ティーレマン+ウィーン・フィルのベートーヴェン交響曲チクルスへの助走:交響曲第4番
なお、予習に向けての経緯はここ。
交響曲第1番についてはここ。
交響曲第2番についてはここ。
交響曲第3番《英雄》についてはここ。
交響曲第4番についてはここ。
交響曲第5番《運命》については1回目はここ、2回目はここ、3回目はここ。
交響曲第6番《田園》については1回目をここ、2回目をここ、3回目をここ。
交響曲第7番については1回目をここ、2回目をここ、3回目をここ、4回目をここ、5回目をここ、6回目をここ。
交響曲第8番については1回目をここ、2回目をここ、3回目をここ。
交響曲第9番については1回目をここ、2回目をここ、3回目をここ、4回目をここに書きました。
(全予習が完了したので、全予習へのリンクを上記に示します。参考にしてくださいね。)
今回は交響曲第4番変ロ長調Op.60について聴いていきます。
交響曲第4番はベートーヴェンが1807年までに完成しました。交響曲第3番《英雄》が1804年完成ですから、3年後の完成で順調なペースです。ただ、記念碑的な作品の交響曲第3番《英雄》とあまりにも有名な交響曲第5番《運命》の間にはさまれた地味な存在というのが交響曲第4番の立ち位置です。実際、かのシューマンが「2人の北欧神話の巨人(第3番《英雄》と交響曲第5番《運命》)の間にはさまれたギリシアの乙女」と例えたそうです。
しかし、今や、その評価は大きく変わってきていると思います。今回、聴いたCDでも巨匠たちは第3番《英雄》と交響曲第5番《運命》とも引けをとらないスケールの演奏で、この作品の偉大さを感じさせてくれました。しかも巨匠たちの個性あふれる名演揃いでもありました。
以下、今回、CDを聴いた順に感想を書いていきます。計15の演奏を聴きました。
まず、ウィーン・フィル以外です。
トスカニーニ、NBC交響楽団 1951年録音 モノラル
これまで、トスカニーニの演奏は予想以上の出来栄えでした。この第4番も大変な好演です。
第1楽章はやはりというか、導入部に続いて、主部は実に小気味いいテンポの演奏です。しかも、決して拙速ではなく、音楽の流れが実にいいんです。まさにばしっと決まっている感じの演奏です。
第2楽章は一転して、落ち着いた演奏。
第4楽章は、勢いがあって、とても切れがいい演奏です。
ワルター、コロンビア交響楽団 1958年録音
ワルターらしい、柔らかく、流麗な演奏です。
第1楽章、気品と迫力をあわせ持つ見事な演奏です。コロンビア交響楽団の出来も上々です。
第2楽章、ふくよかで気品にあふれた天国的とも言える素晴らしい演奏です。
第3楽章、慌てず騒がず、これまた気品のある演奏。
第4楽章、流麗な美しい演奏です。典雅と言っていいかもしれません。
コンヴィチュニー、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 1960~61年録音
この曲でもライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の響きは際立って素晴らしいものでした。そして、ベートーヴェンをこんなに堪能させてくれる演奏って、凄いとしか言いようがありません。大変な名演です。
第1楽章、導入部から、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の響きに魅了されます。弦楽の響きは目が覚めるような美しさ。美しいだけでなく、どっしりと重心が低く、安定感があります。コンヴィチュニーはこのオーケストラの響きを活かして、ゆったりと堂々としたテンポで指揮しています。実に聴き応えのある演奏です。
第2楽章、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の美しい響きに耳を傾けるのみ・・・それ以上何が必要でしょう。
第3楽章、分厚い響きに魅了されます。無理のない自然な演奏が耳に心地よく感じられます。
第4楽章、ほぼ、インテンポで整然として、重量感にあふれる演奏です。
