ティーレマン+ウィーン・フィルのベートーヴェン交響曲チクルスへの助走:交響曲第6番《田園》①ウィーン・フィル以外
なお、予習に向けての経緯はここ。
交響曲第1番についてはここ。
交響曲第2番についてはここ。
交響曲第3番《英雄》についてはここ。
交響曲第4番についてはここ。
交響曲第5番《運命》については1回目はここ、2回目はここ、3回目はここ。
交響曲第6番《田園》については1回目をここ、2回目をここ、3回目をここ。
交響曲第7番については1回目をここ、2回目をここ、3回目をここ、4回目をここ、5回目をここ、6回目をここ。
交響曲第8番については1回目をここ、2回目をここ、3回目をここ。
交響曲第9番については1回目をここ、2回目をここ、3回目をここ、4回目をここに書きました。
(全予習が完了したので、全予習へのリンクを上記に示します。参考にしてくださいね。)
今回は交響曲第6番ヘ長調《田園》Op.68について聴いていきます。
交響曲第6番《田園》はベートーヴェンが1807年に、交響曲第5番と並行して着手しましたが、実質的には、交響曲第5番をほぼ完成した1808年春から半年をかけて作曲し、1808年初秋に完成させました。前作の交響曲第5番《運命》は革新的とも言える運命の動機を中心に据えた形の作品でした。この交響曲第6番《田園》はまた違う形で革新的な作品です。各楽章に表題が付けられ、全体の形式も自由なものになっており、ロマン派への先駆けとも言えます。矢継ぎ早に革新的な作品を作り上げるベートーヴェンは驚くべきレベルの創作能力に達したと思われます。
初演はウィーンのアン・デア・ウィーン劇場で1808年に交響曲第5番、ピアノ協奏曲第4番と一緒に行われたというのは既に書いたとおりです。
saraiはこの一見、ベートーヴェンらしくない交響曲第6番《田園》を苦手としていました。なんだか、のんびりした曲に思えて、聴いていて、退屈するんです。でも、今回、まとめて、名演の数々を聴いて、その価値を理解できたように感じています。素晴らしい作品だし、巨匠たちも力のはいったアプローチをしていました。
その名演の数々を聴いていきます。今回から3回に分けて、ご紹介します。
・ウィーン・フィル以外(7枚)
・ウィーン・フィル(10枚)
1970年以前(4枚)、1970年以降(6枚)
計17枚聴きます。
今回はウィーン・フィル以外の7枚を聴きます。
以下、録音年順に感想を書いていきます。
ワルター、フィラデルフィア管弦楽団 1946年録音 モノラル
ワルターが得意にしていた曲目です。今回はワルター指揮のCDを3枚聴きますが、この演奏は最初の1938年録音のウィーン・フィルと最後の1958年録音のコロンビア交響楽団の中間に位置するものです。ニューヨーク・フィルとの全集盤に含まれる1枚ですが、何故か、この第6番だけはフィラデルフィア管弦楽団との組み合わせになっています。
第1楽章、ウィーン・フィルとの演奏に似た感じですが、録音がより新しいせいか、明快な響きがします。しっかりしたスタイルの演奏です。
第2楽章、しっかりとした響きの美しい演奏。テンポは遅くなく、中庸といったところ。ウィーン・フィルのようなたおやかさに欠けるのが残念なところです。
第3楽章、元気で賑やかな音楽。相変わらず、しっかりした響きが印象的。
第4楽章、テンポ速めで峻厳な表現はウィーン・フィルとの演奏と共通しています。
第5楽章、張りがあって、カンタービレのきいた演奏はトスカニーニを連想します。後年のコロンビア交響楽団のやわらかい響きとはかなり趣が違っていて面白く感じます。後半の盛り上がり、迫力はスケールも大きく、素晴らしいものです。
この演奏は今回初めて聴きましたが、どちらかと言えば、ウィーン・フィルとの演奏スタイルを踏襲しているように思われます。ワルターはこの時、70歳前後でまだまだ若かったんだと思います。ウィーン・フィルとの演奏をよりよい録音で聴きたいかたには推薦できます。コロンビア交響楽団との演奏は82歳前後で老境にはいった名人芸ともいうべきものです。
トスカニーニ、NBC交響楽団 1952年録音 モノラル
さすがに巨匠。トスカニーニは意外にも、こういう曲もうまく聴かせてくれます。
第1楽章、懐かしいもの、自然というものへの憧憬の念を呼び起こさせてくれます。聴いていると胸がいっぱいになってきます。この曲を聴いて、初めての経験です。それに、NBC交響楽団のアンサンブルのきっちりと決まっていることにも感銘を受けます。
第2楽章、なんとなく、この古めかしい演奏がこの曲にぴったりの雰囲気に思えてなりません。まるでヴィンテージものの音楽を聴いている感覚です。こういう音楽を聴いていると、贅沢な時間を過ごしている気持ちになります。
第3楽章、活気のある音楽ですが、あくまでも田舎の賑わい。それがいいんです。心穏やかな気分に浸れます。
第4楽章、音楽は爆発して高揚しますが、のんびりした気分には変わりありません。
第5楽章、ここへきて、音楽はたっぷりと歌われます。トスカニーニのカンタービレです。この曲の最高に素晴らしい部分がトスカニーニの最上の演奏で味わえます。実に見事な表現に大きな感銘を受けます。名匠の作り出した贅沢な逸品。
フルトヴェングラー、ベルリン・フィル 1954年5月録音 モノラル
