ティーレマン+ウィーン・フィルのベートーヴェン交響曲チクルスへの助走:交響曲第9番①ウィーン・フィル以外
今回もティーレマン+ウィーン・フィルのベートーヴェン交響曲チクルスの第4日(11月17日(日):交響曲第8番、第9番)のプログラムについて、聴いていきます。
なお、予習に向けての経緯はここ。
交響曲第1番についてはここ。
交響曲第2番についてはここ。
交響曲第3番《英雄》についてはここ。
交響曲第4番についてはここ。
交響曲第5番《運命》については1回目はここ、2回目はここ、3回目はここ。
交響曲第6番《田園》については1回目をここ、2回目をここ、3回目をここ。
交響曲第7番については1回目をここ、2回目をここ、3回目をここ、4回目をここ、5回目をここ、6回目をここ。
交響曲第8番については1回目をここ、2回目をここ、3回目をここ。
交響曲第9番については1回目をここ、2回目をここ、3回目をここ、4回目をここに書きました。
(全予習が完了したので、全予習へのリンクを上記に示します。参考にしてくださいね。)
今回からは遂に、交響曲第9番ニ短調 Op.125について聴いていきます。
交響曲第9番は交響曲第8番が作曲された1812年から12年後の1824年に初稿が完成しました。大変な労作だったわけです。初演は1824年5月7日にウィーンで行われました。この第9番は規模も大きく、4人の独唱者と4部合唱を必要とするため、完全な形での演奏が困難で初演後、しばらくしてからは演奏されなくなりました。これを完全復活させたのは誰あろう、リヒャルト・ワーグナーです。それ以来、この第9番は傑作とされるようになりました。また、ワーグナーはバイロイト祝祭劇場の建設を始めるにあたり、その定礎を記念して、この第9番を演奏しました。その所以もあって、この第9番はバイロイト音楽祭で演奏される唯一のワーグナー以外の作品になっているそうです。今回取り上げる演奏として、フルトヴェングラーが第2次世界大戦後に復活した1951年のバイロイト音楽祭での演奏をありますが、これはそういう事情からのものです。フルトヴェングラー以外には、リヒャルト・シュトラウス、パウル・ヒンデミットがバイロイト音楽祭で第9番を演奏しています。そして、2001年にはティーレマンも演奏しました。フルトヴェングラー最後のバイロイト音楽祭での演奏は1954年ですから、ほぼ、半世紀後になります。こういう事実からも、今回のティーレマン+ウィーン・フィルのベートーヴェン交響曲チクルスは日本における大変重要な音楽的事件であることが分かります。
第9番については、語っても語りつくせないものがありますが、それ以上に名指揮者たちが全身全霊を込めた名演奏が多く残っていることが重要です。
その名演の数々を聴いていきます。今回から4回に分けて、ご紹介します。特に、フルトヴェングラーは最重要なので、2回に分けての特集です。
・ウィーン・フィル以外(6枚)
・フルトヴェングラー(7枚+)は2回シリーズで
・ウィーン・フィル(6枚)
計19枚以上聴きます。
今回はウィーン・フィル以外の6枚を聴きます。
以下、録音年順に感想を書いていきます。
トスカニーニ、NBC交響楽団 1952年録音 モノラル
こちらは2回目の全集盤です。最近リリースされたトスカニーニ大全集からの1枚です。
第1楽章、引き締まったアンサンブル。そして、明快なスタイル。トスカニーニは確信を持って、己が道を突き進みます。一気呵成な演奏です。
第2楽章、素晴らしいアンサンブル。一糸乱れずに見事な響きです。
第3楽章、天国的な美しい世界を描き切っています。ここまで、各楽章の性格を描き分けてみせたのは実に見事。天上からの美しい光が差してくるような素晴らしい演奏です。
第4楽章、冒頭の素晴らしい響き・・・これは凄い。パーフェクトです。続く「歓喜」の主題も実に美しい演奏。バス独唱のはいりも立派です。独唱陣、合唱も加わり、素晴らしい高みに上っていきます。声楽陣も素晴らしく、音楽的頂点が続き、圧巻のフィナーレ。感動です。
ワルター、コロンビア交響楽団 1959年録音
全集盤(2回目)からの1枚です。
第1楽章、彫琢された素晴らしいとしか言いようもない音楽です。すべてを包み込んでくれるような大きさと格調の高さがあります。
第2楽章、このオーケストラとしては最高のアンサンブルのパフォーマンスを発揮した見事な演奏。余程のメンバーを揃えたのでしょう。品格がある上に切れのよいアンサンブル。
第3楽章、これはこれは何という演奏でしょう。音楽の“美”の頂点を極めたような演奏です。この演奏は少年時代から聴き続けてきたものですが、この歳になって、ようやく、この音楽の素晴らしさが実感できました。まあ、この音楽は子供には分からなかったかもしれません。体の奥底から静かな感動が湧き起ってきます。永遠の時を刻んでいくように感じる音楽です。
第4楽章、これまでの静けさを打ち破るように強烈な響き。続く説得力のある音楽。見事なアンサンブルに耳を傾けるのみです。肌触りのよいこと、この上なし。管弦楽の演奏する「歓喜」の主題が頂点に達するところでは早くも感動。声楽とオーケストラが混然一体になっての演奏ではもう感動の嵐です。そして、フィナーレではどうしようもない感動に打ち震えます。
コンヴィチュニー、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 1959/61年録音
全集盤からの1枚です。
第1楽章、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の美しい響き。そのリッチなサウンドがゆったりとしたテンポで偉大な曲を紡いでいきます。これはとても素晴らしい演奏です。
