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ティーレマン+ウィーン・フィルのベートーヴェン交響曲チクルスへの助走:交響曲第8番③ウィーン・フィル

ティーレマン+ウィーン・フィルのベートーヴェン交響曲チクルスの第4日(11月17日(日):交響曲第8番、第9番)のプログラムについて、聴いていきます。

なお、予習に向けての経緯はここ
交響曲第1番についてはここ
交響曲第2番についてはここ
交響曲第3番《英雄》についてはここ
交響曲第4番についてはここ
交響曲第5番《運命》については1回目はここ、2回目はここ、3回目はここ
交響曲第6番《田園》については1回目をここ、2回目をここ、3回目をここ
交響曲第7番については1回目をここ、2回目をここ、3回目をここ、4回目をここ、5回目をここ、6回目をここ
交響曲第8番については1回目をここ、2回目をここ、3回目をここ
交響曲第9番については1回目をここ、2回目をここ、3回目をここ、4回目をここに書きました。

(全予習が完了したので、全予習へのリンクを上記に示します。参考にしてくださいね。)

今回は前回に続いて、交響曲第8番ヘ長調 Op.93について聴きます。

今回はウィーン・フィルの1954年から2009年までの7枚を聴きます。

以下、録音年順に感想を書いていきます。


フルトヴェングラー 1954年録音

 これは全集盤(EMI)ではなく、亡くなる僅か3か月前のザルツブルク音楽祭の閉幕コンサート(1954年8月30日)のライブ録音です。このコンサートでは、第7番も一緒に演奏されました。さらに大フーガの管弦楽版も演奏されました。本稿の意図からは外れますが、それも是非、取り上げたいので、以下に感想を書きます。第7番については既に感想を書きました。それにしても、この最晩年のフルトヴェングラーの孤高の境地たるや、恐ろしいほどのもので、ベートーヴェンの交響曲の第5番から第9番まで、大変な演奏ばかりです。実はこのザルツブルク音楽祭の閉幕コンサートの3週間後、ベルリン・フィルとの2回のコンサート(9月19日、20日)がフルトヴェングラーの最後のコンサートになりますが、このときにベートーヴェンの交響曲第1番を取り上げており、録音も残っているようです。これがフルトヴェングラー最後のベートーヴェンのようです。是非とも1度聴いてみたいものです。

 第1楽章、矢折れ、刀尽きた英雄が最後の力を振り絞っているかの如きの演奏に聴こえてしまいます。巨匠の死が迫っているのを知っている聴き手の感傷でしょうか。時折、平明な美しさが感じられます。
 第2楽章、ウィーン・フィルの美しい弦楽合奏による、たおやかな音楽です。
 第3楽章、古典的な造形美の音楽。ただ、音楽の歩みが重く感じられます。第1楽章と同様です。フルトヴェングラーの肉体・精神の状態を反映しているのでしょうか。
 第4楽章、これはとても気力が充実した演奏。文字通り、生命を燃焼するような演奏に思えてなりません。見事にフィナーレを締めくくります。

 次に大フーガが演奏されました。ベートーヴェンが9曲の交響曲を書き上げた後、後期の弦楽四重奏曲、5曲を作曲しますが、第13番の終楽章として、作曲された大フーガは中でも革新的で素晴らしい作品です。ポスト交響曲第9番として、この大フーガを巨匠の最晩年の演奏で聴いてみましょう。

 大フーガ、激しく切ない音楽です。ウィーン・フィルの弦楽セクションの見事なアンサンブルを駆使して、生命を燃やし尽くすような白鳥の歌。身もだえするような音楽が永遠に続いていくように感じます。そして、深く沈潜するような内面からの声が聞こえてきます。大変、深い感動を与えてくれる演奏でした。

シュミット・イッセルシュテット 1968年録音

 全集盤からの1枚です。

 第1楽章、とてもスケールの大きな演奏。ウィーン・フィルの美しいアンサンブルが響き渡ります。高弦の美しいこと、その艶っぽさに感銘を受けます。演奏の切れも素晴らしく、シュミット・イッセルシュテット会心の演奏と言えるでしょう。
 第2楽章、リズムの刻みとメロディーラインのバランスが絶妙でとても美しいです。
 第3楽章、響きのたっぷりしたリッチな音楽です。
 第4楽章、何も言うことなし。ともかく、愉悦に浸れる素晴らしい音楽が展開されます。弦はもとより、木管の美しい響きが印象的です。

ベーム 1972年録音

 全集盤からの1枚です。

 第1楽章、凝縮力の高い演奏。ちょっと、響きが硬い印象もあります。後半にかけて、音楽の展開がドラマティックに感じられます。それだけ、求心力が強い演奏とも言えるでしょう。
 第2楽章、ゆったりしていますが律動的な要素に重点を置いた表現です。
 第3楽章、力感に重点を置いた表現。トリオは牧歌的です。
 第4楽章、出だしは響きが混濁して聴こえますが、次第に響きが純化され、表現も美しくなっていきます。最後は力強さも増して、堂々としたフィナーレです。