フルトヴェングラーは第5番同様に、戦時中の演奏や戦後の復帰演奏会など多種の録音を残していますが、あえて、最後の録音を聴いてみます。素晴らしかった第5番と同じ演奏会での録音です。なお、ウィーン・フィルとの全集盤は次回、紹介します。
第1楽章、ゆったりと静かな開始に虚を突かれます。まるで何かを慈しむような感じを受けます。ロマンチックで癒しに満ちた音楽です。
第2楽章、これも抑えた美しい演奏。テンポは非常にゆっくりです。ここまで聴いて成程、同じ演奏会の第5番と双子のような演奏であると分かりました。いずれも感傷的とも言っていい、フルトヴェングラーらしくない演奏です。しかし、巨匠晩年の演奏は心に沁み入ってきます。ロマンチスト、フルトヴェングラーですね。
第3楽章、のんびりした朴訥な音楽です。フルトヴェングラーの平静な心情が表われています。
第4楽章、ここでは、大変迫力に満ちた演奏。爆発します。
第5楽章、第4楽章の爆発が収まり、牧歌の世界に戻ります。これまでよりも幾分、テンポを上げて、美しい旋律を歌い上げます。何という美しい演奏でしょう。終盤の盛り上がりはフルトヴェングラーらしい素晴らしいものです。曲想が大きくふくらみます。
ワルター、コロンビア交響楽団 1958年録音
子供の頃から親しんでいる名盤中の名盤。ワルターが残した最後の録音です。
第1楽章、気品のある柔らかな表現。ゆったりと心を預けて、耳を傾けます。得も言われぬ心地よい演奏です。
第2楽章、こういう気持ちはなんだろう。郷愁かも知れません。原初的な自然の中に抱かれたいという穏やかな感情です。そういう気持ちにぴったりの実に優しく温かい演奏です。
第3楽章、音楽の表情の彩りが見事。響きの美しさ、そして、メリハリ、どれをとっても素晴らしい。
第4楽章、ことさらに激しく煽り立てるわけでなく、節度のある表現が好ましい。
第5楽章、これで心が癒されないものはいないでしょう。永遠の平安の音楽です。
コンヴィチュニー、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 1959~60年録音
ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の響きもコンヴィチュニーのドイツ風音楽表現もこの曲にはもうひとつしっくりしませんね。。
第1楽章、豊かな響きの演奏。安らぎの音楽という感じには聴こえません。しっかりと立派な音楽ですが・・・どうもね。ドイツ的な生真面目な音楽という感じ。
第2楽章、実直な演奏。朴訥な雰囲気になりそうなものですが、どうも野暮な感じがしてしまい、もう一つ合わない感じです。演奏は実に美しいんですけどね。
第3楽章、このあたりは実に見事な演奏。メリハリのきいた堂々たる深い響きに圧倒されます。
第4楽章、緊迫感のある演奏。曲想に合っています。
第5楽章、どうも固い印象が拭いきれません。もう少し、柔らかみがほしいところです。残念ながら、また聴きたくなるような演奏ではありません。
クーベリック、パリ管弦楽団 1973年録音
今回組んだのはパリ管弦楽団。フランス系オーケストラの明るい色彩が意外に成功したと思います。
第1楽章、いかにもフランスのオーケストラらしい明るい響きです。ちょっと鳴らし過ぎの感じもありますが、よい雰囲気の演奏です。喜ばしげな音楽になっています。
第2楽章、実に爽やかで素晴らしい音楽が展開されていきます。音楽の喜びが身に沁みてきます。
第3楽章、これも爽やかな響きで見事な演奏です。
第4楽章、ドラマチックですが、全然おどろおどろしいところはなくて、実にピュアーな演奏で素晴らしい。
第5楽章、清々しい演奏でとても心地よいものです。抒情感が身に沁みてきます。こんなに後味のよい清涼な演奏も珍しいでしょう。これ以上、何も望むものがない名演です。
ハイティンク、ロンドン交響楽団 2005年録音
《運命》の演奏が思い切ったものだっただけに、どういう演奏になるか、不安でしたが、実に自然で美しい響きの見事な演奏でした。
第1楽章、さすがにハイティンクは破目を外すことはありませんでした。《運命》の演奏スタイルとは全く変えて、これこそ《田園》という演奏スタイル。美しい演奏を堪能させてもらいました。
第2楽章、かそけきリリシズムとでも表現しましょうか。とてもしみじみとした奥深い演奏です。節度ある表現でありながら、彩りにも満ちています。実に見事な演奏です。管と弦のバランスも見事です。
第3楽章、キレのよいアンサンブルで素晴らしい響き。ちょっと速めのテンポで引き締まった見事な演奏。
第4楽章、実に迫力のある疾風怒濤のような演奏。明快な隈取のある演奏です。
第5楽章、流麗でシンフォニック。理想的な演奏に思えます。ハイティンクが古典的な交響曲で体現する究極の姿を見る思いです。静かな感動に至りました。超名演です。
saraiが一番感銘を受けたのはハイティンク。続くはクーベリック。ワルターは別格として、コロンビア交響楽団の素晴らしさを思い出しました。トスカニーニ、フルトヴェングラーの両巨匠もさすがというところです。
次回はこの交響曲第6番《田園》のウィーン・フィルの演奏の前半、1970年までの録音です。
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