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燃え上がるヤナーチェク:ウィハン・カルテット@鶴見サルビアホール 2017.11.27

素晴らしいヤナーチェクでした。チェコの大作曲家ヤナーチェクが最晩年に書いた室内楽の最高傑作、弦楽四重奏曲 第2番「内緒の手紙」は後半に向けて、演奏が高潮していきました。第3楽章の美しい演奏に続いて、第4楽章は文字通り、燃え上がるような激しさと美しさに包まれていました。この作品が書かれたのは1928年ですが、音楽の雰囲気はまさに後期ロマン派の耽溺に満ちたものです。曲はヤナーチェクの38歳若い恋人への熱い気持ちが込められていて、到底、73歳という老人とは思えないものです。特に第4楽章は若い恋人への憧れとその成就の妄想が入り乱れて、美しくもあり、激しくもだえ苦しむところもあり、これがヤナーチェクの芸術の到達点であることを実感させられます。ウィハン・カルテットはチェコの歴史的なカルテットのボヘミア・カルテットの創立者ハヌス・ウィハンの名前を冠したカルテットです。このボヘミア・カルテットこそ、ヤナーチェクに2曲の弦楽四重奏曲の作曲を依頼した団体で、その結果生まれたのが、この第2番「内緒の手紙」とそれに先立つ5年前に書かれた第1番「クロイツェル・ソナタ」の2曲でした。したがって、ウィハン・カルテットには、今日演奏した、この曲への強い思いがあったに違いありません。第4楽章は彼ら4人の入神の技でした。フィナーレ近くでヴィオラが演奏した甘美なメロディーは若い恋人、カミラ・ストスロヴァーを象徴するものだそうです。ヴィオラ奏者の思い入れの強い演奏は心に残りました。
同時代の作曲家と言えば、マーラーですが、彼もアルマというミューズの力を得て、多くの名作を書きましたが、ヤナーチェクにもカミラというミューズがいたのは知りませんでした。オペラ《カーチャ・カヴァノヴァー》もタイトルロールのカーチャはカミラをイメージしていたそうです。確かにこの弦楽四重奏曲とオペラ《カーチャ・カヴァノヴァー》は共通性を感じるところがあります。
いや、とてもいい演奏を聴かせてもらいました。

前半のハイドンとモーツァルトもなかなかよい演奏でした。特にハイドンは明快で切れの良い演奏でした。ちょっとアタックが強いところが気になりましたが、そういうスタイルで弾いたんでしょう。ただし、今日は後半のヤナーチェクがすべてでした。ところで3年前にもこのホールでウィハン・カルテットを聴きましたが、そのときもハイドンは同じ曲でした。よほどお気に入りの曲なのかな。

今日のプログラムは以下です。

  弦楽四重奏:ウィハン・カルテット
   レオシュ・チェピツキー vn    ヤン・シュルマイスター vn
   ヤクブ・チェピツキー va   マチェイ・ステパネク vc

  ハイドン:弦楽四重奏曲 第43番 Op.54-1
  モーツァルト:弦楽四重奏曲 第15番 K.421

   《休憩》

  ヤナーチェク:弦楽四重奏曲 第2番「内緒の手紙」

   《アンコール》
    スメタナ:弦楽四重奏曲 第2番 ニ短調 より、第2楽章アレグロ・モデラート


最後に予習について触れておきます。
1曲目のハイドンの弦楽四重奏曲第43番は前回、力を入れて予習しました。

 エマーソン・カルテット(ハイドン・プロジェクト)
 エンジェルス・カルテット(全集盤)
 アマデウス四重奏団(旧盤、モノラル)

そのときの感想です。いずれも爽快な素晴らしい演奏。なかでもエマーソン・カルテットのすっきりとしたスマートな演奏は音質の良さも相俟って、心地よく聴けます。2枚組におさまったハイドンの弦楽四重奏曲はすべて快心の演奏です。
ということで、今回はそのエマーソン・カルテットを再度聴きました。実に明快でクリアーな素晴らしい演奏です。

2曲目のモーツァルトの弦楽四重奏曲 第15番 K.421は以下のCDで予習。

 ウィーン・コンツェルトハウス弦楽四重奏団 1952年録音
 アマデウス弦楽四重奏団(全集盤) 1966年録音
 エマーソン・カルテット 1991年録音

この曲でもエマーソン・カルテットは見事な演奏です。響きの素晴らしさはもちろん、ニ短調に似合った哀調の滲む演奏です。でも、本命はウィーン・コンツェルトハウス弦楽四重奏団の演奏ですね。最初の1小節を聴いただけで、その魅力に引き込まれます。あるべきものがあるべきところに収まっているという感じの演奏です。充足感に満たされます。一方、アマデウス弦楽四重奏団も無理のない自然であっさりした演奏で、これまた、モーツァルトの魅力がたっぷりです。この3枚はどれを聴いても満足できるでしょう。

肝心のヤナーチェクの弦楽四重奏曲 第2番「内緒の手紙」は以下のCDで予習。

 スメタナ弦楽四重奏団 1965年録音 LP
 パヴェル・ハース・カルテット 2006年録音
 エマーソン・カルテット 2008年録音

まずはスメタナ弦楽四重奏団、パヴェル・ハース・カルテットというチェコの新旧を代表する団体で聴きます。意外にいずれもお国ものという感じが強くありません。自然であったりした演奏です。演奏レベルは悪かろうはずがあるません。見事な演奏です。何も言うことはありません。意外だったのはエマーソン・カルテットの演奏です。チェコの団体よりもモラヴィアを感じさせる演奏です。チェコの団体に優るとも劣らない素晴らしい演奏です。録音の音質も最高です。ところで作曲家の名前を冠するヤナーチェク四重奏団のCDもありますが、モノラルで音質ももう一つ。ちょっと聴きましたが、それほどの演奏に思えなかったので、いずれ、そのうちに機会があれば、聴きましょう。



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