第2楽章、これもとんでもなく切れ味のよいライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の響き。ただただ、陶然として聴き惚れるだけです。
第3楽章、これはこの曲の美しい雰囲気を出し切れずに少し硬い表情になっています。しばらくすると、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団本来の素晴らしい響きが聴こえてきます。弦主体の演奏は深い響きで魅了します。
第4楽章、管弦楽の演奏する「歓喜」の主題は素晴らしい響きです。うっとりと聴き惚れます。テオ・アダムのバス独唱が素晴らしく充実しています。声楽陣が素晴らしく充実しており、圧倒されます。教会の合唱隊を思わせるような清らかな合唱に胸が熱くなります。最後の4重唱の素晴らしさ、続く合唱も素晴らしく、これでは感動するしかありません。圧巻のフィナーレです。
クーべリック、バイエルン放送交響楽団 1975年録音
全集盤からの1枚です。すべて、異なるオーケストラを指揮した画期的な全集ですが、この第9番はバイエルン放送交響楽団を指揮しています。
第1楽章、まさに世界の創造という感じの悠久の広がりのある演奏。成熟という言葉がしっくりくるような音楽であり、演奏です。
第2楽章、リズム感に優れた表現で実に切れがよいです。中間部での木管の響きの美しさは特筆に値します。
第3楽章、敬虔とでも言うような厳かな響きに実に心が清められる思いです。ワルターの演奏した究極の美を再び思い起こさせます。
第4楽章、くっきりと曲想が浮かび上がる明確なメッセージ性を持った演奏です。気品も感じられます。トマス・スチュアートの独唱もさすが。豪華な歌手たちの4重唱もさすが。特にヘレン・ドナートの美声が素晴らしいです。フィナーレの大合唱とオーケストラの大音響がヘラクレスザール(多分ね)の強靭なホールに響き渡るのは凄い迫力です。
ジュリーニ、ベルリン・フィル 1989/90年録音
ジュリーニが全集を残さなかったのはとても残念です。それでも第9番はこの録音があります。
第1楽章、明快にして、雄渾。一点の曇りもありません。ベルリン・フィルのパーフェクトなアンサンブルにも感嘆の念を禁じえません。
第2楽章、シンフォニックな演奏。豊かな響きです。
第3楽章、ゆったりとした静かな演奏ですが、芯のしっかりした響き。弱音でさえもあくまでもシンフォニック。特に低弦の響きが美しいです。この曲では低弦の響きが音楽の持つ内面性をうまく表現できますね。
第4楽章、ベルリン・フィルらしく、硬質の響きで隈取のはっきりした演奏。低弦の美しさが群を抜いています。声楽陣は可もなく不可もなしという出来に感じます。オーケストラの響きが上回っています。もったいないですね。それでも、後半では、合唱も段々と研ぎ澄まされて、純化してきます。コーダのオーケストラは凄い突っ込みです。
全体の演奏の出来としては、ジュリーニならば、シカゴ交響楽団かウィーン・フィルと演奏すれば、もっとよかったのではないかというのが正直な感想です。
ハイティンク、ロンドン交響楽団 2006年録音
全集盤(3回目)からの1枚です。
第1楽章、活力あふれる演奏。ハイティンクの気力十分。ダイナミックレンジが大きくとられた優秀録音で、ボリューム大き目で聴く必要があります。
第2楽章、精度の高い演奏です。ロンドン交響楽団のアンサンブルもよく揃っています。
第3楽章、何とも肌触りの優しい音楽。過去・現在・未来、すべてを慈しむような優しさにあふれています。癒しでの音楽というよりも、すべてをそっと包み込んでくれるような音楽。ハイティンク畢生の名演です。
第4楽章、ここまできて、ようやくオーケストラの配置が対向配置であることに気が付きました。それはそれとして、実に丁寧な演奏です。独唱、合唱、オーケストラのアンサンブルがとても素晴らしいです。じわじわと感動が込み上げてきます。後半の合唱も素晴らしく、もう感動しっぱなしです。10分間、涙の滲む思いでした。本当に素晴らし過ぎる最高の第9番でした。人生最高の名盤のひとつです。
ここまで凄い演奏ばかり。とりわけ、ハイティンク、ロンドン交響楽団の素晴らしさには圧倒されました。ワルター、トスカニーニも超名演です。
次回はこの交響曲第9番の一番の聴きもの、フルトヴェングラーの伝説の録音を聴きます。身が引き締まる思いです。
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この記事へのコメント
ちょっと昨日の演奏について教えてください。 3列34番で聴いたのですが、人間の声より器楽の音が目立ち、フルトヴェングラーのLPや中之島のアバトの演奏に比べ肉声が主役になっていないと感じられました。これは、単に聴いた位置の問題であるのか、他の聴衆は違和感がなかったのでしょうか。 アバトの公演では、後ろに立った歌手が良く見えたのに反し、サントリーホールでは歌手が良く見えない低い位置にいるように感じたのですが ?
2, saraiさん 2013/11/18 15:47
和田さん、初めまして。
私は4列30番でした。同じような位置ですね。そんなに違和感は感じませんでしたが、人それぞれでしょう。合唱はよく聴こえてバランスがいいと感じました。4重唱は少し聴こえにくかったかもしれません。サントリーホールは前列に傾斜がないため、オーケストラ後方はよく見えません。木管奏者もほとんど見えません。音はちゃんと聴こえますけどね。
ちなみに4重唱では、ソプラノの声が通りにくく、あまり聴こえてきませんでした。CDと同じアネッテ・ダッシュが登場してくれればとは感じました。
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