ティーレマン+ウィーン・フィルのベートーヴェン交響曲チクルスへの助走:交響曲第5番《運命》③ウィーン・フィル
なお、予習に向けての経緯はここ。
交響曲第1番についてはここ。
交響曲第2番についてはここ。
交響曲第3番《英雄》についてはここ。
交響曲第4番についてはここ。
交響曲第5番《運命》については1回目はここ、2回目はここ、3回目はここ。
交響曲第6番《田園》については1回目をここ、2回目をここ、3回目をここ。
交響曲第7番については1回目をここ、2回目をここ、3回目をここ、4回目をここ、5回目をここ、6回目をここ。
交響曲第8番については1回目をここ、2回目をここ、3回目をここ。
交響曲第9番については1回目をここ、2回目をここ、3回目をここ、4回目をここに書きました。
(全予習が完了したので、全予習へのリンクを上記に示します。参考にしてくださいね。)
今回は交響曲第5番ハ短調《運命》Op.67の3回目、ウィーン・フィルのCDを聴いていきます。
では、録音年順に感想を書いていきます。
フルトヴェングラー 1954年録音 モノラル
これは前回、既に書きました。
シュミット・イッセルシュテット 1968年録音
第1楽章、まことに素晴らしい響きの演奏に魅了されます。この時期のウィーン・フィルの響きは芳醇で魅力的なサウンドであったようです。こういう素晴らしいオーケストラには、シュミット・イッセルシュテットのようなオーソドックスで自然な指揮がぴったりです。変な小細工は何も必要ありませんね。
第2楽章、何という美しい響きでしょう。呆然として、聴き入るのみです。
第3楽章、実に見事な演奏です。音楽の調和がここにあります。ウィーン・フィルの美音を完全に活かせるテンポで指揮したシュミット・イッセルシュテットも立派です。
第4楽章、ここまで美しい音楽が可能なのでしょうか。濁りのまったくないピュアーな響きです。スケール感もあり、ピュアーでありながら厚みもあります。DECCAの録音技術も素晴らしいです。この演奏のようなオーケストラ演奏の極致とも言うべきものに対して、これ以上語るべき言葉はありません。
クライバー 1974年録音
クライバーは全集盤がないので、取り上げませんでしたが、この交響曲第5番《運命》については取り上げるのが当然でしょう。交響曲第4番も取り上げようか、迷いましたが、ウィーン・フィルの演奏ではなかったので、見送りました。これまで何度となく聴いてきた演奏ですが、再度、聴いてみましょう。
第1楽章、すっきりと切り込んでくる演奏です。自己の音楽に確信を持った決然とした演奏です。ある意味、ストレートな表現で妙なタメや澱みは一切ありません。そういう風に書くと、トスカニーニやムラヴィンスキー流の演奏を想起しますが、彼らのようにオーケストラが一丸になって突進するという演奏ではなく、高級スポーツカーで颯爽と疾駆していくというスマートなイメージのほうが強いと感じます。実際、あっという間に第1楽章は終わってしまう印象です。
第2楽章、これもすっきりした演奏です。大時代的なところは微塵もありません。ルバートはほとんど感じさせませんが、決して一本調子ではなく、丁寧な表情が作り込んであります。とても美しい音楽です。
第3楽章、金管と弦を融合しつつも響きを明確に鳴らし分けた、素晴らしい指揮さばきは見事の一言。中間部では、低弦を高速に走らせて、重量感よりも爽快感を打ち出した、稀有な表現です。この楽章もあっという間に通り過ぎていきます。
第4楽章、これはとても美しい山(第1主題)のようです。この山に向かって、第3楽章まで、爽快に走り続けてきたかのようです。そして、主題を繰り返すことで、この美しい山がこの交響曲の中核であることを宣言します。クライバーの明確なヴィジョンが分かる重要な繰り返しです。そして、演奏も壮大なものに登りつめていきます。再現部はますます輝かしいものになっていきます。
この演奏はクライバーの入念なプランに基づいて、美しく描き込まれた絵画のようなもので、とても見渡しのよいものです。ドロドロしたところはなく、美を追求した演奏になっています。フルトヴェングラーが演奏するものとはまったく別の曲に思えるほどです。いずれの演奏も見事であることは間違いありません。saraiはどちらの演奏も好みます。
ベーム 1977年録音
交響曲第5番《運命》と交響曲第6番《田園》は素晴らしい来日公演のライブ演奏が残されています。《運命》は全集盤ではなく、この来日公演盤を聴きます。全集盤は1970年の演奏でしたから、これはその7年後のベーム晩年の演奏になります。
第1楽章、予想と異なり、ウィーン・フィルの美しい響きを活かした自然な演奏になっています。もっと、重心の低い剛健な演奏を予想していました。リリックとも言っていい、ソフトなタッチです。これが老境の大家というものかと感心してしまいます。実に美しい音楽です。
第2楽章、ベームの指揮で優雅で美しい音楽が紡ぎ出されます。強奏の部分はスケールの雄大な演奏ですが、落ち着いた美しさがあくまでも基調にあります。ここ楽章の美しい演奏に酔ってしまいそうになりました。
第3楽章、この楽章も落ち着いた典雅な演奏です。とても魅力的な演奏です。
第4楽章、自然な盛り上がり、あくまでも落ち着いた表現です。その演奏も展開部に至り、遂に熱いほとばしりが流れ出ます。再現部は壮大な盛り上がりで、ベームの気魄が感じられます。コーダが終わると同時に沸き起こった日本の聴衆の盛大な声援にびっくりです。
これがベームかと耳を疑うような、しなやかな演奏でした。そして、これは畢生の名演です。
バーンスタイン 1977年録音
ベームの来日公演の半年後の演奏です。こちらはウィーン楽友協会でのライブ録音です。
第1楽章、美的で量感もあるバランスのとれた、しなやかな演奏です。ベームと同じ年の演奏だけあって、共通する響きも感じます。これが当時のウィーン・フィルの響きなんでしょう。両巨匠とも、強引にドライブすることもなく、ウィーン・フィルの響きを活かした自然な表現に徹しているところはさすがです。実に美しい演奏です。
第2楽章、これはよく歌っている演奏です。見事な音楽の運びに感銘します。
第3楽章、管と弦のバランスのとれた、まろやかな演奏です。甘美ささえも漂います。中間部で低弦が活躍するところは程よい突っ込み方に感じます。
第4楽章、これは実に壮大な音楽です。量感がたっぷり。そして、雄大なテーマが繰り返されます。展開部は落ち着いた盛り上がり。そして、再現部は輝かしく、美しく、気魄に満ちた熱い演奏です。フィナーレに向かって、ひた走っていきます。最後は圧巻のコーダ!!
