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ティーレマン+ウィーン・フィルのベートーヴェン交響曲チクルスへの助走:交響曲第5番《運命》②フルトヴェングラー

ティーレマン+ウィーン・フィルのベートーヴェン交響曲チクルスの第2日(11月10日(日):交響曲第4番、第5番)のプログラムについて、聴いていきます。

なお、予習に向けての経緯はここ
交響曲第1番についてはここ
交響曲第2番についてはここ
交響曲第3番《英雄》についてはここ
交響曲第4番についてはここ
交響曲第5番《運命》については1回目はここ、2回目はここ、3回目はここ
交響曲第6番《田園》については1回目をここ、2回目をここ、3回目をここ
交響曲第7番については1回目をここ、2回目をここ、3回目をここ、4回目をここ、5回目をここ、6回目をここ
交響曲第8番については1回目をここ、2回目をここ、3回目をここ
交響曲第9番については1回目をここ、2回目をここ、3回目をここ、4回目をここに書きました。

(全予習が完了したので、全予習へのリンクを上記に示します。参考にしてくださいね。)


今回は交響曲第5番ハ短調《運命》Op.67の2回目、フルトヴェングラーのCDを聴いていきます。
フルトヴェングラーは20世紀を代表する大指揮者でしたが、特にベートーヴェンの交響曲については他の追随を許さない名演の数々を残してくれました。もちろん、実演を聴いていないので、本当の凄さは分かりようがありませんが、古いライブ録音を聴いただけでもその片鱗は味わうことができます。
フルトヴェングラーは1886年にベルリンで生まれ、1954年にバーデン・バーデンで68歳で世を去りました。saraiが物心がついた頃には、この世にいなかったし、クラシック音楽を聴き始めた頃には過去の巨匠の一人だったわけです。彼の生きた時代はまさに激動の時代、それもその中心地のベルリンを拠点にしていたわけで、ナチスの影響から免れることは不可能で、良かれ悪しかれ、彼の音楽活動はナチスの巻き起こした戦争の影の中にあります。
今回聴く交響曲第5番《運命》はフルトヴェングラーのレパートリーの根幹を成す作品の一つで、彼の音楽人生の節目節目での名演の録音が多数遺されています。分かっているだけで、1926年、40歳頃の録音から、1954年、最晩年の録音まで、12の録音があり、すべて、CD化されています。19年間にわたる音楽記録です。このうち、半分にあたる6つの録音を今回、聴いてみます。いずれも名演の誉れの高いものばかりです。

 1.1937年10月8日&11月3日、ベルリン・フィル、スタジオ録音、ベートーヴェンザールにおけるHMVによるSP録音(opus蔵)
 2.1943年6月27日、ベルリン・フィル、ライヴ録音、ベルリン(メロディア)
 3.1947年5月25日、ベルリン・フィル、ライヴ録音、ベルリンのティタニア・パラストでの戦後復帰コンサート1日目(AUDITE)
 4.1947年5月27日、ベルリン・フィル、ライヴ録音、ベルリンのソ連放送局のスタジオでの戦後復帰コンサート3日目(DG、旧盤と新盤)
 5.1954年2月28日&3月1日、ウィーン・フィル、スタジオ録音(EMI最新リマスター盤)
 6.1954年5月23日、ベルリン・フィル、ライヴ録音、ベルリンでの第5番の最後の録音(AUDITE)

 1.の録音の前年はニューヨーク・フィルの次期音楽監督にトスカニーニから指名されましたが、ナチスの妨害により破談しました。1.はナチス政権下のベルリンでの録音です。SP盤の交響曲第5番《運命》の代表的録音と言われていました。CDはSP盤からの復刻です。
 2.は戦争の真っ只中のベルリンでの録音です。明日も分からない限界状況の中での録音です。このマスターテープはベルリンに進出したソ連軍がベルリンの放送局からソ連に持ち帰ったもので、それをもとにロシアのメロディアがリマスターしたCDです。
 フルトヴェングラーは戦争末期の1945年にスイスに亡命を果たしますが、同年5月、ナチス協力者の疑いで連合国から演奏禁止処分を受けます。2年後の1947年に「非ナチ化」裁判の無罪判決をうけ、音楽界に復帰することになります。
 3.はその復帰コンサートの記念すべき記録です。会場に詰めかけたベルリンの市民、そして、ベルリン・フィルのメンバーはステージに登場したフルトヴェングラーに総立ちで歓呼の声を上げたそうです。
 4.は復帰コンサートの3日目です。世評では、これが交響曲第5番《運命》の最高の演奏だと言われています。
 5.はEMIのベートーヴェン交響曲全集の1枚で、ウィーン・フィルとのスタジオ録音です。最晩年の録音で4.のベルリン・フィルとの演奏と並んで、交響曲第5番《運命》の演奏の双璧だと評価されています。
 6.はその3カ月後、コンサートツアーから戻ったベルリンでの録音で、これがフルトヴェングラーの交響曲第5番《運命》の最後の録音となりました。6カ月後、フルトヴェングラーは肺炎で他界します。