ムラヴィンスキー、レニングラード・フィル 1973年録音
ムラヴィンスキーは全集盤はありませんが、この1曲だけは聴いておきます。このCDはレニングラード・フィル大ホールでの録音で、その1か月後の来日公演のライブ録音CDもあります。公演を聴かれたかたもいらっしゃるでしょうが、大変な力演です。しかし、CDはレニングラードでの録音のほうが鮮明に感じたので、こちらを聴きます。
第1楽章、主部に入ると切れがよく、怒涛のような勢いのある演奏。一糸乱れぬアンサンブルに舌を巻きます。
第2楽章、潤いのある美しい響きで奏でられるベートーヴェンの世界。特に弦楽セクションの響きが見事です。
第3楽章、きびきびとして、それでいて、重量感のある演奏です。
第4楽章、歯切れの良さと重量感が同居しているアンサンブルの素晴らしさに感銘を受けます。弦楽セクションの伸びのよい響きは特筆に価します。
クーベリック、イスラエル・フィル 1975年録音
瑞々しい感性のクーベリックの演奏に大満足です。第3番の演奏の不調がうそのようです。
それにイスラエル・フィルとの演奏は初めて聴きますが、なかなかの相性の良さ。これがバイエルン放送交響楽団との演奏だと言われれば、信じてしまうかもしれません。クーベリックの本拠地のミュンヘン・ヘラクレスザールでの録音です。
第1楽章、雰囲気たっぷりの導入部。非常に遅めのテンポです。一転して活力みなぎる主部。ライブかと思うような熱い演奏が展開されます。
第2楽章、爽やかな抒情に彩られた美しい演奏です。
第3楽章、これまた、爽やかな情緒に満ちた、懐かしさを感じる演奏です。
第4楽章、トスカニーニを思わせる、沸き立つような、熱情あふれる演奏です。
クーベリック、バイエルン放送交響楽団 1979年録音
イスラエル・フィルとの演奏がとても素晴らしかったので、手兵であるバイエルン放送交響楽団とのライブ録音も聴いてみることにしました。これもイスラエル・フィルとの演奏と同じく、ミュンヘン・ヘラクレスザールでの録音です。
第1楽章、ピーンと張りつめた緊張感の漂う導入部。主部はゆったりとした堂々たるテンポながら、清々しい響きのオーソドックスなスタイルの演奏です。
第2楽章、たっぷりとした響きの演奏で始まります。クラリネットソロのあたりの寂寥感から、連綿たる思いの演奏が続き、じっと聴き入ってしまいます。深く、しみじみとした演奏です。
第3楽章、きびきびとメリハリのある、とてもよい演奏です。
第4楽章、重厚な響きの隙のない演奏です。
ハイティンク、ロンドン交響楽団 2006年録音
第1楽章、じっくりと抑えた導入部から、爆発的な主部に突入。活発な弦楽合奏が魅力です。精妙なリズムよりも力強いタッチを優先させた独特のスタイル。骨太の演奏で、これは意外に感じます。壮大なスケール感は最初から放棄して、コンパクトな古典的スタイルを打ち出した演奏と言えます。終盤の盛り上がりの凄さは素晴らしいです。
第2楽章、この緩徐楽章も実に骨太スタイル。それでも、次第に抒情感を増していきます。特に木管は侘しげに演奏されます。しかし、基調はあくまでも力強いタッチ。エネルギー感が底流にあります。力強さと侘しさの対比が表現された演奏です。
第3楽章、見事なアンサンブルの演奏を聴かせてくれます。
第4楽章、この曲の躍動感がよく表出された演奏です。
ここまでは、録音年の順に聴いてきました。ここであえて温存していたフルトヴェングラーの戦時中の録音を聴いてみます。
フルトヴェングラー 1943年録音 モノラル
これも、交響曲第3番と同様に、ベルリンに進駐したソ連軍がベルリンの放送局から持ち帰った放送用テープからメロディアがリマスターしたCDで聴きます。これも素晴らしい音質です。そして、それ以上に素晴らしい演奏。交響曲第3番のウラニア盤の演奏に比肩するか、あるいはそれを超えるような超ド級の演奏です。
第1楽章、導入部から主部に入るところの凄まじさが凄い! 聴いているこちらが身震いします。この迫力たるや、何でしょう。この高揚状態が続き、金縛りにあったようになってしまいます。そして、このときのベルリン・フィルのアンサンブルも素晴らしいものです。戦時下において、この実力は何でしょう。いや、戦時下という限界状況故の演奏なんでしょうか。これはまさに神が乗り移ったような恐ろしい演奏です。
