最高!マレイ・ペライア・ピアノ・リサイタル@サントリーホール 2011.11.5
ペライアと言えば、ずっと、モーツァルト弾きという印象がありましたが、最近、彼のCDに少しはまっていて、印象が変わりつつあるところです。バッハ、ベートーヴェンなど素晴しいCDです。とはいっても、今も彼が弾き振りをしたモーツァルトのピアノ協奏曲全集を聴いているところです。
今日のリサイタルですが、そのモーツァルトの曲目はないプログラムでしたが、まったくもって素晴しいリサイタルで、saraiの独断と偏見で彼を現存する世界最高のピアニストと断じたいと思います。それほど素晴しい演奏でした。まさか音楽の都ウィーンから帰国後1週間も経たずして、こんな素晴しい音楽が東京で聴けるとは思ってもみませんでした。我が生涯で最高のピアノ・リサイタルでした。
透き通るようなピュアーなタッチと決して濁らない響きの素晴しい音をベースに実に丁寧で音楽的な表現、まさにsaraiがピアノ演奏に求めるすべてが完璧に備わっている演奏でした。バッハからショパンに至るまで、ゆるぎのない安定した表現は驚異的でもありました。
今日のプログラムは以下です。
J.S.バッハ:フランス組曲第5番 ト長調 BWV816
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第27番 ホ短調 op.90
ブラームス:4つの小品 op.119
《休憩》
シューマン:『子供の情景』 op.15
ショパン:24の前奏曲から第8番 嬰ヘ短調 op.28
:マズルカ第21番 嬰ハ短調 op.30-4
:スケルツォ第3番 嬰ハ短調 op.39
《アンコール》
ショパン:練習曲 ホ長調 op 10-3「別れの曲」
ショパン:練習曲 嬰ハ短調 op. 10-4
シューベルト:即興曲 変ホ長調 op. 90-2, D.899/2
まずはバッハです。最近、彼が力を入れている作曲家です。彼が登場し、拍手が止み、ピアノの前に座ると、ホール全体が異常な静けさ。聴衆の期待感とそれにペライア自身の静かなオーラでホールが満たされます。静かで軽快な音でフランス組曲が始まります。何と素晴しく透明なタッチでしょう。生でこんなバッハが聴けるなんて、感動です。第3曲のサラバンドの静謐な響きは何者にも比肩できません。うっとりとして聴きいるだけです。何も語る必要のないパーフェクトな演奏です。パルティータも聴いてみたくなるところですが、もう十分にバッハを味わわせてもらいました。これでリサイタルを終えてももう満足という感じです。
次はベートーヴェンです。一転してベートーヴェンらしい張りのある和音がばーんと響きわたります。それでいて、一貫して、透明なタッチは変わりません。ベートーヴェンのソナタでは演奏機会が多いとは言えない曲ですが、ベートーヴェンのソナタはすべて選りすぐりの名曲揃いです。その名曲を素晴しい響きで弾き進め、saraiはあまりの素晴しさにうなります。人によってはもっと重厚な表現を求めるかもしれませんが、CDでもクラウディオ・アラウの新旧の演奏が一番のお好みであるsaraiにとって、こういうベートーヴェンが最高です。やはり、ベートーヴェンといえども美しくなくてはねと思います。
前半の最後はブラームスです。前半のプログラムだけで、バッハ、ベートーヴェン、ブラームスとくるのは音楽の王道を行くようなものですね。1曲目の《間奏曲》の音の雫が天から降ってくるような演奏には参ります。なんという響きでしょう! こういう音楽を作曲したブラームスはもちろん偉大ですが、ピアノ演奏の極致ともいえる表現です。《4つの小品》という名前はついていますが、ブラームス最後のピアノ曲はソナタという感じで聴こえます。ブラームスの真髄といっても言い過ぎではない演奏です。彼のブラームスも今後聴きたいと思わされました。
休憩後はシューマンの馴染みの名曲です。美しい響きで聴くこの曲は格別と言えます。第1曲の優しいタッチから、最終曲のしみじみとした表現まで心地よく聴け、まったく素晴しい演奏です。そう言えば、以前、アムステルダムからNHKが生中継したハイティンク+コンセルトヘボウ管の放送でペライアがシューマンのピアノ協奏曲を弾いたことを思い出しました。ハイティンクへのインタビューによると、他の曲を打診していたところ、ペライアの強い希望でシューマンのピアノ協奏曲になったそうです。このときはブルックナーの交響曲第9番がメインだったので、確かに組み合わせとしては少し変わってました。普通はモーツァルトか、ベートーヴェンの1番か、2番っていうところが普通でしょう。最近は彼はシューマンにそれほどの思い入れがあるんだと思います。それに相応しい名演でした。
最後はショパンです。彼のショパンっていうと少し違和感がありましたが、そんな危惧はまったく不要でした。透き通った音色で素晴しいショパン。驚いたのは最後のスケルツォ。美しい演奏でしたが、フィナーレの盛り上がりで珍しく彼の演奏が熱くなり、ミスタッチまであるような凄い力演でした。すべての虚飾をかなぐりすてた彼の捨て身とも言える演奏に胸が熱くなりました。
満場、大変な拍手の嵐。これは誰が聴いてもその素晴しさが分かるリサイタルでした。音楽はみな自分の好みがありますが、この演奏はそういうことを言わせない素晴しさでした。その怒濤の拍手のなか、実に美しい《別れの曲》がアンコールです。美し過ぎる演奏に脱帽です。続けて、さらに練習曲。彼は2曲をセットと考えたようですね。
そして、今日、一番の演奏だったシューベルト。saraiの大好きな即興曲です。この曲は即興曲集の他の曲に比べて、今まではもうひとつに感じていましたが、この演奏でこの曲の真価を知りました。流れるような音列のピュアーな響きの美しさ、強打する和音の透徹した力強さ、シューベルトを超えたシューベルトです。今後、彼のシューベルトを聴くのが楽しさです。
最後はスタンディングオベーションで彼の演奏を讃えてました。まだ、聴いていない素晴しいピアニストもいることを承知の上で、ペライアは世界最高のピアニストであると思いました。異論もあるでしょうが、それほどの演奏であったというでお許しくださいね。
今日は2回のピアノ・リサイタルを聴いて、実に充実した1日となりました。
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