バーンスタイン 1978年録音

 全集盤からの1枚です。

 第1楽章、まとまりはありますが、今一つのりきれていない印象。バーンスタインらしい溌剌さもさほど感じられず、ウィーン・フィルの響きの美しさも物足りない感じです。
 第2楽章、これももう一つ、リズミックさが物足りない感じです。バーンスタインとウィーン・フィルがお互いに遠慮しあったような中途半端さを感じます。
 第3楽章、これは響きも豊かでふわっとした音楽作りが美しいです。トリオの牧歌的な響きも美しいです。
 第4楽章、この楽章は響きも音楽の流麗さも申し分ありません。特にトゥッティでの精悍さは素晴らしいです。コーダのアンサンブルも最高です。終わりよければ、すべてよしというところですね。何といってもライブですからね。

アバド 1987年録音

 全集盤からの1枚です。

 第1楽章、ウィーン・フィルの柔らかい響きを存分に活かした演奏。アバドらしく、終始一貫続いていく美しい演奏には感銘を受けます。
 第2楽章、この楽章も美しいです。弦の奏でるメロディーが美しく響きます。満足です。
 第3楽章、たっぷりした美しい響きで堪能させてくれる演奏。トリオは憧れに満ちた音楽です。
 第4楽章、実に活き活きと勢いのある演奏。アバドの気魄めいたものも垣間見えます。

ラトル 2002年録音

 全集盤からの1枚です。

 第1楽章、細部にはユニークな表現もみられますが、全体としては意外にオーソドックスで美しい響きの演奏です。
 第2楽章、驚くほどクリアーな演奏。ウィーン・フィルの美質とラトルの洗練さがぴったり合ったものなのかしらね。。
 第3楽章、この楽章はもっとたっぷりと豊かな響きで満たしてほしかった感じに思えます。アバドの演奏スタイルのほうがよかったような・・・。
 第4楽章、これは素晴らしいです。響き、流れ、共に満足です。微妙な間や弱音の繊細さまで見事に決まっています。いかにもラトルらしい知的な音楽作りの技を見せつけられた思いです。

ティーレマン 2009年録音

 もちろん、これを聴くのが目的! これを最後に聴きます。

 第1楽章、驚くほど、柔らかな開始。優美な演奏が続いていきます。次第に精悍な顔に変容していきます。最後は整然としたコーダ。
 第2楽章、清潔感のある演奏です。バランスもとってもいいです。
 第3楽章、丁寧に表情付けをした細心の演奏。トリオも実に丁寧な演奏です。
 第4楽章、押しまくる演奏ではなく、流麗で優美な演奏。とても美しい演奏です。終盤、タメを作ったりして、やはり、ティーレマンらしい演奏ではありますが、もっと迫力のある演奏をしてくるだろうと思ったのは大外れでした。こういうティーレマンの演奏もいいですけどね。


今回聴いたウィーン・フィルの演奏もいずれも素晴らしいものばかりです。フルトヴェングラーの演奏は別格ですが、どれか、選ぶのなら、シュミット・イッセルシュテットとアバドでしょうか。ティーレマンもほぼ同レベルです。ウィーン・フィル以外の演奏にも名演が目白押し。トスカニーニ、ワルター、シューリヒトという3巨匠は格別ですし、ハイティンク、バーンスタイン(ニューヨーク・フィル)、クーベリック、コンヴィチュニーも見事な名演奏です。この第8番は何故か、素晴らしい演奏が多いようです。

最後に肝心のティーレマンのベートーヴェン・チクルスの聴きどころです。

 1.実演でも、こういう優美な演奏をするのか、それとも迫力ある演奏に変容するのか、とても興味深いところです。かなり即興性のあるティーレマンなので、その場にならないと分からないでしょう。
 2.もし、優美な演奏なら、ウィーン・フィルの美しい響きを思いっ切り楽しむことになりますね。
 3.いずれにせよ、この第8番の後に、休憩後とは言え、大曲の第9番が控えているので、あまり、この第8番に入れ込み過ぎると、聴き手のこちらの体力が持ちませんから、ほどほどにして、聴くことも肝要です。。


次回は遂に交響曲第9番に突入します。やはり、凄い演奏が目白押しです。


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首都圏の様々なジャンルのクラシックコンサート、オペラの感動をレポートします。在京オケ・海外オケ、室内楽、ピアノ、古楽、声楽、オペラ。バロックから現代まで、幅広く、深く、クラシック音楽の真髄を堪能します。
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