恐るべし!チョン・キョンファ 圧倒的なブラームス@宮崎芸術劇場 2018.5.6
で、今回はそれほど大きな期待はせずに(と言ってももしかしたらという思いは常にありますけどね)、コンサートに臨みます。実は予習したCD、サイモン・ラトル指揮ウィーン・フィルとの演奏が13年前の実演を思い出させるようなメランコリックな抑え気味の演奏でsaraiの好みとは離れたところにあったのも期待感を減じる一因でもありました。このCDはあまり流通していないようですが、あまり、お勧めではありません。今日の演奏を聴いた後では猶更でチョン・キョンファの実像とはかけ離れた演奏記録です。
後半のプログラムが始まり、いよいよ、チョン・キョンファの登場です。白いドレスに身を包んだ姿は以前に比べて、お年を召されていますが、その小さな体からは強いオーラを放っています。前回と違って、演奏前から、その姿を見るだけでこちらの気持ちが高揚してきます。管弦楽の長い前奏が始まります。今日の下野竜也指揮宮崎国際音楽祭管弦楽団は何故か、ブラームスらしい素晴らしい音楽的響きを奏でています。日本人指揮の日本人オーケストラでは、これまで聴いたことのないようなブラームスを実感するような響きです。この前奏だけでもさらにsaraiの心が高揚してきます。当のチョン・キョンファは指揮者やオーケストラのメンバーを眺めながら、ニヤリと笑ったり、真剣な表情になったり、まさに天衣無縫ぶりを発揮しています。そうです。これでこそチョン・キョンファです。何か起こるという予感が沸き起こります。そして、遂にチョン・キョンファのヴァイオリンがオーケストラの演奏に割って入ります。無駄のない正確なボウイングで精神性の高い響きの演奏です。前回聴いたときとはまったく別人のような演奏です。弾き進むにつれ、そのヴィルトゥオーソぶりが実感できます。現代にもこういうヴィルトゥオーソが存在しているということに驚きを禁じ得ません。これまでも様々なヴァイオリニストでこのブラームスを聴いてきました。素晴らしい演奏も数々聴きました。しかし、今日のチョン・キョンファの演奏はまったくと言っていいほど、次元の異なる演奏でほかと比較できるような演奏ではありません。熱いとか激しいとかそういう普通の表現の枠の外にあるような演奏です。音楽の女神ミューズが舞い降りてきて、チョン・キョンファに憑依したかのような究極の音楽です。そのヴィルトゥオーソぶりに圧倒されているうちに第1楽章が終わります。カデンツァの素晴らしさが耳に残りましたが、それ以外はsaraiの音楽的受容力を超えた圧倒的な演奏でした。何がどう凄かったのか・・・どうしても理解できません。そもそも鑑賞していたのではなく、ただただ、その演奏に圧倒されていたのですから当然です。それでも少しは聴き取れたことを反芻してみましょう。ヴァイオリンのテクニックと音楽表現力、さらには厳しい精神性がないまぜになった音楽であったような気がします。これまでsaraiが聴いたこともないような異次元の演奏でした。
しかし、この第1楽章の圧倒的演奏はまだ序章に過ぎませんでした。第2楽章、長いオーボエソロが続き、陶然となっていると、チョン・キョンファのヴァイオリンの高弦の美しい響きが魂を揺さぶるように抒情的な旋律を奏で始めます。恐ろしいほどに研ぎ澄まされた音楽表現です。たまらず、感動のあまり、涙が滲んできます。これほどに美しい音楽を人生で何度聴いたことがあるでしょう。時折、オーケストラとも絡みながら、息の長い抒情旋律が永遠を感じさせるように続いていきます。そして、いつしか、終焉を迎えます。
間髪を入れず、第3楽章に突入していきます。リズムと勢いに満ちた愉悦の音楽をチョン・キョンファはヴィルトゥオーソぶりを存分に発揮しながら、疾走していきます。そこにはまったく、無駄も隙もありません。達人がオーケストラを鼓舞しながら、歩を進めていくだけです。爽快であり、ロマン性に満ちた演奏に心が高揚し、短いカデンツァを経て、簡潔なフィナーレに至ります。パーフェクトな締めでした。
こんなブラームスを聴くことはきっと2度とないでしょう。素晴らしい音楽体験でした。チョン・キョンファの底知れぬ音楽的実力に酔いしれたコンサートでした。
プログラムは以下です。
第23回宮崎音楽祭 演奏会〔3〕
「レジェンドの帰還 ~ チョン・キョンファのブラームス」
指揮:下野竜也
ヴァイオリン:チョン・キョンファ
管弦楽:宮崎国際音楽祭管弦楽団
ブラームス:大学祝典序曲 Op.80
ブラームス:交響曲第4番 ホ短調 Op.98
《休憩》
ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.77
《アンコール》
J.C.バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番ニ短調 BWV1004より第5曲《シャコンヌ》
そうそう、アンコールも凄かったんです。チョン・キョンファがアンコールに先立って、スピーチを始めます。アンコール曲には2つのチョイスがあって、1つはバッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタのGマイナーの第1楽章のアンダンテ・・・あるいは・・・シャコンヌ! saraiはすぐに反応して、シャコンヌと叫びます。チョン・キョンファのスピーチはバッハとブラームスの話が延々と続きますが、やがて、ヴァイオリンを構えて、あの長大なシャコンヌを弾き始めます。こういう場面で弾くアンコール曲ではありませんね。チョン・キョンファはヴィルトゥオーソというよりも、バッハの使徒のように究極の名曲を永遠を感じさせながら演奏しました。感慨深い演奏でした。チョン・キョンファならではのバッハであったように思います。チョン・キョンファのソロ・コンサートまで聴いたような感じでとっても満足しました。
あっ、前半のプログラムに触れませんでしたね。最初の大学祝典序曲からブラームスらしさが横溢したような素晴らしい演奏でした。よく聴くとこの曲はブラームスのほかの管弦楽曲、悲劇的序曲とかハイドンの主題による変奏曲にも引けをとらない名曲ですね。あまり、よい録音がないのがもったいないことです。ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団のCDを予習しましたが、これは素晴らしい演奏でした。一聴をお勧めします。
そして、ブラームスの交響曲第4番、これは名演といっても間違いない素晴らしい演奏でした。臨時編成のオーケストラだったことがよいほうに作用したのか、はたまた、下野竜也の指揮がよかったのか、ちょっと渋めのブラームスの響きに心を揺さぶられました。久しぶりに実演でこの曲のよい演奏を聴いて、得をした気分です。だって、まったく期待していませんでしたからね。
↓ saraiのブログを応援してくれるかたはポチっとクリックしてsaraiを元気づけてね
いいね!

- 関連記事
-
- 贅沢な音楽会 高木綾子フルート・リサイタル@宮崎音楽祭 2018.5.7
- 恐るべし!チョン・キョンファ 圧倒的なブラームス@宮崎芸術劇場 2018.5.6
- 宮崎音楽祭に遠征