はそのときの引用です。
CDを聴いたのは以下の9つの演奏。
クレメンス・クラウス指揮/ウィーン・フィル(1952年録音、スタジオ録音)
フリッツ・ライナー指揮/シカゴ交響楽団(1954年、スタジオ録音)。ステレオ録音。素晴らしい音質。
カラヤン指揮/ベルリン・フィル(1959年、スタジオ録音)。カラヤンの戦後DGへの初録音。カラヤンは最後はベルリン・フィルと1985年にも録音。これは以前聴いたのでパス。
ベルナルト・ハイティンク指揮/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(1970年、スタジオ録音)。
ゲオルク・ショルティ指揮/ウィーン・フィル(1977年録音、スタジオ録音)
アンドレ・プレヴィン指揮/ウィーン・フィル(1988年録音、スタジオ録音)
クレスティアン・ティーレマン指揮/ウィーン・フィル(2002年録音、ライヴ録音)
サイモン・ラトル指揮/ベルリン・フィル(2005年録音、ライヴ録音)
ベルナルト・ハイティンク指揮/シカゴ交響楽団(2008年、ライヴ録音)。
いずれも選び抜いたCDなので、素晴らしい演奏ばかり。なおかつ、いずれも卓越したオーケストラばかりでその力量も凄い。また、コンサートマスターの独奏も見事。新鮮に響いたのはハイティンクの旧盤(1970年のコンセルトヘボウ管)とティーレマン。ハイティンクの旧盤でのヘルマン・クレバースのヴァイオリン独奏は素晴らしい。カラヤンは世評も高いが、できればウィーン・フィルで聴きたかったところです。ウィーン・フィルはクレメンス・クラウス以降、どの演奏も素晴らしいです。R・シュトラウスとウィーン・フィルの相性は最高。その頂点がティーレマンの指揮したCDです。
《引用終わり》
今回はそのとき聴かなかった演奏を聴くことにしましたが、以前、印象に残らなかったサイモン・ラトル指揮/ベルリン・フィルも再度聴き直しました。
サイモン・ラトル指揮/ベルリン・フィル(2005年録音、ライヴ録音)
ヤニック・ネゼ=セガン指揮/ロッテルダム・フィル(2010年6月録音、セッション録音)
ファビオ・ルイージ指揮シュターツカペレ・ドレスデン(2007年録音、セッション録音)
ラトル指揮/ベルリン・フィルは極めて素晴らしい演奏です。これだけ聴けば、決定盤にも思えるほどです。明快極まりない演奏で何の不足もありません。ラトルをまた見直しました。ハイティンク、ティーレマンの演奏にも並び立つ演奏です。セガン指揮/ロッテルダム・フィルもよかったのですが、録音がもう一つだったのが残念です。ルイージ指揮シュターツカペレ・ドレスデンは素晴らしいオーケストラの響きを前面に出した演奏で、ルイージの指揮も見事です。
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