第2楽章、巨大で美しい山を仰ぎ見るような神々しい演奏。ベルリン・フィルの輝かしい響きといったら表現できないほどです。
第3楽章、雄大でスケールの大きな演奏です。
第4楽章、すべてを燃やし尽くすような激しい演奏。素晴らし過ぎて、もう、絶句です。
ここからはウィーン・フィルの演奏に移ります。これも録音年の順に聴いていきます。
フルトヴェングラー 1952年録音 モノラル
EMIの新リマスター盤です。凄すぎる1943年の演奏の後にどんな演奏が聴けるでしょう。ウィーン・フィルのスタジオ録音ということでまた、違った面が聴けるでしょう。
第1楽章、導入部から既にウィーン・フィルらしい優美な響きにうっとりします。主部に入るところ、およそ、10年前のベルリン・フィルの緊迫した演奏と同じスタイルではありますが、あの激しい演奏とは違い、何と優しげな響きでしょう。心躍る思いはありませんが、癒しを感じさせてくれます。続く演奏もウィーン・フィルの流麗で滑らかな演奏に音楽の喜びを禁じ得ません。これも素晴らしい演奏です。
第2楽章、何と心穏やかな音楽が流れるのでしょう。ベートーヴェンもそして、フルトヴェングラーも心の平安を得たという感じです。この楽章はとてもベルリン・フィルとは比較にならない素晴らしさです。ウィーン・フィルの真骨頂と言えるでしょう。クラリネット・ソロも侘しさではなく、心の平安・穏やかさを感じます。ベートーヴェンの晩年の音楽に聴かれる心の平安がもう、ここにあります。まだ、諦観はここにはありませんけどね。最高の第2楽章の演奏です。
第3楽章、ウィーン・フィルの芳醇な響きで落ち着いた音楽が展開されます。
第4楽章、ゆったりとしたテンポでたっぷりした音楽が流れます。じわじわと白熱した演奏になっていきますが、我を忘れるというわけでなく、終盤もきっちりした演奏で締めくくります。
シュミット・イッセルシュテット 1968年録音
第1楽章、ウィーン・フィルの美しい響きを活かした、オーソドックスな自然な表現です。コンヴィチュニーが堪能させてくれたライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の重厚な響きに対して、ウィーン・フィルの柔らかい響きを最もよく楽しませてくれる演奏と言えます。
第2楽章、がっちりとした骨組みで、きっちりした演奏です。力強く優美です。
第3楽章、爽快でバランスのとれた、胸のすくような心地よい演奏です。
第4楽章、ゆったりとして、スケール壮大な音楽をウィーン・フィルの美しい響きでじっくりと聴かせてくれる、聴き応えのある演奏です。
ベーム 1972年録音
第1楽章、力強く勢いのある主部。ウィーン・フィルがドイツのオーケストラに変身したかの感があります。ベームのベートーヴェンでは、これまで聴いてきた4曲では最高の出来です。素晴らしい迫力と気魄に満ちています。
第2楽章、分厚い響きでシンフォニックな演奏。こんなにどっしりと響いてくる演奏は聴いたことがありません。
第3楽章、この楽章も重心の低い重量感のある響き。ここで思い出しました。確か1975年のベームとウィーン・フィルの来日公演。FM放送で聴いて、当時感銘を受けたのと同じ響きです。これがベームによるウィーン・フィルの音なんですね。
第4楽章、凄い迫力でぐんぐん迫ってきます。どっしりと落ち着いて、着実な歩み。武骨とも思える表現ですが、ウィーン・フィルの優美な響きはそれでも美しい。これがベームのベートーヴェンかと今更ながら。唸ります。素晴らしい演奏でした。
バーンスタイン 1978年録音
第1楽章、抑えた導入部、そして、躍動する主部。精気みなぎるバーンスタインの指揮です。この演奏は映像版もありますが、映像を見なくても、バーンスタインの溌剌とした指揮が目に見えるようです。この曲をニューヨーク・フィル時代から得意にしていたバーンスタインならでは演奏です。バーンスタイン・ファンにはたまらない演奏でもあります。素晴らしい!!