では、録音年順に感想を書いていきます。

1.1937年10月8日&11月3日、ベルリン・フィル

 SP盤の復刻ですから、もちろん、シャーというSP盤のノイズはありますが、実に鮮明な音に驚きます。当時のベルリン・フィルはこんな素晴らしい響きだったのかと2重の驚きです。
 第1楽章、フルトヴェングラーらしい前進力のあるテンポ遅めの演奏ですが、響きの美しさにも感銘を受けます。絶妙のタメ、パウゼにため息が出るほどです。
 第2楽章、中庸的な表現。かなり抑えめの演奏でおとなしいイメージです。優しくやわらかな演奏とも言えます。
 第3楽章、幾分、ためらいがちのテンポで、“運命”を突き進むべきか否か、迷っているかの如き雰囲気を感じます。中間部では、ふっきれたようにテンポを上げます。その後、極端にテンポを落とし、音楽が今にも止まってしまうかと思うほどです。終楽章への周到な布石なんでしょう。そのまま、アタッカへ。
 第4楽章、決然とした輝かしい音楽が始まります。主題の繰り返しはありません。速めのテンポで展開部を通過します。再現部は提示部と同じようなテンポ。アッチェレランドして、終結部に進んでいく。堂々たるコーダで完結。しかし、忘我の境地に至るような演奏ではありません。

2.1943年6月27日、ベルリン・フィル
 
 第1楽章、異様な熱気に包まれています。1937年に比べると、テンポは遅めです。もう、どこがどうとは言えません。フルトヴェングラーの異常な集中力に聴く者のテンションも上がるだけです。凄い!!
 第2楽章、一転して、平穏な音楽が続きます。その平穏さも終盤に向けて、次第に集中力を高めていき、どんどんと高揚していきます。終わり近くのパウゼ、ルバートは思い切ったもので、こちらも息を呑んでしまいます。
 第3楽章、中間部で低弦が活躍するあたりから、ぐいぐいと推進力を増し、終盤でまた、思い切って、テンポを極端に落とします。1937年と同様に音楽が止まってしまうくらいです。高い緊張力を保ちながら、アタッカへ。
 第4楽章、とてもとても力強いテーマ! 満を持していたかのようです。そして、決然とした再現部。冒頭の提示部よりも勢いを増して進んでいきます。凄いアッチェレランド。熱過ぎる・・・実に白熱した演奏。コーダの圧倒的な突進はもう誰にも止められません。フィナーレが凄過ぎます! もう我を忘れて聴き入ってしまいます。

3.1947年5月25日、ベルリン・フィル

 これは音楽ですが、歴史的な記録でもあります。ここでは、純然たる音楽として、このCDを聴いていきましょう。
 第1楽章、確かに最初は大指揮者フルトヴェングラーといえども、力がはいり過ぎるのはやむを得ないところでしょう。次第に固さがほぐれ、終盤の盛り上がりは凄い! 激情が怒涛のようにあふれ出ます。
 第2楽章、起伏の大きいのは今まで通りですが、とても気合の乗った演奏です。求心力がとても高い演奏です。
 第3楽章、高らかに鳴り響く音楽が素晴らしいです。中間部の低弦の動きの激しさも尋常ではありません。
 第4楽章、感情が爆発したように高らかに歌い上げる主題。展開部の盛り上がりも素晴らしいものです。光り輝く再現部に圧倒される思いです。その高揚の果てに終結部に突入します。すべてを呑み尽くすような奔流のようなコーダ、これは最高のコーダです。心技一体でのみ成し得た奇跡でしょう。

4.1947年5月27日、ベルリン・フィル(DG、旧盤と新盤)

 この演奏のCDはDGから出ていますが、旧盤と新盤の2種類が入手可能です。一般には、新盤のTHE ORIGINALSが販売されています。これは"ORIGINAL・IMAGE・BIT・PROCESSING"という方式で新たにリマスターしたものですが、フルトヴェングラー好きの諸氏はこぞって、このCDは改悪だと声を合わせています。この声に押されたのか、DGはその後、旧盤(UCCG-3969という番号のCD)を併売するようになりました。以下の感想はこの旧盤に基づくものです。しかし、その後、新盤も聴いてみましたが、それほどの音質の差は感じられず、元々、同じ演奏なのだから、感銘の度合いも同じです。ただ、これから新たにこのCDを入手するかたはあえて、新盤に手を出す必要もないでしょう。もっとも新盤には旧盤には含まれない大フーガが含まれており、SHM-CDでも出ているので悩ましいですね。
 このCDは世評で最高と言われていますが、saraiには、それほどの確信はありません。saraiの最高の1枚は別のCDです。  
 第1楽章、荘重に運命の動機が始まります。堂々たる表現です。復帰後3日目で、最高の状態に戻ったようです。再現部も神々しく、終結部は高揚していきます。素晴らしい演奏です。
 第2楽章、これまた、堂々たる表現。ナイーブな表現も素晴らしいです。
 第3楽章、厚みがあり、切れの良い響きの重厚な演奏です。中間部は低弦に導かれて、激しい音楽が展開されます。
 第4楽章、巨大な音楽です。登りつめた山の頂を思わせます。凄まじい表現も感じます。フルトヴェングラーの気魄とベルリン・フィルの意気込みが一つになった火の玉のような演奏です。再現部でも、ゆるぎのない巨大な山塊。その山塊が怒涛のように動き出していくのですから、圧倒されるなんてものではありません。凄い勢いです。フィナーレは感動以外の何者でもありません。恐ろしいくらいの突進に我を忘れてしまいます。

