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ジョナサン・ノットが力量を示した《ドン・ジョヴァンニ》@ミューザ川崎シンフォニーホール 2017.12.10

モーツァルトのオペラのなかで今一つ、理解が難しいのがこの《ドン・ジョヴァンニ》です。今回の公演とそれに先立つ予習でようやく、分かりつつあるような感覚になってきました。ドン・ジョヴァンニの地獄落ちのシーンのデモーニッシュな音楽とモーツァルトらしい平明さを湛えた音楽のギャップをどう理解するかが難しさの根幹のような気がします。そのあたりがようやくすんなりと自然に聴けるようになってきました。また、フィガロでは赦しのテーマが根幹を成していますが、一方、この《ドン・ジョヴァンニ》では赦されないストーリーにはなってはいますが、ドンナ・エルヴィーラが意外に重要な役どころとして、赦そうという努力はしていることに気が付きました。赦そうとするが赦されない、その先にデモーニッシュな音楽展開があるというのが、フィガロから派生した、あるいは発展したオペラ、《ドン・ジョヴァンニ》ではないかというのが現在のsaraiの理解です。キーとなる役がドンナ・エルヴィーラであり、フィガロにおけるコンテッサ(伯爵夫人)に対応します。フィガロでは赦された伯爵でしたが、ドン・ジョヴァンニは赦されない。モーツァルトはフィガロでは素晴らしい赦しの音楽で感動を呼び起こしますが、このドン・ジョヴァンニでは、厳しい音楽でドン・ジョヴァンニを罰します。そこがデモーニッシュとなり、感動ではなく、深い奈落の底の厳しさで我々、聴衆(人間)を律します。人間の罪を赦すか、赦さないかで、こうも音楽の質が変わるのか・・・そこにモーツァルトの天才を見ました。saraiは赦しの音楽が好きですが、甘いばかりがよい訳ではないことも理解できます。モーツァルト自身もそのあたりで苦しみ抜いた上での音楽なのかもしれません。そして、《フィガロの結婚》と《ドン・ジョヴァンニ》をアウフヘーベンした先に登場するのがレクイエムというのは余りにも浅い理解でしょうか。

ということを今日の《ドン・ジョヴァンニ》を聴きながら、つらつら考えてしまいました。その発端は突然、代役で登場したドンナ・エルヴィーラ役のミヒャエラ・ゼーリンガーの歌唱が第1幕と第2幕でがらっと変わったからです。第1幕では、厳しい歌唱でドン・ジョヴァンニを責めつけます。第2楽章に入ると、歌唱がソフトで柔らかになり、響きが美しくなります。ドン・ジョヴァンニを慰撫するみたいな感じです。歌手本人の意図か、指揮者のジョナサン・ノットの指示かは分かりませんが、saraiとしては、ジョナサン・ノットの解釈であったということに1票です。ただ、それだけのことでこの《ドン・ジョヴァンニ》の構図が大きく変わります。まあ、いずれにせよ、昨年のコジ・ファン・トゥッテ同様、ジョナサン・ノットの指揮は見事でした。特にモーツァルトの平明な音楽をいきいきと透明に表現したのはさすがでした。もっともクルレンツィスのような超天才の表現には誰も及びませんが、それがすべてではないでしょうから、一般的には、とっても素晴らしいモーツァルトでした。

歌手の中では、これも代役として登場したドン・ジョヴァンニ役のマーク・ストーンの歌唱の素晴らしかったこと。とりわけ、甘い歌声が役にぴったりでした。ドン・ジョヴァンニのセレナードではうっとりと聴き入りました。そして、ほとんど感動の思いに至りました。また、ドンナ・アンナ役のローラ・エイキンの素晴らしい歌声にも感銘を覚えました。予習で聴いたエリーザベト・グリュンマーに優るとも劣らない感じと言ったら言い過ぎでしょうか。美しい声の響きが脳裏から離れません。近年では、ドンナ・アンナ役ではアンナ・ネトレプコが圧倒的に美しい歌唱で魅了してくれましたが、ローラ・エイキンはまた違ったタイプでスタンダードな歌唱です。そうそう、ザルツブルク音楽祭でもドン・オッターヴィオ役を歌っているアンドリュー・ステープルズはさすがの美声でした。これも文句なし。ミヒャエル・シャーデに準じるような歌手ですね。バロックものを歌わせたい感じです。レポレッロ役のシェンヤンも深い響きの歌唱を聴かせてくれました。

