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耐えきれない優しさ「アッシジの聖フランチェスコ」:カンブルラン&読売日本交響楽団@サントリーホール 2017.11.26

素晴らしい体験でした。メシアンの知性と高貴さに満ちたオペラをシルヴァン・カンブルランが余すところなく描き尽してくれました。完全に理解したなどと言うと嘘になりますが、saraiの全知性と感性を総動員して、この長い、長いオペラに集中しました。第2幕の後半の《小鳥たちへの説教》ではいったん集中が切れて、ふらっとなりましたが、それ以外は全人格をかけて、このオペラに対峙して、大変大きな感銘を受けました。宗教的な素材ですが、その根幹をなす愛と慈しみの思いは人類の普遍的な観念でもあります。メシアンは神あるいはキリスト、聖フランチェスコを重ね合わせた上に、さらに自分自身を投影させています。このオペラはメシアンの宗教的告白であると同時に彼の人類愛の告白でもあります。それも飛びっきり、苦渋に満ちた叫びでもあります。人が他者にあふれんばかりの慈悲の心を持つということがどれほど大変なことなのか、そして、そうしなければならないという必然性までを訴求するものです。メシアンはそれを音楽の力を駆使して、見事に表現しました。その伝道者が指揮者のカンブルランです。総勢240名もの演奏者をまとめあげた力量は賞賛すべきものです。このオペラを鑑賞して、己を恥じない人間はいないと信じていますが、そんなことを言うことこそが不遜な態度なのかもしれません。メシアンが聖フランチェスコを通じて、訴えかけてきたのは他者への無限の愛ですが、それとともに無限の謙虚さも求めています。メシアンの没後25年だそうですが、メシアンが全身全霊を傾けて作り上げた、このオペラは彼が人類に残した遺言です。今の時代ほど、彼のメッセージを受け留めなくてはならない時はないでしょう。

音楽的には、カンブルランの見事な指揮はもちろん、読売日本交響楽団の最高のアンサンブル、新国立劇場合唱団の美しい合唱、さらに独唱者たちの健闘が光りました。聖フランチェスコ役のヴァンサン・ル・テクシエは役に没入するような熱い歌唱でした。声も素晴らしかったのですが、何と言っても表現力が圧倒的でした。彼は6年前に一度、パリ・オペラ座(ガルニエ)で聴いていますが、今日ほどの印象はありませんでした。天使役のエメーケ・バラートもピュアーで美しいソプラノ。sarai好みの声でした。それにきらきら光る瞳が魅惑的でした。他のテノール、バリトン、バスのいずれも素晴らしい歌唱でした。コンサート形式での上演でしたが、この難しい演目はかえって妙な演出はないほうがよかったかもしれません。オペラというよりもオラトリオみたいなものですからね。

今日のプログラムは以下です。

  指揮:シルヴァン・カンブルラン
  天使:エメーケ・バラート(ソプラノ)
  聖フランチェスコ:ヴァンサン・ル・テクシエ(バリトン)
  重い皮膚病を患う人:ペーター・ブロンダー(テノール)
  兄弟レオーネ:フィリップ・アディス(バリトン)
  兄弟マッセオ:エド・ライオン(テノール)
  兄弟エリア:ジャン=ノエル・ブリアン(テノール)
  兄弟ベルナルド:妻屋秀和(バス)
  兄弟シルヴェストロ:ジョン・ハオ(バス)
  兄弟ルフィーノ:畠山茂(バス)
  合唱:新国立劇場合唱団
     びわ湖ホール声楽アンサンブル
  管弦楽:読売日本交響楽団 長原 幸太(コンサートマスター)

  メシアン:歌劇「アッシジの聖フランチェスコ」(演奏会形式)

日本のオーケストラがコンサート形式でのオペラ上演に積極的なのは大歓迎です。来月はノット&東京交響楽団によるモーツァルト・オペラ・シリーズの《ドン・ジョヴァンニ》が楽しみです。また、メシアンの大作の上演も続き、来年1月には大野&都響の《トゥランガリーラ交響曲》が楽しみです。音楽の楽しみは尽きません。



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ジャンル : 音楽

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首都圏の様々なジャンルのクラシックコンサート、オペラの感動をレポートします。在京オケ・海外オケ、室内楽、ピアノ、古楽、声楽、オペラ。バロックから現代まで、幅広く、深く、クラシック音楽の真髄を堪能します。
たまには、旅ブログも書きます。

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08/04 21:31 G線上のアリア

じじいさん、コメントありがとうございます。saraiです。
思えば、もう10年前のコンサートです。
これがsaraiの聴いたハイティンク最高のコンサートでした。
その後、ザル

07/08 18:59 sarai

CDでしか聴いてはいません。
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ベーム、ケルテス、ショルティ、クーベリック、
クルト。ザンデルリング、ヴァント、ハイティンク
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07/08 15:53 じじい@

saraiです。
久々のコメント、ありがとうございます。
哀愁のヨーロッパ、懐かしく思い出してもらえたようで、記事の書き甲斐がありました。マイセンはやはりカップは高く

06/18 12:46 sarai

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06/18 08:33 五十棲郁子

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通りすがりさん

コメント、ありがとうございます。正直、もう2年ほど前のコンサートなので、詳細は覚えておらず、自分の文章を信じるしかないのですが、生演奏とテレビで

05/13 23:47 sarai
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