5.1954年2月28日&3月1日、ウィーン・フィル

 これだけはウィーン・フィルとの演奏です。フルトヴェングラーはベルリン・フィルが手兵ですが、ウィーン・フィルとも強いつながりを持っています。ナチス政権下でウィーン・フィルの解体を阻止したのは誰あろう、このフルトヴェングラーだったんです。フルトヴェングラーがいなければ、現在のウィーン・フィルもどうなっていたでしょう。そして、saraiはフルトヴェングラーの演奏では、このウィーン・フィルの響きのほうがベルリン・フィルの響きよりも好きなんです。ただ、この録音はスタジオ録音なので、ライブ録音のようなフルトヴェングラーの熱気はないのが残念ではあります。
 第1楽章、これは端正で美しい演奏です。CDの音質も素晴らしいです。終盤のスケールの大きさも申し分、ありません。
 第2楽章、たっぷりとして、包容力の大きな音楽です。人間的な温もりさえ感じてしまいます。
 第3楽章、管と弦の一体となった響きの美しさ。造形の美しい演奏です。
 第4楽章、これはまた見事な開始です。この曲の量感、厳粛さを余すところなく表現しています。展開部もスケールが大きく、美しい響きで緊迫感のある演奏です。そして、再現部の何と輝かしいこと!! そんなにアッチェレランドを掛けることもなく、堂々と音楽は進行し、フィナーレも整然と終わります。

 フルトヴェングラーらしい“熱”には欠けるかもしれませんが、これは紛れもなく、巨匠が最晩年に残した超名演です。ウィーン・フィルとの組み合わせもとてもよかったと思います。

6.1954年5月23日、ベルリン・フィル

 いよいよ、フルトヴェングラー最後の交響曲第5番《運命》を聴きます。どうしても、聴き始まる前から、これが稀代の名指揮者フルトヴェングラーの死が近いときの《運命》だと思うと、感傷的になってしまいます。彼の全録音の最初はこの《運命》でした。この曲にかける彼の強い思いはこれまでの演奏で十分に伝わってきました。彼の人生もまさに闘争でした。この《運命》のように・・・。さあ、聴いてみましょう。

 第1楽章、始めから心に沁みる演奏です。彼の数奇な運命と重ね合わせると、涙なしには聴けません。手兵であるベルリン・フィルとの《運命》では、恐らく、最も音質のよい録音です。その録音を通して、フルトヴェングラーの代名詞とも言えるこの《運命》の表現がとてもよく聴き取ることができます。ベルリン・フィルの演奏も素晴らしいです。もっとも心に響いてきた第1楽章です。
 第2楽章、まるで鎮魂曲のように訴えかけてきます。心にジーンと沁みてくる響きです。そして、何よりもとても美しい。魂の歌です。
 第3楽章、金管で演奏される主題は悲しみに満ちています。この第3楽章がこんなに悲しく聴こえたことはありません。低弦で始まる中間部もいつものベルリン・フィルのような勢いのある凄みはなくて、整然と美しい響きです。まるでウィーン・フィルみたい。終盤はいつもの通り、極端にテンポを落としますが、今回は芝居っ気はまるでなくて、自然に歩みがゆるんだかのようです。
 第4楽章、最後の力を振り絞るように冒頭のテーマが始まります。熱い感動を覚えます。ベルリン・フィルの渾身の素晴らしい合奏力は一切の乱れもなく、パーフェクトな演奏です。フルトヴェングラーの最後の《運命》にふさわしい熱演です。そして、再現部、これがフルトヴェングラーの最後の最後に到達した地平です。もう、感動するしかないでしょう。ベルリン・フィルは気合のはいった美しい最高の演奏でした。フルトヴェングラーのすべての音楽の総決算とも言うべきこの演奏は計り知れない価値あるものでした。

これでフルトヴェングラーの6種の演奏を聴き終えました。言葉もありません。どれも素晴らしい演奏です。今回聴かなかった残りの6つの演奏も恐らく素晴らしい演奏でしょう。それでも、この中から一つだけ選べと無理難題を言われたら、涙なしでは聴けなかった最後の1954年のベルリン・フィルの演奏を躊躇なく、選びます。同年のウィーン・フィルとの演奏も忘れ難いのですが・・・。

次回はこの交響曲第5番《運命》の3回目、フルトヴェングラーを除く、ウィーン・フィルの歴代の名演を聴きます。遂にカルロス・クライバーも登場します。


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オペラ・美術が大好きでヨーロッパの旅にはまっています。音楽の聖地ウィーンが中心で、イタリア、フランス、ドイツも巡っています。国内外のオペラ・コンサートの体験もレポートします。

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