第2楽章、高揚した第1楽章から一転して、祈りを捧げるかのような静謐な音楽です。
第3楽章、意外に落ち着いた表現。第4楽章での爆発に備えているかのようです。
第4楽章、気力充実の冒頭、そして、流れるようにどんどん前進していきます。熱過ぎる演奏にぐいぐい引き込まれていきます。そして、感動のフィナーレ。
これはバーンスタインとウィーン・フィルのベートーヴェン・チクルスの中でもピカイチの金字塔的演奏です。
アバド 1988年録音
第1楽章、アバドらしくキレのある、美しくまとまりのある演奏。ちょっと優等生らしく、型にはまった感じもしますが、それでもこの演奏は現代のスタンダードと言えるかもしれません。抵抗なく、とても聴きやすい演奏です。ウィーン・フィルの伸びやかで流麗な響きも素晴らしいです。終盤の盛り上がりも秀逸です。
第2楽章、思いっきり、耽美的な演奏。これはこれで素晴らしいです。すっかりと角の取れて、流麗で美し過ぎる音楽です。アバドの指揮に応えたウィーン・フィルも見事。思わず、うっとりと聴いてしまいました。
第3楽章、古典的造形美に満ちた見事な演奏です。この楽章の演奏ではトップクラスの素晴らしさです。
第4楽章、実に流れるように美しい音楽が進んでいきます。一点の曇りもなく、一切の停滞もありません。見事としかいいようのない演奏です。
全体として実に爽やかな演奏で魅了されてしまいました。これがベートーヴェンでなく、ロマン派の作曲家の作品であれば、これ以上の演奏は望めないと思うほどです。だけれども、ベートーヴェンの精神世界の深い内面を描き切ったかと言えば、それは否。しかし、そういう理屈を吹き飛ばしてしまうような快演で、きっとアバドファンにはたまらない演奏でしょうね。
ラトル 2002年録音
第1楽章、速めのテンポでアクセントをきっちりとつけて、きびきびした演奏。だが、意外に普通の演奏。もっと面白いオリジナルな演奏になるかと期待していました。それでも、聴き進むと、やはりモダニズムを感じる演奏になっていきました。どこかしら、プロコフィエフの古典交響曲の響きも聴こえてくる感じです。
第2楽章、隈取のはっきりした美しい表現で、どこにも小細工のない堂々とした演奏です。ベートーヴェンの書いた譜面が如何に素晴らしいものであったかを実感させてくれるような演奏です。すなわち、譜面を素直にそのまま演奏すれば、美しい演奏になるという好例だと感じました。
第3楽章、大変テンポの速い颯爽とした演奏。一切の澱みはありません。。
第4楽章、まことに小気味よいテンポで切れ味鋭い演奏です。いやはや、こんな速いテンポでも完璧な演奏をするウィーン・フィルの恐るべき合奏力には脱帽です。ほかのオーケストラでは、こうはいきませんから、ラトルは心得たテンポの設定なんでしょう。
ティーレマン 2009年録音
もちろん、これを聴くのが目的! これを最後に聴きます。
第1楽章、ずいぶん遅めのテンポ。導入部は薄明の世界。主部にはいっても歩みはなかなか進みません。かといって、壮大なスケールの音楽でもありません。ピリッとしない不完全燃焼のまま、この楽章は終了。
第2楽章、この楽章もかなり遅めのテンポで、あまり緊張感もありません。あるいは抑えた表現なのかもしれませんが、終始、沈んだ表情での演奏になりました。
第3楽章、この楽章ものり切れません。一体、どうしたんでしょう。これがライブの難しいところです。
第4楽章、この楽章も幾分、遅めですが、ようやく目を覚ましたように活力が感じられるようになってきました。ティーレマンらしく、重量感もありますが、ウィーン・フィルの流麗さも目立ちます。
全体として、ライブゆえの、もうひとつのり切れない演奏に終始したようです。人間がやることだから、常にベストの演奏というのは難しいのかもしれません。
15枚のCDを聴き通して、水準の高い演奏ばかりなのは驚きです。
フルトヴェングラー1943年盤は破格のCDです。人間の力を超えた何かがあります。ウィーン・フィルとの演奏もそれと並ぶ名演です。この2枚のCDは頭抜けています。このほか、ウィーン・フィルの演奏は名演揃いです。個人的にはバーンスタインのCDは手放せない一枚です。ウィーン・フィル以外ではやはり、コンヴィチュニーは素晴らしいです。ムラヴィンスキーも見事。
肝心のティーレマンのベートーヴェン・チクルスの聴きどころです。
1.聴きどころ以前に、今回の演奏にはがっかり。今度の来日公演では一発逆転の演奏を望むのみです。
次は、いよいよ、超名曲、第5番です。3回に分けて、特集します。
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