キャストは以下です。

  指揮&ハンマーフリューゲル:ジョナサン・ノット
  演出監修:原 純

  ドン・ジョヴァンニ:マーク・ストーン
  騎士長:リアン・リ
  レポレッロ:シェンヤン
  ドンナ・アンナ:ローラ・エイキン
  ドン・オッターヴィオ:アンドリュー・ステープルズ
  ドンナ・エルヴィーラ:ミヒャエラ・ゼーリンガー
  マゼット:クレシミル・ストラジャナッツ
  ツェルリーナ:カロリーナ・ウルリヒ
  合唱:新国立劇場合唱団
  管弦楽:東京交響楽団

予習したのは以下の2つです。

 2014年ザルツブルク音楽祭 NHK放映
  2014年8月 モーツァルト劇場(ザルツブルク)

 <歌手>
 ドン・ジョヴァンニ:イルデブランド・ダルカンジェロ
 騎士長:トマシュ・コニェチュニ
 ドンナ・アンナ:レネケ・ルイテン
 ドン・オッターヴィオ:アンドルー・ステープルズ
 ドンナ・エルヴィーラ:アネット・フリッチュ
 レポレルロ:ルーカ・ピサローニ
 ツェルリーナ:ヴァレンティナ・ナフォルニツァ
 マゼット:アレッシオ・アルドゥイーニ

 <合 唱> ウィーン・フィルハーモニア合唱団
 <管弦楽> ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
 <指 揮> クリストフ・エッシェンバッハ
 <演 出> スヴェン・エリック・ベヒトルフ


 1954年ザルツブルク音楽祭
  ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウィーン・フィル
  1954年8月6日、於フェルゼンライトシューレ

 ドン・ジョヴァンニ:チェーザレ・シエピ
 騎士長:デジュー・エルンスター
 ドンナ・アンナ:エリーザベト・グリュンマー
 ドン・オッターヴィオ:アントン・デルモータ
 ドンナ・エルヴィーラ:エリーザベト・シュヴァルツコプフ
 レポレルロ:オットー・エーデルマン
 ツェルリーナ:エルナ・ベルガー
 マゼット:ヴァルター・ベリー

いずれもザルツブルク音楽祭の記録ですが、最新のハイヴィジョン映像と古いモノラルのCDという違いがあります。ちょうど60年を隔てていますね。何と言っても、古い録音のほうはフルトヴェングラーの指揮で素晴らしいです。また、当時を代表する素晴らしい歌手たちの歌唱も見事です。とりわけ、チェーザレ・シエピは凄いですね。グリュンマーとシュヴァルツコプフと言う2大ソプラノの競演も聴きものです。エーデルマンは貫禄の歌唱です。でも主役はフルトヴェングラーの指揮したウィーン・フィルの美しくて、深みのある響き。臨場感もあるよい録音です。



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08/04 21:31 G線上のアリア

じじいさん、コメントありがとうございます。saraiです。
思えば、もう10年前のコンサートです。
これがsaraiの聴いたハイティンク最高のコンサートでした。
その後、ザル

07/08 18:59 sarai

CDでしか聴いてはいません。
公演では小沢、ショルティだけ

ベーム、ケルテス、ショルティ、クーベリック、
クルト。ザンデルリング、ヴァント、ハイティンク
、チェリブ

07/08 15:53 じじい@

saraiです。
久々のコメント、ありがとうございます。
哀愁のヨーロッパ、懐かしく思い出してもらえたようで、記事の書き甲斐がありました。マイセンはやはりカップは高く

06/18 12:46 sarai

私も18年前にドレスデンでバームクーヘン食べました。マイセンではB級品でもコーヒー茶碗1客日本円で5万円程して庶民には高くて買えなかったですよ。奥様はもしかして◯良女

06/18 08:33 五十棲郁子

 ≪…明恵上人…≫の、仏眼仏母(ぶつげんぶつも)から、百人一首の本歌取りで数の言葉ヒフミヨ(1234)に、華厳の精神を・・・

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通りすがりさん

コメント、ありがとうございます。正直、もう2年ほど前のコンサートなので、詳細は覚えておらず、自分の文章を信じるしかないのですが、生演奏とテレビで

05/13 23:47 sarai
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