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暗い情念をシンフォニックに描き切った《未完成》&《悲愴》 インバル&東京都交響楽団@ミューザ川崎シンフォニーホール 2018.3.31

前半のプログラムの《未完成》は爽やかなロマンと暗い情念が錯綜するような音楽を完璧とも思えるアンサンブルで描きあげます。第1ヴァイオリン群の弱音の響きは気魄にみちて、繊細さの限りを尽くしています。暗い情念が支配的に思えたとき、突然とも思える終止になります。この《未完成》が未完成たることを痛感させられるように、長大な交響曲になる筈だった音楽は第2楽章で終わってしまいます。今日の演奏ほど、この作品の完成形を聴きたくなるような演奏は聴いたことがありません。これまではいつも2楽章だけで充足感がありました。今日は明らかに4楽章構成の交響曲の前半の2楽章だけを聴いた感じになりました。残りの2楽章を聴き終えたときに暗い情念は支配的になったままなのか・・・それとも祝典的なロマンを歌い上げるのか。決して知ることのできない謎です。そういう含みを残した見事な音楽表現をインバルは描き出してくれました。

後半のプログラムは《悲愴》。今日のプログラムは有名過ぎるほどの曲を並べたものですが、インバルは正面から、それらの曲に取り組み、聴き手を退屈させることはありません。《悲愴》は《未完成》と共通するように暗い情念が渦巻いているような演奏です。ただし、絶望感に陥ることは決してありません。あくまでもシンフォニックな響きが支配的でチャイコフスキーが己の死を予感したような感じはありません。この曲はチャイコフスキーの“遺作”ではなくて、さらに後続する音楽が書かれることを前提としていたことをインバルは示してくれました。チャイコフスキーはもっと長生きをして、さらなる名作を作曲するはずだったということを確信させてくれるような演奏でした。
《未完成》はまだ継続中の音楽だし、《悲愴》も決して最後の音楽ではない・・・インバルの提示した音楽コンセプトは途轍もありませんね。saraiの深読みかも知れませんが、あえて、インバルがこういう名曲アワーのようなプログラムを組んだからには、これくらいの意図はあって当然でしょう。

インバルが再び、都響の指揮台に戻ってくるのは1年後です。それまで、saraiも都響とはお別れかな・・・。

今日のプログラムは以下のとおりです。

  指揮:エリアフ・インバル
  管弦楽:東京都交響楽団


  シューベルト:交響曲第7番 ロ短調 D759《未完成》

   《休憩》

  チャイコフスキー:交響曲第6番 ロ短調 Op.74《悲愴》


最後に予習について、まとめておきます。

《未完成》を予習したCDは以下です。

 ブルーノ・ワルター指揮ニューヨーク・フィル 1958年

今更、予習するような曲ではありません。頭に刷り込まれたようなワルターの名演を聴きます。ただし、ハイレゾで聴きました。これまでの響きが豊か過ぎるようなCDではなく、すっきりした音質です。演奏はもちろん最高です。ちなみにこの演奏では《未完成》は2楽章で完璧に終わっています。完成された《未完成》です。

《悲愴》を予習したCDは以下です。

 レナード・バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィル 1986年
 テオドール・クルレンツィス指揮ムジカエテルナ 2015年

いずれも異色の演奏という評判です。まず、バーンスタイン盤ですが、期待したほどではありませんでした。聴いたCDの音質があまりよくなかったからかもしれません。良質のCD、できればハイレゾの演奏を入手して、聴き直す必要があります。クルレンツィス盤は予期したような異色の演奏ではなく、正攻法での演奏です。これが凄い! ムラヴィンスキー盤と並ぶような名演です。ムジカエテルナのアンサンブルも個々の奏者たちの力量も素晴らしいです。録音も最高です。



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首都圏の様々なジャンルのクラシックコンサート、オペラの感動をレポートします。在京オケ・海外オケ、室内楽、ピアノ、古楽、声楽、オペラ。バロックから現代まで、幅広く、深く、クラシック音楽の真髄を堪能します。
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07/08 15:53 じじい@

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久々のコメント、ありがとうございます。
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06/18 12:46 sarai

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