これもまた、大変な名演です。
アバド 1987年録音
第1楽章、相変わらずアバドらしく綺麗な演奏ですが、切り込みや凄みとかは感じられません。テンポは中庸ですが、スケール感、熱さは感じられません。
第2楽章も第1楽章と印象は同じです。ただ、第2楽章の性格上、この楽章のほうが気持ちよく聴けます。
第3楽章、古典的造形美に満ちた見事な演奏です。この楽章の演奏ではトップクラスの素晴らしさです。
第4楽章、これは覇気に満ちた第1主題です。おおらかに歌い上げられます。繰り返しの第1主題も輝かしいものです。第3楽章まで抑えてきたものを一気に吐き出したかのようです。展開部も堂々たる演奏です。再現部もスケールの大きな、おおらかな演奏です。そのまま、輝かしく、曲が締めくくられます。重点を置いた第4楽章は素晴らしかっただけに、特に第1楽章の演奏が残念です。
ラトル 2002年録音
第1楽章、相変わらず、ラトルは速いテンポでの演奏です。軽快とも言える表現です。最初から、ラトルは重い命題など意に介していないかのようです。純粋な音楽表現だけを目標にしているようです。これはこれで納得がいきます。
第2楽章、この楽章も相当に速いテンポなのですが、第1楽章があまりにも速かったせいか、いったりと余裕のある表現に聴こえてしまうのは不思議です。美しい演奏ではあります。
第3楽章、これも相当に速いのですが、何故か中庸の速度に聴こえます。自然な演奏なのでしょう。中間部は超高速。ウィーン・フィルの低弦が見事にこの超高速テンポをこなしているのには脱帽です。
第4楽章、引き締まった主題、そして、繰り返し。どんどん加速していくかの如き演奏です。もちろん、この高速ではそれ以上の加速は不可能ですから、錯覚に過ぎません。再現部は輝きに満ちています。ウィーン・フィルはこの高速モードでも余裕で美しい響きを奏でます。終結部はもう凄いとしかいいようのないスピードで駆け抜けていきます。とても現代的な演奏です。そして、音楽性豊かでもあります。
ティーレマン 2010年録音
もちろん、これを聴くのが目的! これを最後に聴きます。
第1楽章、荘重な響きですが、いいテンポで音楽が進行していきます。とても気合のはいった演奏です。音楽の流れがスムーズで聴き応えがあります。魅力的な演奏です。終盤の迫力も満点です。ティーレマンらしく腰のすわった演奏でした。
第2楽章、実に美しく、甘美とも言えます。ディテールの美しい響きが最高です。音楽を聴く喜びを堪能させてくれる、素晴らしい演奏です。
第3楽章、幾分、早めのテンポで主題が歌われます。中間部は落ち着いたテンポ。この楽章は全体に抑えた表現に思われます。終盤にさしかかり、抑えた表現ながら、高い緊張感をはらみつつ、アタッカへ。
第4楽章、巨大なエネルギーの噴出。第3楽章で溜めていたエネルギーを一気に吐き出すかのようです。悠然と美しい響きでもあります。繰り返しの主題はさらに素晴らしく、今度はぐっとアクセルを踏み込んで、アッチェレランドします。再現部もスピードを上げて、迫力満点! 細かくルバートを行いながら、終結部に進んでいきます。終結部も速いテンポです。そして、フィナーレではテンポを落とし、悠然と締めくくります。いやはや、ティーレマンのやりたい放題、自在なルバートで即興的とも思える演奏です。saraiはすっかり、この演奏に乗せられてしまいました。感動させてくれる演奏です。
これで21枚のCDを聴き終わりました。どの演奏にも満足です。
特に、ウィーン・フィルの演奏は素晴らしい演奏ばかりでした。
肝心のティーレマンのベートーヴェン・チクルスの聴きどころです。
1.何と言っても第4楽章の自在なルバート。第3楽章からのつなぎも含めて、ドラマチックな表現をどう聴きとっていくかです。
2.第1楽章の冒頭のテンポ、どうはいるか、それによって、全体の動き・構成も変わってくるかもしれません。固唾を飲んで、最初のダダダダーンを待ちましょう。
3.第2楽章は間違いなく、甘美な演奏になるでしょう。これは耳を楽しませてくれることになります。心して、楽しみましょう。
これで2日目のプログラムまで完了です。3日目以降のプログラムについてはまた、後日、記事をアップします。
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